初音ミク NT(ニュータイプ)とは、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社が2020年11月27日に発売したVOCALOIDではない歌声合成ソフトウェア。クリプトン社が産業技術総合研究所から提供された基礎技術を元に開発した「NTエンジン」を採用している。
2025年にリリース予定の新バージョン「初音ミク NT(Ver.2)」では「M9エンジン」へと一新され、AIを新規導入するなどの大規模な変更が行われる。
概要
ピアプロキャラクターズのバーチャル・シンガー「初音ミク」の音声合成ソフトウェア。
日本語歌唱のミクのソフトとしては「初音ミク V4X」以来4年ぶり(他言語も含めると「初音ミク V4C」以来3年ぶり)となる。
従来の初音ミクは音声合成エンジンとしてヤマハのVOCALOIDを使用してきたが、前述通り初音ミク NTではクリプトンが産業技術総合研究所と共同開発したオリジナルの内製エンジンを採用している。
つまり「初音ミク NT」は狭義の「VOCALOID」ではない(UTAUやCeVIOがVOCALOIDではないのと同じことである)。そのため、ヤマハのVOCALOID Editorや旧Piapro Studioで初音ミク NTを読み込ませることは、その仕組み上不可能である。
しかしニコニコ動画で使われる広義の「VOCALOID」はそれら音声合成全般をまとめて指すことが多く、従来どおりのVOCALOIDタグの使用、および音楽ジャンルとしてのボカロ呼びはさほど問題ではなく、むしろクリプトンも推奨していることである。
なお、クリプトンは初代MEIKOの発売時からずっと「バーチャル・シンガー(バーチャル・シンガー・ソフトウェア)」と呼んでいたが、ファンの間ではVOCALOID(ボカロ)呼びが主流であった。
しかし、クリプトンも関わっている大ヒットゲーム「プロジェクトセカイ」において「バーチャルシンガー」という呼称が正式名称として採用されたことで、若年層を中心にバーチャルシンガー(バチャシン)呼びが広まりつつある。
クリプトン社自身はヤマハとの協業を続け、今まで通りVOCALOID音源のリリースも検討しており、「初音ミクV4X」も「初音ミク NT」と並行して販売を続ける、としている。[1]また「マジカルミライ2024 TOKYO」企画展ステージにおいて、自社エンジンと他社エンジンのソフトを並行して展開していく事を発表している。
2025年には「初音ミク NT(Ver.2)」がリリース予定。旧バージョンと比較して、内製エンジンの刷新および歌声表現の各パラメータをAIが自動調整する新機能を搭載している事が特徴。
リリース版・プロトタイプ版
- プロトタイプ版
- その時点で開発が完了した機能群をまとめたベータ版で、ダウンロード版を予約したユーザーに提供された。当初は2020年3月中旬を予定していたが、度重なる延期を経て2020年6月4日に公開された。[2] [3] [4]ボイスライブラリは「ORIGINAL VOICE」のみ収録、ボイスエフェクターも一部のみ搭載された。
- ダウンロード版
- 2020年11月27日発売。開発の遅延を理由に当初の2020年8月下旬予定から延期された。[5]予約受付は2019年12月25日より開始している。[6]
- パッケージ版
- ダウンロード版と同じく、2020年11月27日発売。予約受付については、当初予定してた2020年夏頃より延期され、2020年11月5日より開始された。[7]従来の製品のようなDVD等のディスクメディアではなく、同梱の「ライセンスキー」を使用してダウンロードする形となる。
ダウンロード版、パッケージ版のいずれも、既存の初音ミク製品をライセンス登録しているユーザーは優待価格で予約できる。
特徴
次世代の「初音ミク」として発表されたこの製品は、歌い方や声色を従来より簡単な操作でコントロールすることが可能。また従来の音声素材を元に再調整が施され、改良が加えられているとのこと。
専用のボーカルエディターである「Piapro Studio NT」と、DAWソフト「Cubase LE」が付属する。従来の製品同様、これ一本で楽曲制作を始めることが可能となっている。(2024年6月30日以前はDAWソフト「Studio One Artist Piapro Edition」が付属していた。)[8]
ボイスライブラリー
製品版では当初3種類のボイスライブラリーが搭載される予定だったが、発売時は「Original+」のみの搭載となり、品質向上を理由に「Whisper+」「Dark+」は後日アップデートにより搭載される予定となっていた。[9]その後2021年6月24日のアップデートにより、ようやくそれらのライブラリも追加された。[10]
ボイスエフェクター
- Voice Drive
- 声の震え成分をコントロールし、声の勢いや質感を調整するエフェクト。応用プリセットにより、ガラガラ声やデスボイスも表現可能。
- Note Gain
- 音符一つ一つに対し、個別に声の大きさや張り具合を上げ下げできる便利な音量調整機能。
- Super Formant Shifter
- 元の声の個性を保ったまま、インテリジェントに声質変化させるエフェクト。実用的な範囲で、声の女性らしさや、チビ声への変調が可能。
- Auto Dynamics & Attack Speed Control
- 発音に合わせて、発音の強調やスピード感を調節する自動処理機能。
- Direct Pitch Edit
- ピアノロール上に音声波形とともに表示されたピッチカーブを、鉛筆ツールで直接、描画/編集する機能です。直感的な歌声のニュアンス付けが可能。
- Voice Voltage
- 声のハリ具合や、強さ/弱さの成分をコントロールし、ダイナミックな声の抑揚を作り出すエフェクト。
Piapro Studio NT
メロディや歌詞を入力し、歌い方をコントロールするためのソフトウェア「Piapro Studio NT」が付属する。
ソフトウェアはプラグイン版とスタンドアロン版の2つが用意される。従来のPiapro Studioではプラグイン版しか用意されておらず、DAWを介することでしか起動できないという制約があった。しかしスタンドアロン版ではエディタ単体で起動できるようになり、より自由なスタイルで制作が可能となる。プロトタイプ版に付属するのはそのうちスタンドアロン版のみ。
Piapro Studio自体は従来の初音ミク(初音ミク V3、初音ミク V4X)にも付属していたが、初音ミクNTに付属するのは最適化された専用の「Piapro Studio NT」であり、VOCALOIDライブラリを読み込むことはできない。
Piapro Studio NTの主な新機能
- バックグラウンドレンダリング機能/レンダリング波形表示機能
- 実際に出力されるオーディオ波形をその場で表示する機能。
- オートエンベロープ機能
- 内部パラメータを自動でコントロールし、歌い方などを制御する機能。
- 子音部の可視化
- 子音部分を可視化して、実際に子音が発音されるタイミングを確認可能。
- ダイレクトピッチカーブ編集機能
- ピッチカーブを確認しながらピッチを直接書き込める機能。
- リージョンの自動生成
- ノートを追加する際にリージョン(ノートが編集可能なエリア)が自動で生成・リサイズされる。
その他付属ソフトウェア
初音ミク NT(Ver.2)
クリプトン内製の新エンジン(社内コード:M9)に一新され、AIをパラメータの調整に用いクリエイターの創作を支援する機能群「Piapro Studio - Automatic Control」を搭載している。
- Early Access版
- 「初音ミク NT(Ver.2)」の先行リリースとなるベータ版で、2024年10月23日に「初音ミクNT」ユーザーへ無償で提供。ボイスライブラリは「MIKU NT Original」のみ。[11]
- メジャーアップデート版
- 2025年前半に正式リリース予定。「初音ミク NT」ユーザーに無償で提供される。
Piapro Studio NT2
M9エンジンに対応した「Piapro Studio NT2」が付属。
使用許諾について
前述のプロトタイプ版のリリース前、初音ミクNTの「エンドユーザー使用許諾契約書」が公開された。
以前までの初音ミク製品とは許諾の範囲が変更されている。詳細については実際の契約書を読んでいただきたいが、大きな変更点としては「初音ミク」「初音ミクNT」の名前を明示することを定めている。
これに対しユーザー間で「利用規約が厳しい」と話題になったが、開発側の意図としては「初音ミクが不適切な営利目的の利用をされた場合に連絡を取れるようにすること」を目的としており、個人の活動を妨げるものではないとした。[12]契約書をよく読むと「個人のユーザーが非営利目的で利用する」場合はこの制限はなく、少なくとも同人活動に限っては今まで通り使用することは問題ない、とも解釈できる。
メインビジュアルについて
かつて初音ミク V4Xがそうであったように、当初は肩から上のビジュアルのみが公開されていたが、パッケージ版が予約受付開始したのに合わせ、2020年11月5日にメインビジュアルが公開された。
イラストは引き続きiXiMa氏が、デザインはiXiMa氏とRella氏の両氏による。従来の直線的なデザインとは異なる波打つ曲線的なデザインが特徴で、従来の初音ミクの要素を取り入れつつも大胆にアレンジされている。プロデューサーの佐々木渉氏によると「波の広がり」をテーマにしているとのこと。[13]
関連リンク
- HATSUNE MIKU NT(初音ミク NT) | SONICWIRE (ダウンロード版)
- クリプトン | 初音ミク NT | クリプトン (パッケージ版)
- ニュータイプになった初音ミクはどこへ向かうのか “VOCALOIDじゃないミク”の開発者に聞く 2020.11.30
関連項目
脚注
- *“VOCALOIDじゃない初音ミク”登場 プロトタイプ版の先行予約スタート 2019.12.25
- *初音ミク NTプロトタイプ版リリース遅延のお知らせ 2020.3.16
- *初音ミクNTプロトタイプ版リリース遅延のお知らせ 2020.4.9
- *『初音ミク NT』プロトタイプ版、公開のお知らせ。 2020.6.4
- *『初音ミク NT』プロトタイプ版のアップデート公開、及びメジャーリリース版リリース延期のお知らせ 2020.8.13
- *バーチャルシンガー・初音ミクの最新バージョン『初音ミク NT』2020年夏発売決定!特設WEBページを公開し、ダウンロード製品の予約受付を開始。 2019.12.25
- *『初音ミク NT』メインビジュアルを公開&パッケージ版予約受付開始。 2020.11.5
- *初音ミクたち歌声合成ソフトウェア製品がリパッケージ!2024年中に新製品も発売予定! 2024.7.1
- *「初音ミクNT」データベースの一部提供遅延のご報告とお詫び 2020.11.26
- *『初音ミク NT』音声データベース改善アップデート(v1.0.0.7)のお知らせ 2021.6.24
- *『初音ミク NT (Ver.2)』 Early Access版 特設ページ
- *VOCALOIDじゃない「初音ミク NT」は利用規約が厳しい? 開発者に聞いた 2020.6.4
- *https://twitter.com/vocaloid_cv_cfm/status/1324277765231632384