横目扇
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2016/11/15 21:07 UTC 版)
杉板目(横目)材。23橋 - 25橋。近世の山科流では25橋で、杉の糸柾(木目の濃い柾目)がさかんに使用された。また親骨のみ板目であとは柾目の例もあるが、これらは畢竟板目が割れやすいからである。板目は木目の美しさを楽しむ点で装飾的であり、檜より黒味のつよい杉が好まれた理由もここにある。したがって横目扇は女子の扇のように白い下地を塗ることはない。 横目扇はまた泥絵扇ともいうように彩色画をともなった。近世の山科流は極彩色で縁取りした金の源氏雲を描き(金は泥絵具・箔ともに例がある。山科流の女子用は雲に金銀を用いるが、横目扇は金一色)、飛鶴2羽と大松を描き、松の根元の丘には笹を描き、左に群青色の水を配し、水には銀泥で観世水(波)を描き、なかに緑色の亀を描く。これは定番で、山科流では松のおおよその枝ぶり、鶴の向きまで固定していた。高倉流は自由度が高く、松に椿、松や梅や鶴などの祝いの図柄を適宜按配する。また両流の拘束によらないかと思われる中間形式の違例も多い。裏面はやはり源氏雲を描き、5色程度の線描で蝶鳥を密に描く。 要の金具は表に蝶、裏に鳥を配することが多いが、一方が梅の例も多く、これらの全てが後補と断定できない以上、こうした例もあったかもしれない。金銅金具である。要を木釘で固定した後、鋲で要に刺してあることが多く、比較的簡単に抜けてしまうこともある。綴じ糸は紅と黄の2色の糸で綴じる。 蜷飾りは、山科流は紅・緑・黄・紫・白・薄紅の6色。蜷結びを二段作り、一段目と二段目の間でとなりあう紐同士をひっかけてばらつかないようにする。これらの紐は6本を並べて先を下に折って、綴じ糸で強く巻き、結んで固定する。金具などでとめるのは正しくない。山科流以外では薄紅を除く5色ということもあり、5色もしくは6色を各2本使うものも多く、その中には高倉家の特色を強く示すものもあるので、高倉流では二本ずつという方法もあったかもしれない。まれに蜷結びの間に総角結びを作るものもみかけるほか、蜷結びにはせずに梅花形の花結びを作るだけのものもある。このほかにもいろいろなバリエーションがあり、山科流の固定性とは対照的である。山科流横目扇の仕様は『篋底秘記』にくわしく、山科流の典型的な遺品は御物として伝存する。 糸花は、山科流では梅と松。梅は紅白薄紅の三色で、花とつぼみそれぞれの数にも決まりがあるという徹底振りであった。糸花はよりのない生糸製。松は生絹を二つ折りの両端を見せたボンボン。梅は二つ折りの輪のほうを使い、梅のがくの部分以外一切絹の織地は用いない。梅には黄色いしべがあった。黄紙を細く切って作るようである。枝は針金で、よりのない生糸を巻いて表面を隠す。枝の下端は輪になっており、これを赤い絹のより糸で、蜷飾りの上端の下に向けて折って綴じ糸でしばられたところでできる輪状の部分の中に通す。赤い糸は少し余裕を持たせ、糸花がぶらぶら揺れるのが良いとされた。高倉流では、宮中に納める場合など、普通は松と橘のみだが(旧儀御服記)、徳川家祥(のちの家定)におさめたものは女子用のように松梅橘の三種とした(有職文化研究所蔵調進控)。糸花は松梅橘のほかはあまりみかけない。 横目扇は院政期の文献には見られる。糸花は、横目扇でなく白地の扇ながら幼い皇太子の檜扇に松の飾りがあるという承久2年(1220年)の記録(玉蘂)があり、鎌倉時代中期頃より文献で蜷飾りが確認できる(装束式目抄)。中世には横目扇の基本的要素は出揃う。絵も山科流のような極端な固定は近世以後だが、古くから祝い物が用いられたから、松や鶴は古い。また松と椿は後嵯峨天皇即位にまつわる伝承から祝いのものとされ、躬仁親王(称光天皇)元服(國學院所蔵高倉家文書)や足利義持元服の記録に見られ、近世も徳川家祥元服ほかしばしば使用された例がある(有職文化研究所蔵調進控見本)。古い遺品は京都大学に壬生家伝来の鎌倉時代前期のものがある。木目を波に見立て、小さな松の小島を描いて緑青を塗り、上空に鶴が群れ飛ぶという図で、源氏雲はない。裏は群青と緑青で蝶鳥を描く。こちらも無論源氏雲はない。 近世の横目扇は天皇・親王・公家の子息のほか、小舎人など童形の召具(従者)も使用した(近世の賀茂祭勅使の装束資料などからしられる)。公家の元服に必須であったから遺品も多く、時に粗製品をみかけるのは召具所用品なのかもしれない。また浄土真宗系の寺院では公家の娘を内室に持つ寺主の子息が使用したこともあった。骨董オークションでも近世の横目扇らしいものはよく売りに出る。また冷泉家の遺品は写真でいろいろな本に掲載される。もちろん御物にもいくつかの遺品がある。 なお、皇太子が用いてならない道理はないはずだが、実際には皇太子は多く後述の赤色扇もしくは胡粉地扇を使用した。
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