経産省の若手のパワポが話題になっているが、新境地を開こうとするなら、暗黙の前提を疑ってみることだね。シルバー民主主義を克服し、高齢者から子育てへ、重点を移すという問題意識は、配分する財源が増えないことを前提にしている。今の二、三十代は、景気が良くなって給料が増えた経験がなく、生活維持に、女性や年寄りも含め、働く量を増やすしかない境遇にあったから、その発想は無理もない。それどころか、「成長を考えろ」と言っても、「夢みたいなことを」とか、「過去の栄光だよ」と返されそうだ。
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経済成長は、需要の安定がなければ実現しない。実際の経営者は、教科書と違い、収益性より需要リスクに強く影響される。収益性を見込んで、設備や人材に投資したところで、需要減退に見舞われれば、会社の存続にかかわるからだ。日本は、財政再建を最優先にし、景気が良くなりかけると、緊縮をかけて需要を抜き、安定を疎かにしたために、先進国の中で最も悪いパフォーマンスとなった。
そして、ゼロ成長が政府債務のGDP比を悪化させ、財政再建への焦燥を強めるとともに、少子化対策や学術研究のような将来への投資を難しくし、成長力を衰退させた。もはや、企業は、成長なき国内をあきらめ、慣れない海外投資に打って出るようになり、落差に目が眩んで大ヤケドまでしている。成長と財政の悪循環は、逃れられない宿命のように、若手にも内面化されているのである。
しかし、変化の兆しもあるようだ。経産研の若手研究者の田代毅さんが著した『日本経済 最後の戦略』は、債務と成長のジレンマを超えるため、アベノミクスの財政の崖に触れつつ、金融、財政、構造改革をフル活用すべしと説く。当たり前の主張に聞こえるかもしれないが、安定的な需要管理に力点を置くところに新しさがある。財政赤字ばかり気にする世の常識とは、優先順位が違うのだ。
勢いよく始まったアベノミクスは、消費増税で2期連続のマイナス成長に転落し、その後の2度にわたる追加増税の先送りを経て、ようやく、足元で消費主体の2%成長にたどり着いた。しかも、消費増税の効果以上に財政収支は改善を見せた。優先順位の変更が、どれほど重要かの証左であろう。こうして、何かを削らなくても、人的投資ができるところまで来た。経産省の若手にも、最新の状況を分かってもらいたいね。
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巨額の政府債務は不安かもしれないが、リスクに対しては、ひとつずつ手段を用意することである。一番の懸念は長期金利の上昇だが、利子・配当課税の税率を25%に引き上げておけば、利払い費を上回る税収増が期待できる。そうした仕組みを作っておくことが、不安が不安を呼ぶ不合理な行動を未然に防止することになる。
消費増税は、いつ上げると時期で縛るのではなく、一定以上の物価上昇を条件とすべきである。そうすれば、成長を阻害しないし、逆に、財政インフレの不安も払拭できる。また、経済にショックを与えないよう、上げ幅も刻むべきだ。社会保障費の毎年の自然増を埋め合わせる形で、数年に1度1%ずつ上げるよう計画するのが合理的だ。
安定的な需要管理については、中央、地方、社会保障の三つを統合して収支を見なければならない。補正予算を管理の埒外に置くのもダメだ。いずれも、基本的なことで、出来ていない現状の方がおかしい。本予算で締め過ぎ、補正で、そのとき限りのものにバラまくというのをやめるだけで、子育て支援や貧困対策の財源は容易に確保できる。
………
以上のような主張を本コラムに掲載して十年になる。ついに、安定的な需要管理を唱える若手研究者が世に出たというのは、誠に感慨深い。今後の活躍を期待しているよ。
(今日までの日経)
配当、5年連続最高。陸運4社、人件費270億円増。国内設備投資 伸び最高 今年度13.7%増 本社調査 人手不足へ対応急ぐ。待機児童16市区で増加。豊島区シッターが成果。損益分岐点 40年で最低。脱デフレへ財政拡大論 前FRB議長。米家計の借金最高。主婦、コンビニ主戦力へ。米国に必要なのは増税だ。履歴書「設備投資を削ると利益は出が、怠ると衰退」
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経済成長は、需要の安定がなければ実現しない。実際の経営者は、教科書と違い、収益性より需要リスクに強く影響される。収益性を見込んで、設備や人材に投資したところで、需要減退に見舞われれば、会社の存続にかかわるからだ。日本は、財政再建を最優先にし、景気が良くなりかけると、緊縮をかけて需要を抜き、安定を疎かにしたために、先進国の中で最も悪いパフォーマンスとなった。
そして、ゼロ成長が政府債務のGDP比を悪化させ、財政再建への焦燥を強めるとともに、少子化対策や学術研究のような将来への投資を難しくし、成長力を衰退させた。もはや、企業は、成長なき国内をあきらめ、慣れない海外投資に打って出るようになり、落差に目が眩んで大ヤケドまでしている。成長と財政の悪循環は、逃れられない宿命のように、若手にも内面化されているのである。
しかし、変化の兆しもあるようだ。経産研の若手研究者の田代毅さんが著した『日本経済 最後の戦略』は、債務と成長のジレンマを超えるため、アベノミクスの財政の崖に触れつつ、金融、財政、構造改革をフル活用すべしと説く。当たり前の主張に聞こえるかもしれないが、安定的な需要管理に力点を置くところに新しさがある。財政赤字ばかり気にする世の常識とは、優先順位が違うのだ。
勢いよく始まったアベノミクスは、消費増税で2期連続のマイナス成長に転落し、その後の2度にわたる追加増税の先送りを経て、ようやく、足元で消費主体の2%成長にたどり着いた。しかも、消費増税の効果以上に財政収支は改善を見せた。優先順位の変更が、どれほど重要かの証左であろう。こうして、何かを削らなくても、人的投資ができるところまで来た。経産省の若手にも、最新の状況を分かってもらいたいね。
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巨額の政府債務は不安かもしれないが、リスクに対しては、ひとつずつ手段を用意することである。一番の懸念は長期金利の上昇だが、利子・配当課税の税率を25%に引き上げておけば、利払い費を上回る税収増が期待できる。そうした仕組みを作っておくことが、不安が不安を呼ぶ不合理な行動を未然に防止することになる。
消費増税は、いつ上げると時期で縛るのではなく、一定以上の物価上昇を条件とすべきである。そうすれば、成長を阻害しないし、逆に、財政インフレの不安も払拭できる。また、経済にショックを与えないよう、上げ幅も刻むべきだ。社会保障費の毎年の自然増を埋め合わせる形で、数年に1度1%ずつ上げるよう計画するのが合理的だ。
安定的な需要管理については、中央、地方、社会保障の三つを統合して収支を見なければならない。補正予算を管理の埒外に置くのもダメだ。いずれも、基本的なことで、出来ていない現状の方がおかしい。本予算で締め過ぎ、補正で、そのとき限りのものにバラまくというのをやめるだけで、子育て支援や貧困対策の財源は容易に確保できる。
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以上のような主張を本コラムに掲載して十年になる。ついに、安定的な需要管理を唱える若手研究者が世に出たというのは、誠に感慨深い。今後の活躍を期待しているよ。
(今日までの日経)
配当、5年連続最高。陸運4社、人件費270億円増。国内設備投資 伸び最高 今年度13.7%増 本社調査 人手不足へ対応急ぐ。待機児童16市区で増加。豊島区シッターが成果。損益分岐点 40年で最低。脱デフレへ財政拡大論 前FRB議長。米家計の借金最高。主婦、コンビニ主戦力へ。米国に必要なのは増税だ。履歴書「設備投資を削ると利益は出が、怠ると衰退」