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E2770 – フォーラム「オープンサイエンスを社会につなぐために」報告

カレントアウェアネス-E

No.496 2025.02.13

 

 E2770

フォーラム「オープンサイエンスを社会につなぐために」報告

関西館図書館協力課・山口琴衣(やまぐちことえ)

 

  2024年11月6日、国立国会図書館(NDL)は、第26回図書館総合展において、フォーラム「オープンサイエンスを社会につなぐために―国立国会図書館の取組を踏まえて」を開催した。本稿ではその概要を紹介する。

●基調講演「オープンサイエンス その新規性の持つ意味」/倉田敬子(NDL館長)

  ユネスコのオープンサイエンス勧告(E2485参照)などにおけるオープンサイエンスの定義を説明しつつ、オープンサイエンスとは、科学知識とその知識を生み出す研究プロセスがオープンであること、それらが社会的変革につながるシステムを構築していくことであると暫定的に定義した。こうした考え方は従来の閉鎖的な学術コミュニケーションシステムをオープンにすることを意図しており、文献の自由な利用を目指すオープンアクセス(OA)はオープンサイエンスの前提であるとした。そして研究プロセスのオープン化は、研究成果の表現形式、研究データの流通システム、研究評価の在り方にも変化をもたらす可能性があるが、取組は始まったばかりであり、その影響は未知数であると述べた。NDLは、研究プロセスや新しい学術情報インフラの構築などに直接関与することは困難であるものの、オープンな知識を社会で循環させ再利用を促進する役割を果たすことはできると考えられるとまとめた。

  また、補足説明として、大場利康(NDL利用者サービス部長)が「オープンサイエンスにつながる国立国会図書館の取組」と題し、ユネスコのオープンサイエンス勧告の概要とオープンサイエンスに関するNDLの取組を紹介し、パネルディスカッションに向けた論点整理を行った。

●話題提供「知のオープン化とNDLの役割」/根本彰氏(東京大学名誉教授)

  従来の図書館は、出版物を中心とした知を収集・提供することで、知の質を担保しオープンにする場であった。しかし、知のデジタル化とネットワーク化が進み、特に電子ジャーナルの普及とともに学術情報流通の寡占化の問題が顕在化している昨今、図書館は扱う知とその質の保証を出版者任せにしてきたことを見直す時期に来ていると指摘した。そのような中、NDLは、納本制度や著作権法改正によりデジタルも含めたコンテンツの保存・管理・発信に関する特別な位置付けを与えられ、サービスを拡大してきたと述べた。オープンサイエンス時代におけるNDLの今後の課題として、収集コンテンツの定義の見直し、地域資料などの未収集資料の扱い、インターネット上の多様なコンテンツへの対応、動的に変化するコンテンツの保存などを挙げた。

●話題提供「オープンサイエンスの潮流からみた国立国会図書館の可能性」/林和弘氏(文部科学省科学技術・学術政策研究所データ解析政策研究室長)

  現在のオープンサイエンスの潮流は、情報メディアの革命による知識基盤の開放によって社会変革が促進されてきた歴史を反映しているとし、その過程は、手紙、写本からグーテンベルクの活版印刷技術を経て、現代のインターネットやウェブ技術に至るまで、情報伝達手段の進歩と密接に関連していることを説明した。そして今後は、オープンサイエンスの推進により、市民が触れられる知識の量が増えることから、市民と知識の関係性も変わり、シティズンサイエンスが盛んになるとした。NDLの役割も時代とともに変化し、デジタル資料への対応だけでなく、情報資源の利活用促進や新たな知識創造の仕掛けづくりが今後の課題になるとし、NDLと国民との新たな関係がどのように生まれるか期待しているとまとめた。

●パネルディスカッション

  モデレーターとして倉田、パネリストとして根本氏、林氏、大場が登壇し、パネルディスカッションを行った。

  倉田が、NDLの知識基盤構築と資料収集の範囲について議題を提起した。根本氏は、納本制度による収集物にメタデータを付すことで知の全体像を把握できることの意義、ネット小説などのインターネット上の多様なコンテンツの収集の必要性を指摘した。林氏は、まず資料のデジタル化の推進がNDLの重要な役割であるとした。加えて、ある図書館やコミュニティにおいて実施されている挑戦的な取組の事業継続性が課題となった際、NDLだけが継続性確保の役割を担い得ること、またそうした取組を見極める目利きの能力の重要性を指摘した。大場は、電子書籍・電子雑誌の収集に注力している現状を説明し、ネット小説などのインターネット上のコンテンツについては未着手であるが、新たな収集には社会的合意の形成が前提であり、そのためにも着実な実績の蓄積が必要であると述べた。

  議論はNDLの利用者向けサービスの方向性、シティズンサイエンスや探求学習の基盤としての図書館の役割、さらにNDLラボにおけるデータサイエンス、AI技術を活用した新規サービス開発の可能性にも及んだ。

  最後に倉田は、新たなメディアを資料として整理し取り込みながら、利用者にとって使いやすい形で提供するという知識循環の促進の観点から、メタデータの整備を含め、NDLに何ができるかを考えていかなければならないとまとめ、フォーラムは閉会した。

  当日の資料は当館ウェブサイトで公開している。また、フォーラムのアーカイブ動画はYouTubeの当館公式チャンネルで配信しているので、参照されたい。

Ref:
“第26回図書館総合展 国立国会図書館主催フォーラム「オープンサイエンスを社会につなぐために―国立国会図書館の取組を踏まえて」”. NDL.
https://www.ndl.go.jp/jp/event/events/lff2024.html
NDL. “第26回図書館総合展国立国会図書館主催フォーラム「オープンサイエンスを社会につなぐために―国立国会図書館の取組を踏まえて」”. YouTube. 2024-12-04.
https://www.youtube.com/watch?v=hgo7jNB8QOI
米川和志. ユネスコ「オープンサイエンスに関する勧告」. カレントアウェアネス-E. 2022, (433), E2485.
https://current.ndl.go.jp/e2485