『公研』2020年8月「めいん・すとりいと」 呉座 勇一 最近話題になった書籍に、石井妙子氏のノンフィクション『女帝 小池百合子』(文藝春秋社)がある。女性初の総理候補との呼び声もある東京都知事の小池百合子氏の波乱に満ちた人生の軌跡を、関係資料の博捜と多数の関係者への徹底的な取材によって克明に描き出した迫真のドキュメントである。 匿名の証言者も少なくないので、小池氏の酷薄な人間性を示すエピソードの真偽などについては、疑う向きもある。しかし、一つだけ確実なことがある。小池氏は政策に特段の知識も関心も持っていないという事実である。 小池氏が初めて東京都知事選に出馬した際、「東京大改革」と称して、七つのゼロを達成すると主張した。待機児童ゼロ、介護離職ゼロ、満員電車ゼロ、残業ゼロ、都道電柱ゼロ、多摩格差ゼロ、ペット殺処分ゼロの七つである。2階建て電車を走らせる、空き家を保育士に住居として提供するな