★★★★☆
あらすじ
黒人の選挙権を求め、アラバマ州の州都モンゴメリーまでのデモ行進を計画したキング牧師らは、様々な妨害に遭いながらも実現の道を探る。
1965年に行われたアラバマ州セルマからモンゴメリーへの行進を基にした作品。アカデミー賞作品賞など2部門にノミネート。原題は「Selma」。128分。
感想
アメリカの公民権運動で、キング牧師が行なったデモ行進を題材にした物語だ。彼が有名な演説「I Have A Dream」を行ったワシントン大行進の話かと思っていたのだが、実際はその二年後に行われたデモ行進の話だった。
しかしワシントン大行進を成功させて公民権法が制定され、キング牧師は大統領と面会できるほどになってノーベル平和賞も受賞したのに、まだまだ差別は色濃く残り、多くの黒人が殺されていたのかと暗澹たる気持ちになる。反差別の運動は終えることが出来なかった。キング牧師が弱音を吐いてしまうのもよく分かる。
ただ、彼らがただ無邪気にデモをしていたわけでなく、しっかりと戦略を練っていることが分かって感心した。こういう活動をすると、デモ行進をすること自体が目的となって、とにもかくにも実現させようと躍起になってしまいがちだ。
だが彼らはこのデモによって何を得ようとしているのか、冷静に見積もっており、権力側との交渉によってそれ以上の成果が得られるのなら中止もあり得ると、したたかさを見せていた。だからこれまで結果を残せてこれたのだろうと、頷かされるものがある。
主人公は、方針をめぐる内部の対立をまとめ、目標は同じだがやり方が違う別団体の攻撃にも耐え、差別主義者の暴力や妨害にも屈することなく、着実に目標に向かって前進する。運動を継続することの難しさを実感するとともに、その粘り強い姿勢には胸を打たれる。
そして彼に賛同する人々が全米各地から続々と集まり、どんどんと行進が大きくなっていく様子には、団結することのパワーを感じた。エンディングでかかるジョン・レジェンドとコモンの「Glory」が沁みる。
そしてこれから60年後、今の状況はなんなのだ?とも思ってしまう。思うにこの頃は、公的にメッセージを発することができる立場にいる人たちだけで世の中は動き、それ以外の人はその流れに身を任せるしかなかった。
当時大勢に流されて、KKKのように直接行動に移すことも、意見を口にすることもなかったが、内心では快く思っていなかった人は多かったのだろう。そんな人たちが今やネットで意見を言えるようになった。そして同じ思いの人が案外多くいることに勇気づけられて、公然と公言するようになってしまった。
皆が意見を言えるようになったのはネットの利点ではある。だが、本当の意味で民主主義が実現すると、民主主義でなくなってしまうのは皮肉だ。振出しに戻ってしまった感がある。これからまた最初からやり直しだが、今度は全員が理解するまで前に進まないので、これまでの何倍、何十倍もの時間がかかりそうだ。
それからこれは、冷笑主義者にデモの効力をデモするにはよい映画と言える。しかし、それにはメディアがちゃんと報道することが条件で、アメリカならまだしも、中国と同じくらい忖度しまくりメディアの日本では、結局冷笑されてしまいそうではある。
スタッフ/キャスト
監督 エイヴァ・デュヴァーネイ
製作総指揮
キャメロン・マクラッケン/ディアムイド・マッキオウン/ニック・バウアー/エイヴァ・デュヴァーネイ/ポール・ガーンズ/ナン・モラレス
製作/出演 オプラ・ウィンフリー
出演 デヴィッド・オイェロウォ/トム・ウィルキンソン/カルメン・イジョゴ/ジョヴァンニ・リビシ/アレッサンドロ・ニヴォラ/キューバ・グッディング・ジュニア/ティム・ロス/アンドレ・ホランド/テッサ・トンプソン/ロレイン・トゥーサント/ウェンデル・ピアース/コモン/ラキース・スタンフィールド/ディラン・ベイカー/ルーベン・サンチャゴ=ハドソン/コールマン・ドミンゴ/ジェレミー・ストロング/マーティン・シーン/スティーヴン・ルート
登場する人物
マーティン・ルーサー・キング・ジュニア/リンドン・ジョンソン/コレッタ・スコット・キング/ジョン・ルイス/ジョン・エドガー・フーヴァー/ジョージ・ウォレス/マヘリア・ジャクソン/マルコム・X