今日では、イスラーム教徒(ムスリム)の大半が科学の進歩に条件つきで賛成しています。神が創造した宇宙を分析することは神の本質を知る道であり、科学技術の発展こそ神の意志と考える。けれども、イスラームの信仰や倫理を害するような科学の成果は絶対に認めない。これが現在、イスラーム世界の主流をなす立場と言っていいでしょう。 こうした態度をムスリムが取るようになった背景には、近代科学とイスラームの根本的対立を棚上げして、科学を受け入れてきた歴史があります。西欧近代科学はイスラーム文明の学習から始まりましたが(Q58参照)、両者が一九世紀に「再会」した時、すでに近代科学とイスラームの間には否定しがたい世界観の対立が生じていました。何より、近代科学はイスラーム信仰の根本とも言うべき「世界の創造と終末」や「来世」といった概念を認めてはいなかったのです。この世界(現世)には始まりも終わりもない。人類が生まれよう