『ティル』(2023.11.28.東宝東和試写室)
1955年、米イリノイ州シカゴ。夫を戦争で亡くしたメイミー・ティル(ダニエル・デッドワイラー)は、空軍で唯一の黒人女性職員として働きながら、14歳の息子エメット(ジェイリン・ホール)と平穏に暮らしていた。
ある日、エメットは生まれて初めて故郷を離れ、ミシシッピ州マネーの親戚宅を訪れる。しかし彼は飲食雑貨店で白人女性キャロリン(ヘイリー・ベネット)に向けて口笛を吹いたことで怒りを買い、キャロリンの夫らに拉致されて凄惨なリンチの末に殺されてしまう。
変わり果てた息子と対面したメイミーは、この陰惨な事件を世間に知らしめるべく、息子の遺体を公開することにするが…。
1950年代アメリカで、アフリカ系アメリカ人による公民権運動を大きく前進させるきっかけとなった実際の事件「エメット・ティル殺害事件」を映画化。監督はシノニエ・チュクウ。ウーピー・ゴールドバーグがメイミーの母親役で共演し、製作にも名を連ねる。
アメリカでは、ボブ・ディランの「エメット・ティルの死」という歌があるほど有名な事件のようだが、恥ずかしながらこの事件のことは全く知らなかったので映画の内容は衝撃的だったが、数々の映画賞で女優賞を受賞したデッドワイラーが、前回のアカデミー賞やゴールデングローブ賞では候補にすらならなかったところに、まだまだ根強い差別が内在すると考える向きもあるようだ。
試みとして、この映画の前後に、30年代を舞台に白人女性への暴行の罪に問われた無実の黒人青年の裁判を描いた『アラバマ物語』(62)と60年代の白人によるリンチ殺人を描いた『ミシシッピー・バーニング』(88)を置いてみると、一つの線でつながる気がする。
『アラバマ物語』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c8e08b805f4c5ee0f364912507d73b1a
『ミシシッピー・バーニング』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/4192f6659e78f916af3e071157d1fc59