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科学哲学とは? わかりやすく解説

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かがく‐てつがく〔クワガク‐〕【科学哲学】

読み方:かがくてつがく

科学存立根拠科学的認識確実さ妥当性を問う批判的哲学総称。特に論理実証主義分析哲学にこの傾向顕著


科学哲学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/11/09 14:41 UTC 版)

科学哲学(かがくてつがく、英語: philosophy of science)とは、科学を対象とする哲学的な考察のことである[1][2][3][4]

概説

科学哲学とは科学を対象とする哲学的な考察である。

科学という語・概念が登場したのは18世紀のことなので、そういった意味に限定すると、科学哲学というのは18世紀以降のものになる。だが、「科学哲学は哲学の歴史とともに古い」とも言われる[4][2]。「科学」という用語を自然の理論的認識という意味に拡大して解釈すれば、方法的反省の起源というのは哲学の歴史とともに古いからである[2]

科学哲学の目的の一つは、科学というものの持つ限界を人々に自覚させ、科学に関して人々が持っている誤解を解くことである[1]。例えば「科学は、いかなる事象をも取り扱える一つの確固とした学問体系である」などと見なすことは誤解である[1]。また例えば 「科学が与える世界像こそ客観的世界の真の姿である」などと考えるのも誤解である[1]。黒崎宏は次のように指摘した。

科学は、科学的方法といわれる一定の方法に基づいた探究の結果であって、それによって切り捨てられた部分も多いことを、肝に銘じておくべきである。これらのことを教えてくれる科学哲学は、それゆえ、科学者に対してのみならず、今日のわれわれ一般にとっても、きわめて大きな意味がある。

一方、科学者側からは「科学哲学は鳥類学が鳥にとって役に立つ程度しか科学者にとって役に立たない」と言われることがしばしばある。科学は倫理的概念に役立たないという反科学的な主張がなされることがある[5]

歴史

近代以前は、現在の自然科学にあたる分野は自然学ないし自然哲学と呼ばれていた。近代初期においては、ガリレオ・ガリレイルネ・デカルトブレーズ・パスカルゴットフリート・ライプニッツなどに見られるように哲学者と自然科学者の境界は非常に曖昧で、実質的な科学研究を行う傍ら、その哲学的基礎についても考察するというパターンも多かった。18世紀においても、哲学者のイマヌエル・カントニュートン的な空間や時間が人間の認識の枠組みであるというような時間、空間論で知られるほか、引力斥力という二つの力を基礎とする自然哲学を展開するなど、科学の哲学的基礎についての考察を行っていた。

しかし、その後次第に分業が明確化していき、19世紀には「自然哲学者」ではなく「科学者」と呼ばれるようになった。科学を専門に扱う分野が科学哲学という呼び名で呼ばれるようになるのも19世紀になってからである[6]

英米における科学哲学の祖としては、19世紀前半のジョン・ハーシェルウィリアム・ヒューウェルジョン・スチュアート・ミルらの名前があげられる。他方、ドイツでは、反科学主義的なドイツ観念論が流行したために、自然科学と哲学系の自然哲学の間には距離が生じていた[※ 1]。ただし19世紀にはまだエルンスト・マッハアンリ・ポアンカレなど、科学者による科学哲学も盛んに行われていた[※ 2]

20世紀になると、科学の方法論に対する見直しが行われ、それが操作主義論理実証主義の運動として、科学者と哲学者の共同のもと展開された。これには、物理学の革命が20世紀初頭に進行したこと、記号論理学が発達して数学の基礎づけについての研究が進展したことなどが影響しているといわれている。

20世紀後半には、実証主義的な科学論の行き過ぎた科学主義に対する批判が噴出した。その代表がトーマス・クーンポール・ファイヤアーベントによって展開された、いわゆる新科学哲学である。これは、科学が社会の影響を超越した客観性、合理性を持つことを否定し、科学の相対性を強調するものであった。この流れはその後科学社会学に影響し、科学社会学における社会構成主義の隆盛を産むことになる他、いわゆるニュー・サイエンスなど、既成の科学と代わる別の科学を作り出そうという運動にもつながることになった。

こうした科学批判の流れが一段落したところで、現在の科学哲学は、それぞれの個別科学の基礎について研究する地道な研究が主流となってきている。

下位区分

研究対象による下位区分

科学哲学とは、その対象領域に応じて数学の哲学物理学の哲学社会科学の哲学などに下位区分される[2]

科学哲学は、伝統的に自然科学、なかでも物理学が研究対象となってきたが、近年では生物学の研究が盛んになり、また心理学社会科学も研究対象とされるようになってきている。

視点による下位区分

科学哲学はまた、視点に応じて科学方法論、科学認識論などにも下位区分される[2]

立場

トピック

  • 科学の方法論的基礎に関する研究 : 検証理論、帰納的推論、科学的合理性、相対主義統計学の哲学、社会科学における解釈主義など
  • 科学の存在論的基礎に関する研究 : 科学的実在論還元主義量子力学の存在論的含意、時空の哲学など
  • 科学において使われる概念の分析 : 法則とは何か、科学的説明とは何か、科学理論とは何か、「進化」概念の分析など
  • 科学の動態に関する研究 : 科学の進歩、パラダイム転換など
  • 科学と社会のかかわりに関する研究 : 社会構成主義、科学者の社会的責任など
  • 科学と科学でないもの:科学哲学による科学の探究は、同時に科学と科学でないもの(非科学)の線引きをする試みでもある。
  • 因果関係[7]:因果の成立条件から、因果関係そのものの有効性についての考察。
  • 証拠と理論:科学的証拠とは何か、証拠は理論を検証するか、それとも反証するだけなのか、検証は量的なものか質的なものか。
  • 実験の本質[8]
  • 信仰と合理性のかかわり
  • 自由意志決定論[9]:科学の基礎をなす決定論に従えば、人間には自由意志はないが、そのような考えは日常的感覚に反するのではないか。
  • 帰納確率[10]:どこまでサンプルを測定し、確率が高まれば帰納が法則として成り立つか。
  • 自然科学法則の本質[11]:法則とは偶然的規則性とどう違うのか、法則は個物の関係について成り立つのか、それとも性質の間に成り立つのか、われわれは法則についてどうやって知りうるのか。
  • 数理哲学[12]:数学はなぜ科学の基礎を構成できるのか、数学と現実の関係など。→数学基礎論
  • 規準の問題 : 妥当性や合理性をはかるための規準自体の妥当性や合理性はどうやって知られるのか。
  • 科学的説明 : 科学的説明とは何か。
  • 理論実体の実在性[13]:理論上で想定された概念実在の関係。理論実体のうち、逆行波など、全てが実在するわけではないが、なぜそういう現象が生じるのか。また理論が架空としたら、なぜ多くの理論実体があたかも実在のような性質をもつのか。→数学・論理学の実在性
  • 非観測物の実在性[14]:直接観測できない事象のうち、どの事象を存在と定義するか(観測問題)。
  • 技術と科学[15]:科学と工学の関係。科学はどう工学の基礎を提供し、工学はどう科学の発展に影響を及ぼすか。
  • 社会科学の妥当性[16]:社会科学は自然科学のように厳密化・客観化されうるか。されえないとしたら、現にある現象を、どのように研究すればよいのか。
  • 科学的な理論を構築する上での基本要素
理論推論仮説モデル命題法則原理第一原理公理定理証明反証

学会

国際

海外

日本

関連人物

科学哲学の分野では、近年においては、カール・ポパートーマス・クーンらの影響が大きい。また、それ以前ではルートウィヒ・ウィトゲンシュタインの名を挙げることもできる。それ以前の大きな転換点としては、アイザック・ニュートンにより、現象の原因についての思弁的追求ではなく、現象を数式で記述することに力点が置かれたことも大きい。

一覧

日本人

脚注

注釈

  1. ^ それでも、ドイツ観念論と電磁気学の間に関わりがあったことなどが知られている。
  2. ^ ハーシェルもまた高名な天文学者であった。

出典

  1. ^ a b c d 黒崎宏科学哲学」『Yahoo!百科事典』http://100.yahoo.co.jp/detail/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E5%93%B2%E5%AD%A6/ [リンク切れ]
  2. ^ a b c d e 野家啓一「科学哲学」『岩波 哲学・思想事典』岩波書店。 
  3. ^ britannica.comthe study, from a philosophical perspective, of the elements of scientific inquiry.
  4. ^ a b 坂本百大「科学哲学」『世界大百科事典』平凡社。 
  5. ^ Atkin, Emily (2017年3月1日). “Is the March for Science Bad for Scientists?”. The New Republic. ISSN 0028-6583. https://newrepublic.com/article/140944/march-science-bad-scientists 2022年7月16日閲覧。 
  6. ^ 中山、2008、pp1
  7. ^ : causation
  8. ^ : nature of experimentation
  9. ^ : free will and determinism
  10. ^ : induction and probability
  11. ^ : nature of (scientific, natural) laws
  12. ^ : philosophy of mathematics
  13. ^ : the reality of theoretical entities
  14. ^ : the reality of unobservables
  15. ^ : technology and science
  16. ^ : validity of the social sciences

参考文献

  • 坂本百大「科学哲学」『世界大百科事典』平凡社。 
  • 野家啓一「科学哲学」『岩波 哲学・思想事典』岩波書店。 

関連項目

読書案内

外部リンク


科学哲学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/24 16:01 UTC 版)

カール・ポパー」の記事における「科学哲学」の解説

科学哲学におけるポパー貢献としては以下のようなものが挙げられる疑似科学科学の間の境界設定を科学哲学の中心課題として認識したこと科学とは何であるかを考えるうえで、従来論理実証主義的な立場では、形而上学的でない言説特徴に、また、命題の意味検証するための理論に、主眼置かれていた。しかしポパーは、問題の所在が、意味性にではなく科学性と非科学性分け隔てるところの方法性にこそある、と主張した反証可能性基軸とする科学的方法提唱したこと反証されえない理論科学的ではない、というのがポパー考えである(cf. 反証主義)。自らを反証する論理命題内蔵しないという場合はあるわけで、このような命題に基づく理論とその支持者が自らに対す反定立存在無視ないしアドホック回避するところではその一連の理論体系実質的に反証不可能となり、そこに大きな危険があるのだとポパー指摘した(この指摘立場自体を、ポパー自身識別しなかったが、ラカトシュ省みて方法論的反証主義呼んだ)。 蓄積主義的でない科学観を提案したこと反証主義背景には、ヒューム的な見解、すなわち、或る理論肯定する事例その理論立証することにはならない、という考え方がある。科学進歩は、或る理論にたいする肯定的な事例蓄積してこれを反証不可能たらしめてゆくところで起こるのではなく否定的な事例反証した或る理論別の新し理論がとって代えるところで起こる、というのがポパー科学観の背景的な見解としてある。 知識あり方進化論的論じたこと適者生存法則重きを置く進化論観点から、知識はいかに発展するのであるかを説明した確率まつわる新しい説を打ち出したこと確率客観的に説く立場新しいものとして、「或る事象特定的にもたらす傾向内在するシステム」が確率実体であるとポパー考えた

※この「科学哲学」の解説は、「カール・ポパー」の解説の一部です。
「科学哲学」を含む「カール・ポパー」の記事については、「カール・ポパー」の概要を参照ください。

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