『ナポレオン』(2023.11.15.ソニー・ピクチャーズ試写室)
18世紀末、革命の混乱に揺れるフランス。若き軍人ナポレオン(ホアキン・フェニックス)は目覚ましい活躍を見せ、軍の総司令官に任命される。そして夫を亡くしたジョセフィーヌ(バネッサ・カービー)と恋に落ち結婚するが、ナポレオンの溺愛ぶりとは裏腹に奔放なジョゼフィーヌは他の男とも関係を持ち、いつしか夫婦関係は奇妙にねじ曲がっていく。
その一方、軍人としてのナポレオンは快進撃を続け、クーデターを成功させて第一統領に就任、そしてついにフランス帝国の皇帝にまで上り詰める。
政治と軍のトップに立ったナポレオンと、皇后となり優雅な生活を送るジョゼフィーヌだったが、2人の心は満たされないままだった。やがてナポレオンは戦争にのめり込み、せい惨な侵略と征服を繰り返すようになる。
リドリー・スコット監督が、デビッド・スカルパの脚本を得てフランスの英雄ナポレオン・ボナパルトの人物像を新解釈で描いた歴史スペクタクル。ホアキンはいつもの役ほどではなかったが、ここでもエキセントリックな姿を見せる。
壮麗なクラシック音楽が流れる悠揚で長尺の歴史劇を見ていると、時に睡魔に襲われることがあるが、この映画もそうだった。何だかスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』(75)を見た時と似ていると思ったら、スコットは『バリー・リンドン』の大ファンであり、『バリー・リンドン』は、キューブリックがナポレオンを撮るためのリサーチが反映されたものだという。なるほどちゃんとつながった。
この映画の核となるのは、軍人、私人としてナポレオンの二面性にある。カリスマ的な魅力を持ち、軍才もある一方、彼が率いた戦いで300万人以上が戦死している。一体彼は英雄なのか悪魔なのか。
また、スコット監督が「モスクワを征服しようとしている男が、なぜパリにいる妻の行動に気をもんでいるのかと疑問に思った」と製作の動機の一端を語るように、この映画はスペクタクルな戦闘シーンと、ナポレオンとジョセフィーヌとの手紙を軸とした奇妙な夫婦関係を並行して描いているところが面白い。
アベル・ガンス監督の『ナポレオン』(27)は、フランシス・フォード・コッポラによる修復版が81年に公開された時は見逃し、ダイジェストでした見たことのないので、一度きちんとした形で見てみたいと、この映画を見ながら思った。