この一冊には驚くべき示唆に富んだ新たな科学の可能性がいっぱいつまっている。「カオスと複雑系の科学」が躍り出た90年代を告げる一冊だったともいえるが、実はそれ以上の、かなり高度な内容を含んでいた。 ぼくは、京大の富田和久研究室に学んで、日本で最初のカオス学ともいうべきを確立した津田一郎は天才なんだとおもっている。ああ、世の中に天才っているんだとおもったのは、このときが初めてだった。 そうおもったのは、彼がぼくの元麻布の家に泊まって一夜をあかし、朝まで話しこんだときからだった。このとき津田君は「新しいラプラスの魔」を想定して彼のコスモロジーの図を一枚のペーパーの上に描き、それを鉛筆で何度もたどりながら新しい科学のシナリオ案を披露した。それからチューリング・マシンとコルモゴロフの確率論の周辺を散策しながら、ついには少年時代の記憶の話に及んだものだった。 そのあいだ、ぼくもそれなりに勝手な話を挟ん