書く力よりまえに考える力がなければと云われるが、さらにそのまえに気づく能力が不可欠だ。 鶴見俊輔というかたからは、若き日のほんのいっとき、ご恩を受けた。しかしそれを機に弟子入り志願するでもなく、お礼に参上することすらなく、とうとう謦咳に接する機会がなかった。引込み思案というか、ひとえにわが生意気ゆえの非礼というに尽きる。だがご著書をとおして、私は鶴見俊輔のファンの一人ではあった。 鶴見さんから直接原稿をいただく立場にあった、とある出版社の編集部員との、酒の肴の鶴見俊輔談義のなかで、彼は云った。 「鶴見さんってかたは、ビックリすることの天才だな。だからオメエみたいなモンにまで、眼をおつけになった…