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経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

負担のクイズと年金財政

2009年10月21日 | 社会保障
 予算の季節なので、その関係の話題が多くなっていたが、日経も「経済財政の司令塔はどこに」ということを社説で書くようになったし、今日は、世間でまったく話題にならなくなった年金の話をしよう。

 年金の記事が新聞に出なくなったのは、民主党の公約が政治日程に上っていないからに過ぎない。少子化は相変わらずなので、年金制度の問題状況が変化したわけではない。また、年金制度の検討の場は、厚生労働省の審議会であるので、政権交代に伴って停滞しているというのもあるのだろう。

 ここで、唐突にクイズである。(問)次の3つのうち、負担増になるのはどれか。①高齢者の増加、②少子化、③給付水準の引上げ。なにやら、どれも負担増になりそうに見えるが、本当の負担増になるのは少子化だけである。従って正解は②になる。

 意外な答えに途惑われるかもしれないが、②の高齢者の増加は、寿命の伸長によるものなので、確かに現役時代の保険料は高くなるが、老後には同じ以上の寿命を享受できるから、結局は保険料以上の給付を受けることになる。「得」はしても「損」にならないのだから、負担増とは言えない。③の給付水準の引上げについても、同じ理屈である。

 したがって、現状の出生率は、最低だった1.26から2008年は1.37へと、少し回復しただけなので、年金の置かれる問題情況に変わりがないことは、お分かりいただけるだろう。それでも、現行の年金制度の財政見通しの前提とした出生率のレンジには戻ってきているので、一時の危機的な感じは薄れてはいる。

 もっとも、現行の年金制度が前提にしているのは出生率だけでなく、基礎年金の2分の1国庫負担も重要である。こちらは、2009年度に形式上の措置はされたものの、財源は「埋蔵金」を充てることにしたので、いずれ恒久的な財源を見つけなければならない。必要な財源は2.5兆円にもなるので、容易なことではない。

 筆者としては、道路特定財源の暫定税率廃止分を新たな「環境税」で吸収し、ここに充てるべきだと考える。環境と福祉を統合し、使途を明確化するということならば、国民の納得も得やすいのではないか。国債が膨張と言われているが、基礎年金国庫負担増で年金特別会計を助けたから、一般会計が苦しくなっただけという側面もある。肝心なのは、国債の大きさより財源と使途である。やれやれ、年金の話のつもりが、財政の話へと戻ってしまった。

(今日の日経)
 郵政見直し閣議決定。普天間移設ゲーツ長官唯一の案。社説・経済財政の司令塔はどこに。納税者番号、給付つき税額控除と一体。政治主導・審議会の憂鬱。中国、車生産1000万台突破。街の電器店・量販店系列化加速。
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国債の減額なんて簡単だ

2009年10月20日 | 経済
 公約で膨らむ歳出、不況で落ち込む税収と、新政権も財政のやり繰りに苦労しているようである。そのギャップを埋めるのは、50兆円にもなろうかという国債になる。随分と、その額に拘っているようだが、額を大幅に減らすことは雑作もない。特別会計をいじれば良いだけのことだ。

 例えば、年金特別会計への国庫負担の繰り入れを停止してしまう。基礎年金の2分の1の国庫は約9兆円だから、それで歳出は大幅に減らせる。もちろん、繰り入れを停止したからといって、年金がもらえなくなるわけではない。厚生年金には140兆円の積立金があるので、それらが減るだけのことである。つまり、年金特別会計の「埋蔵金」を使うわけである。

 とは言え、年金積立金は大半を国債で運用しているから、取り崩して使うには、持っている国債を売らなければならない。つまり、実質的には、政府が新規国債を売って財政資金を得ようとするのと変わりがない。違うのは、表面的に新規国債の額が少なく見えるだけだ。むろん、筆者は、こうした会計操作には反対である。ここでは、新規国債の発行額にこだわることの虚しさを指摘したかったまでである。

 一方、国債大量発行のニュースが相次いだ割には、国債の10年物利回りは1.34%と1か月ぶりの水準に戻しただけである。1.34%というと、2010年度の民間シンクタンクの成長見通しの1.5%程度も下回るものでしかない。こんなに財政を膨らまそうというのに、マーケットは、ちっとも成長を期待していない。むしろ、09年度並みの財政規模の確保さえ怪しく、成 長に影を差すと思っているのかもしれない。

 なぜ、鳩山政権は、財政規模の総枠の策定という経済戦略の基本中の基本に取り組まない のだろうか。今朝の産経新聞が指摘するとおり、95兆円の概算要求を3兆円削り込むことには特に根拠があるとは思われない。努力して92兆円にしたところで、前年度の財政規模100兆円を維持するのに必要な額とのギャップが開くだけである。この経済状況で、財政規模をこんなにも縮小したいのだろうか。

 そんな中、国家戦略の担当は、経済状況を厳しいと見て、「緊急雇用対策」をまとめるようだが、素案には、わざわざ「新たな財政措置は講じない」と明記し、既存の施策・予算で対応するという。そもそも、「戦略」が「緊急対策」というのも、形容矛盾のような気がするのだが、いかがであろうか。

(今日の日経)
 新規国債、最大の50兆円台、暫定税率温暖化税で代替も、埋蔵金上積み図る、重量税・取得税は廃止か。緊急雇用対策・政労使で戦略会議。日銀報告・景気8地域持ち直し。ユドヨノ2期目経済対外開放に転換も。10年債利回り1.340%に上昇、短期金利は低下。国債ちょい古映画、劇場で安く。
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日本経済の歴史的な境目

2009年10月19日 | 経済
 歴史を解釈するとき、いくつかの時期に区分することが多い。経済史の場合は、景気循環という要素もあるので、その傾向は一層強いと言えるだろう。ただし、どこを区切りにするのかは、なかなか難しい問題がある。

 戦後日本経済の最大の区切りは、1974年のオイルショックを境目とする高度経済成長の終焉である。これについては、ほぼコンセンサスがあるのだが、それでも、経済学者の中には、それより早い1972年ドルショックの頃を境とする人もいる。それを根拠づける経済指標も存在するし、実は、筆者もその説には賛同している。

 区切りが重要なのは、それは経済が変化した原因に結びつくからである。例えば、高度成長はなぜ終わったのかという問いに対しては、1974年説なら石油価格の高騰が、1972年説なら円ドルレートの変化が大きかったということになる。特に、石油価格の高騰については、1979年の第二次ショックの時には影響が小さかったことから、それが本当に高度成長の終焉の原因なのかという疑問も持たれている。

 もう一つの日本経済の大きな区切りは、1991年を境とするバブルの崩壊である。ここを境とすることには、ほぼ異論がないと言っていいだろう。問題は、それがいつ終わったかである。内閣府が発表する景気の山谷の境は、一応、1993年10-12期なのだが、それ以降、景気が回復したという実感を持てる人は、どれほど居ようか。

 一般の認識は、バブル崩壊以降、日本経済は長く低迷し、多少マシな時期があっても、それが今日まで続いているといったところだろう。そうなると、経済低迷の原因は、バブル崩壊ということになるが、さすがに20年近く前のことが尾を引いているというのも不自然である。それでは、一体、何が原因なのだろうか。

 実は、経済指標を見ていくと、1997年のハシモトデフレの影響も極めて大きいのである。例えば、比較的安定しているはずの消費も1997年を境に屈曲している。ここで日本経済は、いわば、二段落ちで悪い状態になっている。ここにも、経済低迷のもう一つの原因があると見なければならない。

 その後、日本の経済政策は、小渕政権の危機対応が過ぎると、超低金利・円安と、緊縮財政のポリシーミックスが敷かれるようになり、内需抜きの弱々しい回復を続けることになった。そして、リーマンショックで頼りの輸出も失い、逆戻りしたのが現在である。さて、今回の政権交代では、新たな日本経済の境目が作られることになるのであろうか。

(今日の日経)
 普天間、米「微修正」容認の姿勢、ゲーツ長官来日。行政刷新相、厚労省を3分割、概算要求3兆円抑制の意向。不動産で1000億円ファンド、東京都心に割安感。マレーシア大型開発に中国色。ドルとともに人民元が周辺通貨に対して下落。東ガス・バイオガス混合。経済教室・市場の失敗民間で補完。タクシーEV初期費用2年で回収。
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経済政策の基本中の基本

2009年10月18日 | 経済
 実際の経済と教科書の経済の最大の違いは、金利が設備投資を調整するかどうかである。価格には需要と供給を調整する強い力があるが、金利には設備投資と家計貯蓄を調整する力はほとんどない。では、経済政策の基本とは、どのようなものになるのか。

 まず、不況になった場合、これは適正な水準よりも設備投資が低く、ゆえに失業が発生している状態ということになるが、まずは金利を下げることになる。しかし、これで直ちに設備投資が出るかというと、そうではない。経営者は、いかに金利が低くとも、つまり、儲かる見通しがあっても、需要に不安があるだけで、設備投資をしないという不合理な行動を取る。

 これは、設備投資の期待値がプラスであったとしても、一度失敗すると、再チャレンジして取り戻すことはできないから、機会利益を捨てても、設備投資をしないという判断をするということである。企業人にとっては常識的だが、これは経済学の最大化行動の基本原理に反するものになる。これを受け入れられるかどうかが、実務家と学者の決定的な差になる。

 金利の引下げの効果は、まず、住宅投資に現れる。同じ実物投資なのに、金利が住宅投資に効いて、設備投資に効かないのは、住宅投資には、自分が住むという確実な需要が見込めるという違いがあるからだ。そして、住宅投資という需要に反応して、設備投資が回復してくる。設備投資には、需要があるという安全確認が必要なのだ。

 もう一つ、金利の引き下げには、円を安くする効果がある。むろん、外国金利との相対的な低下でなければならないが、そうなれば、輸出が伸びることで需要が拡大し、設備投資を促すことになる。

 他方、不況期には財政出動をするもの定石だ。公共事業が行われれば、それが直接の需要になるとともに、需要拡大の刺激によって、鉄鋼やセメントなど素材産業の設備投資も促されることになる。

 さて、ここまで基礎を確認して、日本のバブル崩壊後の情況を考えてみると、バブル期に住宅投資はやり過ぎになっていて、金利を下げたのに1994年まで低迷が続いたし、94年からは、円高で輸出が低迷することになった。いわば、金利引下げによる需要拡大のルートは、特殊事情があって切れていたのである。

 よく、財政出動が効かない根拠として、バブル崩壊後の事例が挙げられるが、実態はこうで、孤軍奮闘の情況にあり、効きが悪いのは当然であった。東谷暁さんの「エコノミストを格付けする」は読ませる内容の本だが、この点だけは指摘しておきたい。

(今日の日経)  
 大卒内定来春28%減、電機・金融絞る。自主外交危ういブレ。世銀融資最高、5.3兆円・危機対応で急増。「税収40兆円割れも」行刷相。中国、農民向け年金整備・年9000億円を拠出。エイサー勝因は。
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財政規模の比較基準

2009年10月17日 | 経済
 2010年度予算案の概算要求がまとまり、95兆円と公表された。日経は「財政規律に懸念も」とするし、読売は「水膨れ予算」とする。毎日は「心配が現実になった」、朝日は「問題は要求額を年末の政府案決定までにどう絞り込むかだ」とする。筆者には、各社とも情報操作のワナにまんまと引っかかっているようにしか見えない。

 前年度、09年度予算は、当初額に補正額を加え、執行停止額を引くと、約100兆円である。10年度予算が仮に概算要求どおりになるとすると、来年はマイナス5兆円ものデフレ予算を敷くことになる。5兆円はGDPの約1%にもなる。10年度の成長率が1.5%程度(ニッセイ研)とされる中で、そんなことをすれば、景気が低迷することは目に見えている。

 もし、主要紙が「来年度はデフレ予算で良いとは思っていない」とすれば、5兆円程度の補正予算を織り込んでいると考えるべきなのだろうか。そうとでも考えないと、とても理解できない。そうだとしても、補正予算は、公共事業などの一時的な支出で占められ、無駄遣いの塊になりがちなのだから、主要紙の論調とは、まるで合わない。

 結局、官僚の手のひらの上で踊らされているのではないか。経済政策の判断の上では何の意味もない、前年度当初予算との比較が示されているのは、「膨らんでいる」と思わせるためのものだとは考えないのであろうか。「情報は意図を持って流される」という基本を改めて思い起こすべきである。

 そもそも、なぜ補正予算というものがあるかといえば、それは自動的に財政を縮小させる仕組みだからである。景気対策をした後、あえて行動を取らなければ、次の年には補正予算で追加した分だけ、財政規模は縮小する。それを目立たせないようにするためのものなのである。予算制度を見直すなら、まずは真実が分かるようにするところからではないか。

 むろん、筆者は、今はデフレギャップがあるから、財政を維持するように求めているだけであって、財政赤字を気にしていないわけではない。むしろ、増税のメニユーは、11年度にも実施できるよう準備しておくべきだと考えている。

 1986年から始まった円高で輸出が大きく落込んだ「円高不況」のときには、翌87年の大規模な経済対策の実施によって、景気は回復から拡大局面へと移り、88年のソウル五輪の時には高成長を達成し、89年4月の消費税導入に成功している。すなわち、2010年度は、景気を持続させつつ、88年度と同様、その先の増税に向けた準備をすべき年になる。

(今日の日経)
 鳩山政権1か月・政務三役奔走。概算要求95兆円。防衛大綱改定1年先送り決定。介護職員の月給6475円増。パリバに業務停止検討。人民元に切り上げ圧力。中国電力消費2ケタの伸び。米の核保有量半減表明。日清紡国内8割減。
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予算要求・規模と中身

2009年10月16日 | 経済
 予算が膨らむと、財政赤字が拡大すると批判し、景気の悪い指標が出ると、何とかせよと批判する。一体、どうせよというのか。それは、財政規模の問題と、その中身の問題の二つがあることを分けて考えないないために生じている。

 まず、財政規模を昨年と比較して、増やすのか、減らすのか、その判断が必要である。現在、景気は、昨秋からの大きな落ち込みから底を打ち、小康を得るところまで来ている。景気対策の効果が薄れる来年度には、二番底もあると懸念されており、財政がもう退いてかまわないとは、誰も考えないだろう。

 そうであれば、09年度当初予算89兆円+補正予算14兆円という規模は、維持しなければならない。10年度予算では、社会保障関係で高齢者の増加などによる自然増が約1兆円あり、補正予算の執行停止分3兆円は実質的に次年度に執行されるものとであったとみなすと、それらを差し引き、100兆円の枠内で予算を組めばよいことになる。

 経済政策の観点からは、本来は、国の予算だけでなく、地方予算や社会保障基金も見なければならない。おそらく、地方予算は、税収の落ち込みを反映して、歳出が減るものと予想されるし、社会保障基金は、所得の伸び悩みと高齢者の増加により、収支は赤字方向へ振れるはずだ。これらの勘案も必要ではあるが、ともかく、国の予算は現状維持が基本であろう。

 そのうち補正予算分は、景気が順調なら無用だったはずのものなので、10年度の予算枠となる10兆円の中身は、ゼロベースから設定することができる。例えば、09年度補正で公共事業に充てていたものを、子ども手当や地方交付税に充てても何の支障もない。当初予算のように、制度が定められていたりして、継続が必要で、容易に削れないのとは異なる。

 だからこそ、各省庁は、民主党の公約に明確に記述されていない地方交付税の増額などを含め、事項要求という形で大型の概算要求を提出しているのである。つまり、09年度二次補正になるのか、10年度当初予算になるのか、そのまた補正になるのかは分からないが、景気情況から見て、新政策の余地が大きいと考えているわけである。

 財務省幹部は「予算の全体像を誰も考えていない」と言っているようだが、各省庁は既にイメージして行動している。考えていないのは、財政当局だけではないのか。それとも、表に出さずに隠しているのだろうか。

(今日の日経)
 CO2排出量が大幅減、90年比鉄鋼11%。概算要求・厚労省3.7兆円上積み。雇用対策、診療報酬など事項要求、総額1.8兆円ほど。交付税1.1兆円も事項要求。道路新規ゼロ。公共実質1兆円削減。企業再生支援機構が業務開始。カンボジア資源立国へ。対中直接投資上向き基調。パナソニック家庭用ロボット。エイサー、パソコン2位。日産、期間工採用再開。スポーツ用品店支援IT活用。大機・補正削減3つのそもそも論。大豆豊作見込む。泡瀬二審も差し止め。
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バブル崩壊の予測と現実経済の真実

2009年10月15日 | 経済
 時間というのは残酷である。へたに経済評論などしようものなら、あとで、その結果をきっちり検証されるはめになる。特に、米国直輸入の経済学が盛んな日本では、惨めなものになりがちである。これまではマスコミの忘れっぽさ助けられてきたが、東谷暁さんという鋭い書き手が登場して、そうはいかなくなった。

 本コラムでも、リーマンショック以来の経済学説の盛衰ぶりを指摘してきたが、東谷さんの近著「エコノミストを格付けする」は、完膚なきまでに、エコノミストの定見のなさを明らかにしている。ただし、多少、弁護してやるとすれば、経済予測は、それができるほど十分な蓄積がないのに、何らかの分析が求められるという側面はある。

 例えば、バブル崩壊については、一円玉を積み上げるゲームと同じで、ある程度の高さになると最後の一枚で崩れてしまうが、驚くほど高く積みあがることもあれば、あっさり崩れる場合もある。どの一枚で崩れるかを予測するのは困難であり、多くの場合は外れることになる。それでも、「積み上げるといつかは崩れる」程度の予測では、納得してもらえない。

 実際、「根拠なき熱狂」をロバート・シラーが書いたのは2000年のことであり、直後にITバブル崩壊で株価は下落し、警告は現実のものになったが、株価は、やがて復活し、最高値を更新するまでになる。本当に崩壊するのは、今回のリーマンショックまで待たねばならなかった。バブルは必ず崩壊するとは言えても、どんな経過をたどるかは、予測がつかないのである。

 他方、そうした本質的な難しさとは別に、日本の経済政策についての論争は、目を覆わんばかりの酷さである。日本の情況を踏まえず、米国の理論をそのまま適用するからである。景気の原動力である設備投資は、実際には追加的な需要に反応し、金融政策で動かし難いことは経験的に明らかなのだが、理屈だけで金融政策による解決を訴え、かなり極端なものまで主張することになる。

 近年は、金融政策そのものより、「期待」が重視されるようになっているが、それでも日銀の金融政策に現実の企業が「期待」するはずもなく、需要という現物を確認して初めて、企業は設備投資をする。そのため、不況期の需要追加は極めて重要で、それが設備投資を呼び、所得を増やすスターターとなる。絶対的な大きさ以上の効果があることは、よく認識しておかなければならない。
 
(今日の日経)
 概算要求最大、90兆円兆。首相赤字国債増発容認も。一律保護では農業救えず。介護職員の処遇改善基金2012年度以降も継続へ。予算、地方財源で攻防・交付税、子ども手当負担。マンション首都圏底打ちの兆し、9月発売戸数25か月ぶり増。現代自、カンボジアで生産。パ世界初充電型フェリー燃料コスト半減。戸建てネット販売で低コスト。
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景気は着実に回復している

2009年10月14日 | 経済
 7-9期のGDP速報は11月16日が予定されているから、景気の現状を確認するのは、まだ少し先である。消費の意外なほどの堅調ぶり、設備投資の底打ち、輸出の伸びと、おそらく、良い結果が出ると期待される。したがって、政治的には、すぐさま景気対策の追加が必要ということにはならないだろう。

 本コラムでは、輸入物価の低下による消費の下支えを強調してきたが、予想どおりの展開となっている。それが良く分かるレポートには、第一生命経済研の「家計調査(8月)~7-8月の消費は予想外に健闘」がある。消費については、冷夏による不振が言われたが、消費で天候要因やマインドを重視するのは禁物であり、お金があって、安ければ、使ってしまうのである。あくまで、消費は所得と物価によるものなのだ。

 設備投資についても、機械受注8月は、民需(除く船電)がプラスにもどり、7-9期の見通しも、1年ぶりのプラスに戻った。輸出の急減に伴って止まっていた設備投資も、ようやく、底打ちである。本来は、設備投資が景気を引っ張るものであり、ここからが自律回復のスタートになる。

 輸出については、8月は微増となり、アジア向けを中心として堅調である。電子部品は、昨秋のショック前の生産水準を取り戻そうとしており、これもGDPを引き上げる方向に働くことになろう。他方、輸入は大して増えておらず、ここでも資源などの輸入物価の低下が効いている。

 結局、鈴木淑夫さんが「月例景気見通し」で指摘するとおり、7-9期は、内需と外需が揃ってのバランスの良い成長を見せると思われる。巷では、まだまだ景気は厳しいというのが実感であろうが、これは名目値が伸びていないためであり、実質で見た場合は、異なった情況が見えてくる。

 大切なのは、ここで景気対策の手を緩めないことである。今の景気回復は、政策的な下支えがあってのことである。民需が力強く回復するまで、景気対策は我慢して続けなければならない。これまで、日本は早すぎる出口戦略で失敗を続けてきた。今度こそ、過去の教訓に学ばなければならない。
 
(今日の日経)
 普天間・沖合移動知事が要望。日航債務3000億円免除・債務超過と判断。雇用調整助成金打ち切りリスク、職業訓練に生活費支給の恒久化。羽田ハブ化に急旋回。子育て応援手当補正見直しで廃止。貸し渋りの事例集公表。エコポイント二次補正・特別枠か。財政負担、健保連に衝撃。囲碁と東アジア連携。中ロミサイル発射事前通報。中国、高級鋼板で攻勢。ツタヤ面積10分の1の店。一ノ蔵食用米を販売。
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甦る零戦と日本の戦略

2009年10月13日 | 経済
 どうも、新聞休刊日の前日の紙面は、充実しているような気がする。海外で日経の朝夕統合版を読むときと似た感触である。夕刊は、普段、読む時間がないものだが、読まないには惜しい記事もある。そうした特集記事をベースにした本が出た。春原剛著「甦る零戦・国産戦闘機VS F22の攻防」である。

 春原さんの本は、中身を見ずに著者名だけで買うものの一つにしているが、今回のも、期待に違わず、濃い内容の仕上りである。日米軍事当局の内奥を、読者が垣間見ることのできる書き手は数少ない。秋田浩之さんといい、日経が良い書き手を着実に育てていることには敬服する。

 1980年代のFSXについては、当時NHKのワシントン特派員だった手島龍一さんの「ニッポンFSXを撃て」という名著がある。今は文庫にもなっており、若手には、必読書として勧めている。「甦る零戦」は、その21世紀版といったところか。手島さんの本も、「新零戦計画」とあり、出版社も同じ新潮社である。

 当時と異なるのは、経済が低迷する日本は、もはやライバルとは見なされなくなったということであろう。その分だけ、日本が最先端の兵器を持つことに対するプレッシャーは薄れている印象を受けた。F22の生産終了と輸出禁止も、日本を意識したものというより、軍事予算の削減の焦点としての米国内の事情が反映されたものである。

 今後の焦点は、日本が後継の戦闘機として、F22の代わりにF35を導入するかどうか、そして、独自開発の国産戦闘機「心神」の開発をどの程度両立させるかになる。戦闘機開発という最高の軍事機密に関する情況について、あえて防衛省の技術研究本部が取材に応じたのは、その意義について広く理解を得て、意味のある規模を確保したいという意図もあると推察される。

 ただし、技術的な見地から言えば、「心神」の要素技術には見るべきものはあるにしても、キーテクノロジーとなる高推力ジェットエンジンの開発について、十分な見通しが立っていないようである。そうなると制式化は難しく、実験機に止まる可能性は高いと思われる。

 おそらく、日本がF22を持つことはないであろうが、その存在は、日本の戦略に大きな影響を及ぼすだろう。著者が言及するように、長い航続距離を生かすことで、グアムが戦略拠点へと変貌することになるからである。沖縄より遠いことが、敵の中距離ミサイルの届かない地という利点に変わる。基地提供という日米同盟の根幹にも関わらざるを得まい。

(今日の日経)
 新聞休刊日
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国家戦略本部の役割

2009年10月12日 | 経済
 日本は戦略というものを持ったことがないので、本部を作っても何をして良いか分からないのではないか。まずは戦略目標が必要だが、とかく財政再建や消費税に矮小化されがちである。そんな目標では、その時点で戦略の名に値しなくなる。むろん、経済的な戦略目標は、成長と物価になる。

 経済戦略の基本は、国、地方、社会保障の三つのセクターからなる「政府」のフローの経済規模をどのくらいにするかである。その際、重要なのは、足元を基礎にすることだ。例えば、「09年度の景気対策は異例だから、それを基礎にしない」というのは、誤った考え方である。現在の経済状況は、14兆円の補正予算と6兆円の税の自然減収が基礎になっている。これを基礎にしなければ、景気が崩れることになってしまう。

 したがって、戦略本部がすべきことは、14兆円の枠組みの中で、10年度本予算における高齢者増に伴う自然増や、子ども手当などの新施策を組み立てることである。14兆円もの枠があれば、数々の新政策を盛り込むことには、何の難しさもないはずだ。税の自然減収については、極端な場合、税収見込みを前年同として「カラ積み」にしてもよい。景気の急回復の可能性だってないとは言えない。

 一方、歳入面で重要なのは、どういう経済状況になったら、増税するかを明確にしておくことである。例えば、物価上昇率が2%台から3%になろうとする情況になったら、消費税を1%引き上げるといったものである。その他にも、法人税、所得税の控除縮小、環境税などのメニューと、収益や所得などの経済状況をリンクさせたものを用意しておくことである。そうしたロードマップは、国債の長期金利を低く保つために役立つはずである。

 英国では、年度を超えた見通しを作り、マクロ経済的な枠組みの中で財政をコンロールしている。日本のように、マクロ経済を無視し、国債の発行枠の大小だけで判断するといった方法は、時代遅れなのである。だいたい、国債の発行枠は、操作が激しいので基準にすらならない。橋本内閣の「財政構造改革法」でも、数値目標は、財政指標ではなく、国際基準のあるGDP統計に頼ったほどなのだ。

 マクロ経済や財政の管理手法には、新しいものが求められている。国際的に見て話にならないほど無能な日本の財政当局の手法に頼ってどうするというのか。
 
(今日の日経)
 子ども手当支給6月に。予算査定ネット公開。顧客育てて囲い込み。社説・25%削減いかに実現。行政刷新相・国債発行が必要。外相アフガン訪問。福祉介護の就業者最多。ベトナム住宅市場活性化。中国・内陸部の成長際立つ。中東成長率予測上げ。エアコン出荷700万台割れへ。アマダ板金加工全寮制で。非正規採用・電子部品で再開。経済教室・円高への警戒。秋田県・減反達成へ米紛に望み。分権委3次勧告・基準地域で決めたら。船のもてなし花毛布。
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