古英語(Ænglisc sprǣċ, En: Old English)とは、印欧語族(Indo-Europeans)に属する、五世紀から十二世紀にかけてコーンウォール(Cornwall)を除くイングランド地方(England)で話されていた言語である。中英語(Middle English)、近代英語(Modern English)へ続き、現代英語、スコットランド英語(Scottish English)、スコットランド語(Scots)及びその他現在の世界各地で話される英語の祖語(Proto-language)となった言語である。現在は死語。
便宜上、その終わりをノルマン・コンクェスト(Norman Conquest, 1066年)とする。ここから、ロマンス諸語(Linguae Romanicae)オイル語系(langues d'oïl)のノルマン・フランス語(Norman French)及び此れが発展したアングロ=フランス語(Angro-French)が英語に流入し、これをもって古英語は中英語に移行しはじめる。ただし、これは必ずしも、これ以後、古英語が使われなかったということではない。
ゲルマン語派(Germanic languages)西ゲルマン語群(West Germanic languages)に属し、更にその中の北海ゲルマン諸語(Ingvaeonic languages)に含まれる。アングル族(Angles)・フリジア族(Frisians)・サクソン族(Saxons)・ジュート族(Jutes)などが話していた言葉がイングランドに於いて混ざり合って生じた言語である。古ザクセン語(Altsächsisch, Old Saxon)などとも近いが、最も近い言語は古フリジア語(Old Frisian)である。そのため、よくアングロ・フリジア語(Anglo-Frigian)とまとめられることもある。
ノーサンブリア(Northumbrian)、マーシア(Mercian)、ケント(Kentish)、ウェセックス(Wessex, West Saxon)の四方言に大別される(このうち、マーシアとノーサンブリアの方言をまとめてアングリア方言(Anglian)ということもあるが、これはこの地域に移住してきたのがアングル人であるからである)。これはそれぞれアングル族、ジュート族、サクソン族の移住した地域に近く、つまりは、大陸でのゲルマン語の分化の影響を受け、それが古英語の方言差となったと思われる。このうち、ウェセックスがイングランド統一を成し遂げこの方言が古英語における事実上の標準語となった。また、アルフレッド大王(Arfred the Great, Ælfred)の時代に聖書の翻訳や伝承の蒐集を積極的に行ったため、当時も現代もウェセックス方言が占める比重が大きい。
語彙は、現代英語と異なり、ケルト語(Celtic)由来の地名やラテン語(Latin)由来の聖書関連の言葉を除き、ほぼゲルマン語由来の単語である。後期には、北ゲルマン語群の古ノルド語(Old Norse)の影響を受けるが、影響を受けた地域はデーンロウ(Danelaw、主にノーサンブリアとマーシア)が中心で、古英語において主流だったウェセックス方言はその影響が少なかった為、文章上で明確に影響が見えるのは中英語からになる。
ちなみに現代英語の単語において、西ゲルマン祖語から順当に継承したものは40万語のうち約1000語とかなり少ない。基礎的な単語でも実は外来語ということがよくあるのである。以下はその一例。
take, get, give, they, rich, egg, dream, birth, art, etc.
これに加えて、中英語以降の文法の簡略化やドイツ語(German, Deutsch)の保守性などのお陰で、古英語の文章はイギリス人よりドイツ人の方が理解ができるという場合が往々にしてあるらしい。
両唇音 | 歯唇音 | 歯茎音 | 後部歯茎音 | 硬口蓋音 | 軟口蓋音 | 声門音 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
鼻音 | m | (n̥) n | (ŋ) | ||||
破裂音 | p b | t d | k ɡ | ||||
破擦音 | tʃ (dʒ) | ||||||
摩擦音 | f (v) | θ (ð) | s (z) | ʃ | (ç) | (x ɣ) | h |
接近音 | (l̥) l | j | (ʍ) w | ||||
顫音 | (r̥) r |
単母音
前舌母音 | 後舌母音 | |||
---|---|---|---|---|
非円唇 | 円唇 | 非円唇 | 円唇 | |
高母音 | i iː | y yː | u uː | |
中母音 | e eː | (ø øː) | o oː | |
低母音 | æ æː | ɑ ɑː |
二重母音
第一母音 | 短母音 | 長母音 |
---|---|---|
高母音 | iy/ie | iːy/iːe |
中母音 | eo | eːo |
低母音 | æɑ | æːɑ |
古英語の綴りの慣習として、発音との一致がしないものもある。
使用するアルファベット(Alphabet)は現代英語のラテン文字26文字の内V/v, W/wを除く24文字に加えて合字Æ/æ、Œ/œと、ルーン文字Þ/þ(thorn;ソーン)とÐ/ð(eth;エズ)、Ƿ/ƿ(wynn;ウィン)とȜ/ȝ(yogh;ヨッホ)が使われる(但し、Ȝ/ȝが必ず使われるわけではない)。
現代では発音の区別のため、長音ā,ǣ,ē,ī,ō,œ̄,ū,ȳと、ċ,ġを使うことがある他、Ƿ/ƿはP/pとの区別がしにくいためW/wに置き換えられる。
発音はほぼ日本語のローマ字どおりに読めばよい。ただし、一部で違うところがある。以下にそれを記す。
文字 | 発音 | |
---|---|---|
c | [k] | 後舌母音 a,o,u の前後と子音の前後では[k]と発音する。 それ以外では下記参照。 |
ċ | [tʃ] | 前舌母音 æ,e,i の前後と語末では[tʃ]と発音される。この区別のため、現代では、 ċ と表記する。 |
ċġ | [dʒ] | 近代英語では dg [ ʤ ]と表される音を古英語では cg と表す。*ggに *i ないしは *j(ヤ行の子音)が後続する時に [ ʤː ]と発音された。 |
g | [g] [ɣ] |
g は通常[g]と発音される。後舌母音の間や後舌母音と l,r の間では[ɣ]と発音される。 それ以外は下記参照。 |
ġ | [ j ] | 語頭の g に前舌母音が後続する場合、 g が前舌母音の間にある場合、前舌母音に語尾の g が続く場合、 g は硬口蓋化し[j]と発音される。これを区別するため、現代では ġ と表記する。 |
ȝ | [ j ] | 上記ġの発音を含め[j]の発音をする際に使われた。現代ではほぼ使われない。 |
h | [h] [x] [ç] |
h は基本、[h]と発音する。但し、音節末の h は後舌母音や ea,ēa,eo,ēo の二重母音の後及び l,r の後では、[x]と発音される。また、前舌母音や ie,īe の二重母音の後では、[ç]と発音された。 |
ng | [ŋg] | 現代英語では語尾の g は発音されないが、古英語では発音された。 |
nġ | [nʤ] | ngの後に i ないしはj(ヤ行の子音)が後続したときgが硬口蓋化して [ nʤ ]となる。 |
q | [k] | 古英語においては、ほとんど使われないが、quで[kw]を表す。通常は cƿ か cw とされる。 |
sc | [ʃ][sk] | この子音連結(子音結合、子音クラスター、En:consonant cluster)の一部は古英語以前の時期において硬口蓋化したが、時代を経るにつれて sk が硬口蓋化するはずのない音環境でも[sk]>[ʃ]の変化が順次生じていった。 語頭においては、前舌母音が後続する場合に硬口蓋化が生じ、次いで後舌母音、さらにr音の前で生じた。語中においては、 前舌母音が隣接する環境で生じ、語末では前舌母音に続く環境で[ʃ]へと変化した。 結果、[sk]として残ったのは、語中において後舌母音が後続するか、語尾において後舌母音が前置されるかである。 ただし、古ノルド語からなどの借用語はこの限りではない (例:shirt(西ゲルマン語由来), skirt(古ノルド語由来), OE. scyrte <PGmc. *skurtjaz(ゲルマン祖語再建形))。 |
u | [w] | 古英語にはwの文字はなく、従って初期には、uあるいはuuの形を用いて、[w]を表現したが、後に、ルーン文字からƿを借用した。 |
þ/ð | [θ] | 古くは、 þ が無声音 ð が有声音を表したが両者は後に無差別に用いられるようになった。 |
ƿ | [w] | 現代の表記及びこの項では w を使う。 |
z | [ts] | 外来語の表記や、希に[ts]を表すとき使われる。 |
また、摩擦音 f,s,þ/ð は有声音の間では有声化し、[v],[z],[ð]と発音される。二重子音は長く発音され、-ff-, -ss-, -þþ-/-ðð-は優勢化されない。
註1:古英語の/c/, /g/が硬口蓋化(調音点が前に移動すること)して生じたċ, ġであるが、一応は前舌母音の前後でc, gの硬口蓋化が生じたとされているが、これに反するものもかなり見受けられるため、安易にこうだとは決められない事情がある。
例えば、OE. sēċan "seek"であるが、不定形語尾OE. -an(aは後舌母音である)が後続しているにもかかわらず、cが硬口蓋化している。
またOE. gēs(sg. gōs) "geese"のように、前舌母音が後続しているにもかかわらずgの硬口蓋化が生じていないケースもある。これらでなぜ硬口蓋化が生じていないのかを説明するには専門的な知識と学術的な説明が不可欠なため、ここでは省略することにするが、前舌母音が隣接するからといって必ずしも硬口蓋化が生じるわけではないことは留意すべきである。
註2:勉強面ではċ, ġはそれぞれ[ ʧ ], [ j ]と発音するとされているが、おそらく最初は[ c ], [ ɟ ]、つまり硬口蓋閉鎖音であり、それが後に歯擦音化(assibilation)したと考えられている。
母音はa, æ, e, i, o, u, yの短母音七つとā, ǣ, ē, ī, ō, ū, ȳ の長母音七つ、及びea, ēa, eo, ēo, io, īo, ie, īeの二重母音八つで、これに加えて方言によってはœ,œ̄が使われる。母音を二つ重ねたり、アクセント表記のような記号を母音字の上に綴ることで長母音を表記していた例が一部にあるが、ほぼ全ての文献で、短母音との区別なく書かれている。現在ではマクロン表記によって、長母音と短母音を区別する。
文字 | 発音 | |
---|---|---|
a | [ɑ] | 後舌のア。但し、鼻音の前でoと交代する例があり、[ɔ]となる場合があったと推察される。 |
ā | [ɑː] | 上記aの長音。 |
æ | [æ] | この文字はアッシュ(ash[æʃ])と呼ぶ。前舌低母音。ドイツ語の<ä>に相当するが、現代ドイツ語においては発音が既に変化している。 現代英語でもこの発音はあるが(cf. bat, cat)、文字は使われない。使ってくれりゃ発音問題が一つ減ったのに。 |
ǣ | [æː] | 上記æの長音。ゲルマン祖語の*ǣから派生したǣ1と、*aiから派生したǣ2がある。ウェセックス方言ではこれらは区別がされないが、マーシア方言では、前者が<ē>、後者が<ǣ>と区別される。ケント方言では両者とも9世紀初頭までは<ǣ>が多いが、9世紀中ごろから<ē>となる。 |
e | [e] | 前舌中母音。 |
ē | [eː] | 上記eの長音。 |
i | [i] | 前舌高母音。 |
ī | [iː] | 上記iの長音。 |
o | [o] | 後舌中母音。 |
ō | [oː] | 上記oの長音。 |
œ | [œ] | 前舌円唇中母音。ドイツ語のöに相当する発音。iウムラウトによりoが前舌化し生じた音である。初期の写本には見られるが、West Saxon方言では、非円唇化(唇の丸まりがなくなる)が生じ、eに合一した。現代では、West Saxon方言が重視される為、使われることは少ない。 |
œ̄ | [œː] | 上述œの長音。 |
u | [u] | 後舌高母音。 |
ū | [uː] | 上記uの長音。 |
y | [y] | 古英語ではyは母音を表す。前舌円唇高母音。ドイツ語のüの発音に相当。iウムラウトによりuが前舌化して生じた音である。後期のWest Saxon方言では、非円唇化が起こりiやieとの区別がなくなっている。 |
ȳ | [yː] | 上記yの長音。 |
ea | [æɑ] | |
ēa | [æːɑ] | |
eo | [eo] | なお、古英語後期において一部ではあるが、[o]へと変化した例がある。 |
ēo | [eːo] | 上記と同じく古英語後期において、[oː]へと変化した例がある。 |
io | [io] | |
īo | [iːo] | |
ie | [iy] | |
īe | [iːy] |
但し、厳密な音価に関しては古英語期での遷移もあって議論が有る。例えば、後期には語尾の強勢の無い母音-a, -o, -uは-e /ə/へと弱音化し、後に消失した。他にも、円唇母音は末期には、非円唇母音となっている他、方言間でも微妙な差異がある。
i母音変化(i-mutation, i-umlaut)とは、強勢母音に対し後続のi母音あるいはj音(ここでいうj音とは日本語のヤ行のような音)が影響を与えて、前舌化(Fronting)、上昇(raising)を起こす現象である。現代英語では痕跡しか残っていないが、ドイツ語などのゴート語を除く全てのゲルマン語でも見られ、古英語でも広く活用や曲用に関わる現象である。但し、影響を与えたi音やj音は古英語期までにほぼ消失している。
以下の音声変化はWest Saxon方言におけるものである。
名詞において、性は男性、中性、女性の三つ。格は主格、対格、属格、与格の四つ。数は単数と複数を持つ。
代名詞においてはこれに加えて、人称代名詞の一人称と二人称に双数(両数)を持つ他、指示代名詞と疑問代名詞の単数に具格を有する。
形容詞は名詞に合わせて活用し、用法に応じて強変化と弱変化を行う。強変化の単数における男性と中性には具格が存在する。また、最上級と比較級が有る。
動詞は、7つの強変化動詞と3つの弱変化動詞に大別され、このうち、強変化動詞は現在の不規則動詞につながる。時制は現在と過去の二つ。法は直説法、仮定法、命令法の三つ。及び、数と人称によって活用する。現代の英語に見受けられるhave beenなどの完了形は古英語には存在しない。
語順は、ドイツ語のようなV2語順を示すことが多いが、多いと言うだけで、詩などにおいては必ずしも守られなかった。また、語の位置はかなり自由だった。
疑問、否定に助動詞を使わず、疑問の際には動詞を文頭に、否定の際には否定の副詞(ne)を挿入した。また、二重否定は否定の強調を表す(二重否定が英語において「誤っている」とし、肯定の意とされたのは、十七世紀以降、知識人たちが英語の文法を整理した後である)。
名詞の曲用は大きく強変化と弱変化、小変化(不規則動詞)に分かれる。さらに、強変化と弱変化は性によって分類される。
ゲルマン祖語時代に、印欧祖語の八格のうち、奪格と処格が与格に統合され、六格へと減った格の数は古英語期までに呼格が主格に、具格が与格に統合され、四格に減じた(ただし、具格の形容詞或いは冠詞がついた与格は具格の機能を持つ)。その代わり、格変化に変わって前置詞による意味の表示を発展させていった。
さらに古英語期の間に、語尾の摩滅も加わって対格と与格の統合が進んだ。元々、主格と対格が同形な名詞が多いこともあって、後には属格とそれ以外の区別しかなくなった。
強変化の語尾はおよそ以下のとおりになる。
性 | 男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|---|
単数 | 主格 | -Ø | -Ø | -Ø/-u |
対格 | -Ø | -Ø | -e | |
属格 | -es | -es | -e | |
与格 | -e | -e | -e | |
複数 | 主格 | -as | -u/-Ø | -a/-e |
対格 | -as | -u/-Ø | -a/-e | |
属格 | -a | -a | -a/-ena | |
与格 | -um | -um | -um |
ゲルマン祖語の段階では、強変化動詞は語幹に含まれる音によって、数種に分類される。然し、古英語では音変化と類推によって混乱があり、最早区別が明確でない。
ちなみに、現在の複数形語尾-(e)sは強変化のうち男性複数主格の語尾OE. -asに遡る
男性名詞はほとんどが子音で終わるが、-eで終わる男性名詞も数多く見受けられる
OE. m. stān "stone" < PGmc. *stainaz < PIE. *stāi-
OE. m. dæġ "day" < PGmc. *ðaγaz < PIE. *dʰegʷʰ-
OE. m. here "(Danish) army" < PGmc. *xerjaz < PIE. *koro-
OE. m. mearh < PGmc. *marxaz < PIE. *márkos
OE. m. þēow <PGmc. *þewaz <EPGmc. *þegwaz < PIE. *tekʷ-
OE. m. fugol "bird"< PGmc. *fuγlaz < PIE. *pleu-
一音節語 | 母音変異 | -e語尾 | -h語尾 | -ēow語尾 | 二音節語 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
単数 | 主格 | stān | dæġ | here | mearh | þēo(w) | fugol |
対格 | stān | dæġ | here | mearh | þēo(w) | fugol | |
属格 | stānes | dæġes | her(i)ġes | mēares | þēowes | fugles | |
与格 | stāne | dæġes | her(i)ġe | mēare | þēowe | fugle | |
複数 | 主格 | stānas | dagas | her(i)ġas | mēaras | þēowas | fuglas |
対格 | stānas | dagas | her(i)ġas | mēaars | þēowas | fuglas | |
属格 | stāna | daga | her(i)ġa | mēara | þēowa | fugla | |
与格 | stānum | dagum | her(i)ġum | mēarum | þēowum | fuglum |
大部分の男性名詞はstānの曲用に属する。これに属する名詞に以下の語がある。
etc.
dæġの曲用で最初のものと異なるのは、複数形でOE. æがOE. aに変化していることである。これは複数主格・対格の語尾OE. -asに見受けられる後舌母音のOE. aによって前の音節にあるOE. æが後舌化(backing)したためである。これに属する名詞に以下の語がある。
etc.
子音ではなく、-eで終わる男性名詞がある。上表のhereがそうである。OE. ende "end"もこれに属し、それぞれende-endes-ende-endas-enda-endumと曲用する。hereの活用に表れる -i- は口蓋化を表わす物で表記されない場合もある。これの曲用に属する語は以下である。
etc.
mearhのように-hの語尾を持つものは格語尾が付くと、hが脱落を起こす。短母音は長音化する。
-ēo(w)の語尾を持つ物は、単数主格対格において-wが伴う場合と伴わない場合がある。これは、ゲルマン祖語から古英語に到る間に、主格語尾がなくなり、語尾の-wが主格・対格のみ母音化した後に、新たに他の曲用から類推したために起こった現象である。-uの語尾を持つ物も同様であるが、この場合主格・対格は母音化して-uとなり、それ以外の格では-w-となる。
OE. m. fugol "bird"等の2音節の男性名詞は変化形において2音節目の母音が通例脱落する(-dom, -els, -hād, -ing, -oþ等接尾辞によって多音節語となったものは、stānの変化に従う)。但し、脱落しない場合もある。
これに終わる単語は以下の語である。
etc.
中性名詞はほとんど男性名詞と変わらないが、所々で男性名詞と異なる曲用をする。
OE. n. sċip "ship" < PGmc. *skipan < PIE. *skei-(?)
OE. n. hūs "house" < PGmc. *xūsam
OE. n. word "word" < PGmc. *worðan < PIE. *wer-
OE. n. rīċe "kingdom" < PGmc. *rīkjan < PIE. *reg-
OE. n. feorh "life, life being" < PGmc. *ferhuz < PIE. *perkʷ-
OE. n. cnēo(w) "knee" < PGmc. *knewą < PIE. *ǵónu
OE. n. wǣpen "weapon" < PGmc. *wǣpnan (?)
単語根母音 | 長語根母音 | 重子音語尾 | -e語尾 | -h語尾 | -ēow語尾 | 二音節語 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
単数 | 主格 | sċip | hūs | word | rīċe | feorh | cnēo(w) | wǣpen |
対格 | sċip | hūs | word | rīċe | feorh | cnēo(w) | wǣpen | |
属格 | sċipes | hūses | wordes | rīċes | fēores | cnēowes | wǣpnes | |
与格 | sċipe | hūse | worde | rīċe | fēore | cnēowe | wǣpne | |
複数 | 主格 | sċipu | hūs | word | rīċu | feorh | cnēo(w) | wǣpen |
対格 | sċipu | hūs | word | rīċu | feorh | cnēo(w) | wǣpen | |
属格 | sċipa | hūsa | worda | rīċa | fēora | cnēowa | wǣpna | |
与格 | sċipum | hūsum | wordum | rīċum | fēorum | cnēowum | wǣpnum |
男性名詞とほぼ変わらぬ曲用をするが、複数主格・対格のところでOE. -uが出てくるところが男性名詞と異なるところである。これに属する名詞は以下である。
etc.
ただし最後の2単語には注意しなければならない。なぜならOE. fætは複数形でfatas-fata-fatum、OE. ġeatはgatas-gata-gatumと曲用するからである(これはOE. dæġのところで記述した現象と同じ現象である)。
幹母音がhūsのように長母音、もしくはwordのように音節が2つ以上に子音で終わる場合、最初の曲用と異なるところは複数主格・対格のところでOE. -uが見受けられない。これに属する単語は以下の語である。
etc.
中性名詞にも男性名詞と同じく、rīċeのように-eでおわる語が存在する。
中性名詞にも男性名詞と同じく、feorhのように-hで終わる語が存在する。短母音は長音化する。
-ēo(w)の語尾を持つ物は、主格・対格において-wが伴う場合と伴わない場合がある。原因は男性名詞と同様。-uの語尾を持つ物も同様であるが、この場合主格・対格は母音化して-uとなり、それ以外の格では-w-となる。
2音節の名詞で、第一音節が長く、第二音節が短い場合第二音節母音が脱落することがある。一方で第一音節第二音節が共に短い場合、格語尾が付いても第二音節母音は維持される。これに属する語は以下の語である。
etc.
女性名詞は単数・主格がOE. -uで終わるものが多いが、幹母音が長母音、もしくは音節が2つ以上の子音で終わる時は末尾のOE. -uは脱落してしまうので注意
OE. f. ġiefu "gift" < PGmc. *γeβō < PIE. *gʰabʰ-
OE. f. lār "teaching" < PGmc. *laizō
単語根母音 | 長語根母音 | ||
---|---|---|---|
単数 | 主格 | ġiefu | lār |
対格 | ġiefe | lāre | |
属格 | ġiefe | lāre | |
与格 | ġiefe | lāre | |
複数 | 主格 | ġiefa /-e | lāra |
対格 | ġiefa /-e | lāra | |
属格 | ġiefa /-ena | lāra | |
与格 | ġiefum | lārum |
幹母音が短母音の場合、女性名詞は単数主格以外の格がすべて-eとなっているが、これは対格の語尾が類推(analogy)によって広がった結果である。複数形の語尾はOE. -aではなくOE. -e、属格でOE. -enaとなるときがある。これに属する語は以下の語である。
etc.
幹母音が長母音、もしくは音節が2つ以上の子音で終わる場合では、複数形は最初のものとは異なり、OE. -aで終わるのがふつうである。これに属する語は以下の語である。
etc.
ただし、複数主格がOE. -eで終わる単語も存在する。
男性 | 中性 | 女性 | ||
---|---|---|---|---|
単数 | 主格 | -a | -e | -e |
対格 | -an | -an | -an | |
属格 | -an | -an | -an | |
与格 | -an | -an | -an | |
複数 | 主格 | -an | -an | -an |
対格 | -an | -an | -an | |
属格 | -ena | -ena | -ena | |
与格 | -um | -um | -um |
曲用表を見てわかるとおり、-nの語尾がかなり優勢である。このような変化をする名詞を弱変化名詞と呼ぶ。弱変化名詞の特徴は多くの語尾が-nで、属格が-enaで終わることである。これも男性・中性・女性名詞の三つに分けられる。
中英語期には、複数属格の語末音節 /a/ は弱化、脱落した。また、語尾の母音は全て弱化し綴りは<e>となり、複数与格末尾の/m/は/n/へと変化して単数主格を除くすべての格で語尾が<en> /ən/となった。弱変化名詞の複数-anは-(e)nとして、-esと並んで複数形を作る語尾になった。現代英語にもoxen(sg.ox)にこの名残が残っている。現代英語にchildren, brethrenがあるが、この語は本来childre, brethreであり、これだけで複数を表すのだが、これにさらに複数を表す-nを付加してこれらの語形が後の時代に作られた。
男性 | 中性 | 女性 | |||
---|---|---|---|---|---|
単数 | 主格 | nama | ēage | ēare | sunne |
対格 | naman | ēage | ēare | sunnan | |
属格 | naman | ēagan | ēaran | sunnan | |
与格 | naman | ēagan | ēaran | sunnan | |
複数 | 主格 | naman | ēagan | ēaran | sunnan |
対格 | naman | ēagan | ēaran | sunnan | |
属格 | namena | ēagena | ēarena | sunnena | |
与格 | namum | ēagum | ēarena | sunnum |
男性弱変化名詞の特徴は単数主格がOE. -aで終わることである。
etc.
中性弱変化名詞の単数主格語尾はOE. -eである。これに属する単語はēage、ēare の2語しかない。
女性弱変化名詞の単数主格語尾はOE. -eである。これに属する単語は以下の語である。
etc.
小変化と分類されるが語源的には強変化名詞と変わらない。ただし、強変化と異なり、独自の変化を持っている。
小変化は、1.ウムラウト複数 2.-a複数 3.-ru複数 4.不変化複数に分かれる。
ウムラウトとはある音節にあるi、ないしはjが前の音節にある母音を前舌化する現象のことを指す。
これらの語は、ゲルマン祖語において、複数形に-i-zの語尾を持っており、例えばfōtなら、ゲルマン祖語においては複数形が *fōt-i-zだったと推測されている。その後、語幹の母音 ō が後ろの母音 i によって前舌化され、*fœ̄t-i-zと成った後、古英語時代までに、語尾-i-zは脱落した。
OE. m. fōt "foot" < PGmc. *fōts < PIE. *pṓds
OE. f. bōc "book" < PGmc. *βōks < PIE. *bʰeh₂ǵos
男性名詞 | 女性名詞 | ||
---|---|---|---|
単数 | 主格 | fōt | bōc |
対格 | fōt | bōc | |
属格 | fōtes | bōce,bēċ | |
与格 | fēt | bēċ | |
複数 | 主格 | fēt | bēċ |
対格 | fēt | bēċ | |
属格 | fōta | bōca | |
与格 | fōtum | bōcum |
bōcなどこの曲用とは異なる変化をするウムラウト複数もある。
etc.
このようにModE. footの複数形がなぜModE. feetになるのかという疑問は、footという単語が昔からの変化を保ち続けたからといえよう。OE. bōcの複数形がもし、現在まで引き継がれていたとしたらそれはModE. **beechとなっていたはずだが、類推によりModE. booksという形が定着してしまったのである。またModE. mouse - miceもこのウムラウト複数の変化が現在まで引き継がれたからである。nihtもこの活用に属するが、語根母音が同一の事が多い。
この曲用をするのは男性名詞と女性名詞に限れられ、語尾に-aがよく出現する。単数主格の語尾が-uであり、女性名詞と混同しないよう気をつけること。また一部の人はa複数のことをu変化名詞と呼ぶことがある。
OE. m. sunu "son" < PGmc. *sunuz < PIE. *seuə-
OE. f. hand "hand" < PGmc. *xanðuz
単数 | 主格 | sunu | hand |
---|---|---|---|
対格 | sunu | hand | |
属格 | suna | handa | |
与格 | suna | handa | |
複数 | 主格 | suna | handa |
対格 | suna | handa | |
属格 | suna | handa | |
与格 | sunum | handum |
これに属する名詞は以下の語である。
etc.
ただし、音節が2つ以上の子音で終わっている場合OE. -uはつかない
etc.
ただし、本来ならばこの曲用に属する単語であっても強変化名詞の影響を受けて強変化の曲用をすることがある。
複数主格・対格で-ruを語尾にとる名詞が存在する。ゲルマン祖語の*-zの語幹を持つ単語が r化(Rhotacism) に由来する。-ru複数の語尾は強変化に似たものとなる。
OE. n. ǣġ "egg" < PGmc. *ajjan < PIE. *h₂ōwyóm
OE. n. ċild "child, baby" <PGmc. *kelþaz <PIE. *gelt-, *ǵelt-
OE. n. ċealf(West Saxon), cælf(Anglican) "calf, young bovine" <PGmc. *kalbaz
OE. n. lamb(West Saxon) "lamb"<PGmc. *lambaz <PIE. *h₁l̥h₁onbʰos <PIE. *h₁elh₁én
単数 | 主格 | ǣġ | ċild | ċealf | cælf | lamb |
---|---|---|---|---|---|---|
対格 | ǣġ | ċild | ċealf | cælf | lamb | |
属格 | ǣġes | ċildes | ċealfes | carfur | lambes | |
与格 | ǣġe | ċilde | ċealfe | carfur | lambe | |
複数 | 主格 | ǣġru | ċild, ċildru, ċildra | ċealfru | calfur, calferu | lambru |
対格 | ǣġru | ċild, ċildru, ċildra | ċealfru | calfur, calferu | lambru | |
属格 | ǣġra | ċilda, ċildra | ċealfra | calfra | lambra | |
与格 | ǣġrum | ċildum, ċildrum | ċealfrum | calfrum | lambrum |
なお、現代英語 eggは、同根の古ノルド語 eggに由来するが、古英語由来のey(pl. eyren)も諸方言に残っている。
-ndで終わる動作主名詞(Agent nouns)も複数主格・対格が不変化であることが多い。また男性名詞しか存在しない
OE. m. frēond "friend" < PGmc. *frijonð-
単数 | 主格 | frēond | hettend |
---|---|---|---|
対格 | frēond | hettend | |
属格 | frēondes | hettendes | |
与格 | frēonde frīend |
hettende | |
複数 | 主格 | frīend | hettend, -e, -as |
対格 | frīend | hettend, -e, -as | |
属格 | frēonda | hettendra | |
与格 | frēondum | hettendum |
複数主格・対格はウムラウト複数の形が出ることもあれば強変化に従ったものもあらわれることがある。
OE.m. fēond "enemy"も同じ変化をする。
-nd名詞の語尾-ndはゲルマン祖語時代の現在分詞を作る接尾辞に遡る。例えば、frēondは動詞frēonの古い現在分詞形に由来する。また、現在分子から作られた-end名詞もここに含まれるが、-nd名詞と異なり属格複数形でOE. -raを持ち、複数主格・対格のところで不変化の形以外にも-e, -asを持つ形も見受けられる。
OE. fæder < PGmc. *faðar < PIE. *ph₂tḗr
OE. mōdor < PGmc. *mōðar < PIE. *méh₂tēr
OE. brōþor < PGmc. *βrōþar < PIE. *bʰréh₂tēr
OE. sweostor < PGmc. *swestēr < PIE. *swésōr
OE. dohtor < PGmc. *ðoxtēr < PIE. *dʰugh₂tḗr
fæder (m.) 'father' |
mōdor (f.) 'mother' |
brōþor (m.) 'brother' |
sweostor (f.) 'sister' |
dohtor (f.) 'daughter' |
||
---|---|---|---|---|---|---|
単数 | 主格 | fæder | mōdor | brōþor | sweoster | dohtor |
対格 | fæder | mōdor | brōþor | sweoster | dohtor | |
属格 | fæder fæderes |
mōdor mēder |
brōþor | sweoster | dohtor | |
与格 | fæder | mēder | brēþer | sweoster | dehtor | |
複数 | 主格 | fæderas | mōdor mōdra mōdru |
brōþor brōþra brōþru |
sweostor sweostra sweostru |
dohtor dohtra dohtru |
対格 | fæderas | mōdor mōdra mōdru |
brōþor brōþra brōþru |
sweostor sweostra sweostru |
dohtor dohtra dohtru |
|
属格 | fædera | mōdra (mēder) |
brōþra | sweostra | dohtra | |
与格 | fæderum | mōdrum | brōþrum | sweostrum | dohtrum |
性は自然性である。近親を表す語は語形変化が乏しい。fædera以外の複数形では大抵、語尾が-ra, -raとなる。sweostor,brōþorは複数の語頭にġe-がつくことも有る(cf. ドイツ語 geschwister「兄弟姉妹」)。また、方言によっても変種があり、例えばAnglian方言にはbroþorの複数形にbrēþre(現代英語:brethren)という形が有る。
古英語の形容詞は現代英語の形容詞と異なり、性・数・格によって曲用する。
古英語の形容詞の曲用には二通りの曲用があり、名詞と同じように強変化と弱変化とに分かれる。強変化は定冠詞、指示代名詞などの限定詞がつかない名詞を修飾するときと術語となるときに用いる、弱変化は限定詞がついている名詞を修飾するときに用いられる。
語幹に短母音をもつ形容詞
OE. til "good"
男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|
単数・主格 | til | til | tilu |
単数・対格 | tilne | til | tile |
単数・属格 | tiles | tiles | tilre |
単数・与格 | tilum | tilum | tilre |
単数・具格 | tile | tile | ― |
複数・主格 | tile | tilu, tile | tila, tile |
複数・対格 | tile | tilu, tile | tila, tile |
複数・属格 | tilra | ||
複数・与格 | tilum |
語幹に長母音を持つ、あるいは2つ以上の子音で終わる形容詞であっても語尾が-eで終わるものはは上記の曲用に含まれる。例 OE. grēne "green", swēte "sweet" etc.
語幹に長母音をもつ、ないしは2つ以上の子音で終わる形容詞
OE. gōd "good"
男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|
単数・主格 | gōd | gōd | gōd |
単数・対格 | gōdne | gōd | gōde |
単数・属格 | gōdes | gōdes | gōdre |
単数・与格 | gōdum | gōdum | gōdre |
単数・具格 | gōde | gōde | ― |
複数・主格 | gōde | gōd, gōde | gōda, gōde |
複数・対格 | gōde | gōd, gōde | gōda, gōde |
複数・属格 | gōdra | ||
複数・与格 | gōdum |
強変化とは異なり、語幹に短母音を持とうと、長母音を持とうと変化に変わりはなく、複数・属格にOE. -raの語尾を持つ以外は名詞の弱変化と同じ曲用をする。
OE. gōd
男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|
単数・主格 | gōda | gōde | gōde |
単数・対格 | gōdan | gōde | gōdan |
単数・属格 | gōdan | ||
単数・与格 | gōdan | ||
複数・主格 | gōdan | ||
複数・対格 | gōdan | ||
複数・属格 | gōdra ,godena | ||
複数・与格 | gōdum |
語幹に-ra,-ost(/-est)を付けることによって形成する。比較級は弱変化、最上級は弱変化強変化いずれも行う。比較級、最上級においてはi母音変異が起こるものもある。これは、ゲルマン祖語において、比較級及び最上級の接尾辞が-oz-,-ost-か-iz-,-ist-かによるものである。然し、類推などによってi母音変異は失われていき、現代英語ではoldに対するelder,eldestにのみ残っている。古英語においても、brād,hēah等ではi母音変異が起こらない形も表れている。
原級 | 比較級 | 最上級 | |
---|---|---|---|
規則変化 | blīðe "blithe" | blīðra | blīðost |
blind "blind" | blindra | blindost | |
earm "poor" | earmra | earmost | |
fæġer "fair" | fæġerra | fæġerost | |
hāliġ "holy" | hāliġra | hāligost | |
heard "hard" | heardra | heardost | |
hwæt "brave" | hwætra | hwatost | |
rīċe "powerful" | rīċra | rīcost | |
swift "swift" | swiftra | swiftost | |
原級 | 比較級 | 最上級 | |
i-母音変異 | brād "broad" | brǣdra (brādra) |
brǣdest (brādost) |
eald "old" | ieldra | ieldest | |
feorr "far" | fierra | fierrest | |
ġeong "young" | ġinġra (geongra) |
ginġest (giongra) |
|
grēat "great" | grīetra | grīetest | |
hēah "high" | hīe(r)ra (hēarra) |
hīehst (hēahst) |
|
lang "long" | lenġra | lenġest | |
sċeort "short" | scyrtra | scyrtest | |
strang "strong" | strenġra | strenġest |
原級 | 比較級 | 最上級 |
---|---|---|
gōd "good" | betera, bet(t)ra sēlra, sēlla |
bet(e)st sēlest |
lȳtel "little" | lǣssa | lǣst |
miċel "much" | māra | mǣst |
yfel "evil" | wiersa | wier(re)st, wyrst |
原級 | 比較級 | 最上級 |
---|---|---|
(ǣr) "early" | ǣrra "former" | ǣrest |
(feorr) "far" | fierra "farther" | fierrest |
(fore) | forma, fyrmest "first" | |
(nēah) "near" | nēarra | nīehst |
(æfter) "after" | æfterra "second" | æftemest |
(inne) "within" | inn(er)ra | innemest |
(ēast) "eastward" | ēast(er)ra | ēastmest |
(norð) "northward" | norð(er)ra | norðmest |
(sūð) "southward" | sūð(er)ra | sūðmest |
(west) "westward" | west(er)ra | westmest |
古英語の副詞は形容詞に語尾OE. -e、またはOE. -līċeを付加して形成する。前者が一番よく用いられる方法であるが、古英語の形容詞はOE. -eで終わるものも多数存在するため、形容詞と副詞が同形になるものも存在している。
原則、比較級-or、最上級-ostを語尾につける。語尾に-eが存在するときは脱落する。比較級、最上級においてi-母音変異が現れるもの、不規則な変化をするものもある。
原級 | 比較級 | 最上級 | |
---|---|---|---|
規則変化 | hearde "hardly" | heardor | heardost |
swīþe "strongly" | swīþor | swīþost | |
lufīċe "kindly" | luflīcor | luflīcost | |
i-母音変異 | lange "long" | lenġ | lenġest, langost |
ēaþe "easily" | īeþ, ēaþ | ēaþost | |
feorr "far" | fierr | firrest | |
sōfte "softly" | sēft | sōftost | |
不規則変化 | lȳt | lǣs | lǣst |
micel "much" | mā | mǣst | |
wel(l) | bet sēl |
bet(e)st sēlest |
|
yfle "evily" | wiers | wier(re)st, wyrst |
基数 | 序数 | |
---|---|---|
1 | ān | forma, fyrmest (fyresta, ǣresta) |
2 | twēġen, twā, tū | ōþer |
3 | þrīe, þrēo | þridda |
4 | fēower | fēorþa |
5 | fīf | fīfta |
6 | siex,six | siexta,sixta |
7 | seofon | seofoþa |
8 | eahta | eahtoþa |
9 | nigon | nigoþa |
10 | tīen | tēoþa |
11 | endleofon | endleofta |
12 | twelf | twelfta |
13 | þrēotīene, -tȳne, -tēne | þrēotēoþa |
14 | fēowertīene | fēowertēoþa |
15 | fīftīne | fīftēoþa |
16 | siextīene | siextēoþa |
17 | seofontīne | seofontēoþa |
18 | eahtatīne | eahtatēoþa |
19 | nigontīne | nigontēoþa |
20 | twentiġ | twentigoþa |
30 | þrītiġ | þrītigoþa |
40 | feowertiġ | féowertigoða |
50 | fiftiġ | fífteogoþa |
60 | siextiġ | sixteogoða |
70 | hundseofontiġ | hundseofontioþa |
80 | hundeahtatiġ | hundeahtatigoþa |
90 | hundnigontiġ | hundnigontigoþa |
100 | hund hundred hundtēontiġ |
hundtēontigoþa |
110 | hundændlæftiġ | |
120 | hundtwelftiġ | |
200 | tū hund tū hundred |
|
1000 | þūsend |
1から3は語尾変化をする。4から19までは凡そ無変化である。21以降の端数を持つ数はゲルマン語の特徴としてān and twentiġというようにする(twenty oneという言い方はフランスの影響によるもの)。
endleofon, twelf は語源的には"one leave", "two leave"に相当し、ゲルマン民族が十二進法を用いていたことに合わせてこのような表現ができたと考えられている。
hund(red)も、印欧祖語では100を表していたが、ゲルマン祖語では120を表していたようである。古ノルド語では、120がhundrað、1200がþūsundで、100はtīu tigir (= *tenty)であった。これと十二進法の影響で、70から120の数には、hund-が付加されている。
語尾に-aを持つ物は形容詞弱変化の曲用をするをする。ōþerは常に形容詞の強変化。形容詞の最上級に由来する-stの語尾を持つを持つ序数は、弱変化、強変化両方に曲用。
formaはラテン語のprimusに相当する語で、「前方」の意味を持つ for に、古い形容詞の最上級に由来する-mがついたもの。fyrmestはこれに、改めて形容詞の最上級語尾-estがついたもので、二重最上級といえる物である。ModE.firstは、for に再度、形容詞最上級の語尾-estがついてできた物である。
ōþerは現代語のother, orに相当するが、序数ではラテン語secundusあるいは古フランス語seconde由来のsecondに取って代わられた。現代では、evrery other lineなどの用法にその名残をとどめる。
また、þriddaは音韻転換を起こし、 r と i の位置が逆転し、後にModE. thirdとなる。þrītiġ, þrītigoþaも同様に音韻転換を起こしている。
いくつかの序詞は、-taの語尾を持つが、他の序詞との推測から、中英語期以降、-þa(tha,ModE.th)に変わっていった。þriddaの-daも元来はこれと同じである。
男性 | 中性 | 女性 | ||
---|---|---|---|---|
単数 | 主格 | ān | ān | ān |
対格 | ānne | ān | āne | |
属格 | ānes | ānes | ānre | |
与格 | ānum | ānum | ānre | |
具格 | āne | āne | -- | |
複数 | 主格 | ānne | ān, āne | āna, āne |
対格 | ænne, ānne | ān, āne | āna, āne | |
属格 | ānra | |||
与格 | ānrum |
強変化に準じるが、男性複数対格がほぼænneであることが違う。また、名詞に必ずan をつけるといったような冠詞の用法は無い。強変化複数形は各々、全ての意を持ち(例:any)、弱変化は「唯一」、「単独」の意である(例:only)。否定形のnānも同様の活用を示す。
近代英語において、強勢の有無からoneとan, aに分離した。
男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|
主格 | twēġen | twā | twā,tū |
対格 | twēġen | twā | twā,tū |
属格 | twēġ(e)a, twēġra | ||
与格 | twæm, twām |
当然、数は複数のみ、属格と与格は全ての性に共通である。
bēgen 'both' も同様に曲用するが、女性、中性のbā,būの代わりにbūtū,būtwā,būtaも用いられる。
男性 | 中性 | 女性 | |
---|---|---|---|
主格 | þrīe | þrēo | þrēo |
対格 | þrīe | þrēo | þrēo |
属格 | þrēora | ||
与格 | þrim |
twēġenと同じく数は複数のみである。
代名詞は比較的、格変化を保っているが、それでも古英語時代には与格と対格の統合が進んだ。初期には一人称、二人称で対格が与格に統合され、末期には、三人称においても男性・女性は与格が対格を駆逐し、逆に中性では対格が与格を駆逐した。
人称 | 数 | 性 | 主格 | 対格 | 属格 | 与格 |
---|---|---|---|---|---|---|
第一人称 | 単数 | iċ | mē(meċ) | mīn | mē | |
双数 | wit | unc(uncit) | uncer | unc | ||
複数 | wē | ūs(ūsiċ) | ūre | ūs | ||
第二人称 | 単数 | þū | þē(þēċ) | þīn | þē | |
双数 | ġit | inc(incit) | incer | inc | ||
複数 | ġe | ēow(ēowiċ) | ēow | ēower | ||
第三人称 | 単数 | 男性 | hē | hine | his | him |
中性 | hit | hit | his | him | ||
女性 | hēo | hīe | hiere | hiere | ||
複数 | hīe | hīe | hiera | him |
再帰代名詞はない(格変化によって区別がつきやすい)ため、人称代名詞の該当する語形を使う。但し、self(sylf)はこれら人称代名詞とともに用いられる。
人称代名詞のうち、古い時代には一人称と二人称の対格は括弧内の形が用いられたが、古英語後期には、与格と合流した(ドイツ語では単数において、双数がないが、この区別が維持されている(cf.mich,dich)。逆に二人称複数では与格が対格に飲み込まれている(cf.euch))。
三人称の代名詞はしばしば指示代名詞(現代英語のthe、this、that)が代わりに用いられた。
数 | 性 | 主格 | 対格 | 属格 | 与格 | 具格 |
---|---|---|---|---|---|---|
単数 | 男性 | se | þone | þǣs | þǣm | þȳ,þon |
女性 | sēo | þā | þǣre | þǣre | (þǣre) | |
中性 | þæt | þæt | þæs | þǣm | þȳ,þon | |
複数 | þā | þāra,þǣra | þām,þǣm | ---- |
古英語後期になって男性主格のseが他の格の影響によってþeとなる。これがModE. theの由来である。また、中性単数のþǣtがModE. thatとなった。形容詞、副詞の前に用いられるtheは具格のþȳが変化したもの。þāが中英語ではþoへと変化し、下述のþāsからの類推で、変化したþosがModE. thoseの由来である。
これらは指示代名詞としての用法のほか定冠詞、関係代名詞の用法も受け持った。
数 | 性 | 主格 | 対格 | 属格 | 与格 | 具格 |
---|---|---|---|---|---|---|
単数 | 男性 | þes | þisne | þisses | þissum | þȳs |
女性 | þēos | þās | þisse | þisse | þisse | |
中性 | þis | þis | þisses | þissum | þȳs | |
複数 | þās, (þǣs) | þissa | þissum | (þissum) |
ModE. thisの由来はþes、ModE. theseの由来はpl. þāsの異形態þǣs>ME. þesである。
(関連語:þær 'there', þan 'than', þanne, þænne, þonne 'then', þider(<þæder) 'thither', þanone/þanon 'thence')
主格 | 対格 | 属格 | 与格 | 具格 | |
---|---|---|---|---|---|
男性・女性 | hwā | hwone | hwǣs | hwǣm,hwām | ---- |
中性 | hwǣt | hwǣt | hwǣs | hwǣm,hwām | hwȳ,hwū |
対格ではhwoneの他に、後期にはhwane, hwæn(n)eも現れる。具格にはhwȳ以外に、hwon, hwanという形が、tō hown/hwan, for hwan/hwon "why" という句の中でのみ現れる。
この他に、hwelċ(<hwā + liċ) 'which' ,双数hwǣþer/hweþer 'whether' がある。
(関連語: hū(/hwū) 'how', hwǣr/hwar 'where', hwǣnne/hwenne/hwonne 'when', hwider 'whither', hwanone 'whence')
後に男性・女性ではhwǣmがhwoneを、中性ではhǣtがhǣmを駆逐した。そして、hwāはwhoに、hwǣsはwhoseに、hwāmはwhomにhǣtはwhat、hwȳはwhy、に変わった。
見ての通り、これらはhw-を語頭に持つ。しかし、[hw-]の発音は中英語期に、全てフランス語綴りのwhに置き換えられた。hwūは古英語期を通じてhūに変化しており[hw-]の発音を持たず、この綴りの対象とはならなかった。
疑問代名詞は不定代名詞としても使われた。
古英語の疑問代名詞は現代英語とは違って、関係代名詞の用法を持たない(疑問詞が関係詞の用法を持つのは同じく疑問詞が関係詞の用法を持つラテン系の言語、特にフランス語の影響を受けた中英語期以後になる)。
動詞の活用は、時制(tense)、法(mood)、数(number)、人称(person)によって変化する。但し、命令法は時制がなく、また人称も二人称の身である。接続法や複数では人称が失われており、ゲルマン祖語に在った双数に対応する形も失われている。また、時制には分詞(participle)が存在する。
また、これら以外に、不定詞(infinitive)と与格不定詞(現代英語のto不定詞に相当)が存在する。一方で現代英語の完了相(いわゆる完了形)や進行相(いわゆる進行形)に相当する形は存在するものの、まだ形態として確立されていない。よって、一つの動詞には以下の形が存在することになる。但し、動詞によっては、文章で例証されていない形がある事もある。下表で、幹母音の違いで色分けをした。
不定詞 | ||
与格不定詞 | ||
現在時制 | 過去時制 | |
直説法 | 直説法単数一人称現在時制 | 直説法単数一人称過去時制 |
直説法単数二人称現在時制 | 直説法単数二人称過去時制 | |
直説法単数三人称現在時制 | 直説法単数三人称過去時制 | |
直説法複数現在時制 | 直説法複数過去時制 | |
接続法 | 直説法単数一人称過去時制 | 接続法単数現在時制 |
直説法複数過去時制 | 接続法複数過去時制 | |
命令法 | 命令法単数 | |
命令法複数 | ||
分詞 | 現在分詞 | 過去分詞 |
また、動詞は、強変化動詞と弱変化動詞、過去現在動詞そして不規則動詞に分類される。更に、強変化動詞は7つのクラス、弱変化動詞は3つのクラスに分けられる。現代英語の不規則動詞は大部分は強変化動詞と不規則動詞に、一部は弱変化動詞に遡る。
強変化動詞は印欧祖語の古来の母音交替(ablaut)を有しており、強変化動詞第Ⅲ類まではかなり規則的な母音交代を示すが、第Ⅳ類からはゲルマン語独自の革新であり、印欧語にみられるアップラウトではない。
弱変化動詞は過去形にOE. -deを用いることが特徴的であり、ゲルマン語にしか見受けられない動詞の分類である。語源的な話をすればこの過去形を表す要素であるOE -deはPIE. *dhē ("put" OE. don, ModE. do) に由来するものと考えられている。
過去現在動詞は弱変化、強変化両方の特徴を有し、強変化型の過去形が現在を意味し、過去形を作る際には弱変化の語尾がつく。現代英語で助動詞と呼ばれる物の多くがこれに由来する。
下にある程度分類をした。活用は確かに、ある程度分類に従うが、語によっては、ヴェルナーの法則や、縮約(contraction)、畳音(Reduplication), 音韻転換 (metathesis)、強変化と弱変化との混用などによって、典型的なものとは幾分か違う活用を起こす。そういうのをみて、同じ構造をもつものを分類すると、同じ活用をするものがそう多くないので、使う際には一つ一つ調べなければならないという非常にめんどくさいことになる。古英語を現代で使うことは無いと思うので、問題は無いだろう。
ちなみに動詞のクラス分けをしたのはグリム童話で有名なグリム兄弟の兄Jacob Grimm(ヤーコプ・グリム)である。
動詞の活用は、四つの基本語幹をもち、それらから派生していく。古英語においては、動詞の活用形の内、不定詞、直説法過去時制一人称単数、直説法過去時制複数、過去分詞によって代表させる。これらを四要形という。以下の分類、特に強変化動詞の分類は此れを示す。Vは母音(Vowel)、VaVaは長母音、VaVbは二重母音、Cは子音(Consonant)、Rは亮音(Sonant)、∅はゼロ階梯を表す。
強変化動詞は幹母音の変化によって活用する。このうち、現代英語までに、およそ三分の一が廃用、三分の一が弱変化に転化し、残りは不規則動詞になった。
活用においては、一人称単数現在と二人称単数過去が、直説法と仮定法においてそれぞれ同型である他、直説法二人称単数、直説法三人称単数においては縮約、i-母音変異がしばしば現れる。
ゲルマン語における強変化動詞は、幹母音の交代によって、7つの類に分けられる。更にこれらの類は重語幹(I, II, III)と軽語幹(IV, V, VI)、畳音類(VII)に分類される。更に、古英語独自の音変化によってIII類が5つに、VII類が二つに分けられる。但し、それぞれの動詞は類の移動、類推と音韻変化によって例外が多数存在しており、実際の活用は動詞ごとに個別にみる必要が存在する。
古英語における強変化の幹母音交替は以下のようになる。なお、VI類とVII類は過去形の幹母音が同型を示す為、三種を示されることもある。
現在 | 第一過去 | 第二過去 | 過去分詞 | |
---|---|---|---|---|
I | ī | ā | i | i |
II | eō | ēa | u | o |
III | e | ae | u | o |
IV | e | ae | ǣ | e |
V | e | ae | ǣ | o |
VI | æ | ō | ō | ǣ |
VII | 畳音構造 |
不定詞 | rīdan | stīgan | līþan | wrēon | ||
---|---|---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō rīdenne | tō stīgenne | tō līþenne | tō wrēonne | ||
時制 | 法 | 数・人称 | gの無声化 | Verner's law | 縮約動詞 | |
現在 | 直説法 | 単数一人称 | rīde | stīge | līþe | wrīġe |
単数二人称 | rītst | stīgest | līst | wrīhst | ||
単数三人称 | rītt | stīgeþ | līþ | wrīhst | ||
複数 | rīdaþ | stīgaþ | līþaþ | wrēoþ | ||
接続法 | 単数 | rīde | stīge | līþe | wrīġe | |
複数 | rīden | stīgen | līþen | wrīġen | ||
分詞 | rīdende | stīgende | līþende | wrīġende | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | rād | stāg stāh |
lāþ | wrāh |
単数二人称 | ride | stige | lide | wrige | ||
単数三人称 | rād | stāh | lāþ | wrāh | ||
複数 | ridon | stigon | lidon | wrigon | ||
接続法 | 単数 | ride | stige | lide | wriġe | |
複数 | riden | stigen | liden | wriġen | ||
分詞 | (ġe)riden | (ġe)stigen | (ġe)liden | wriġen | ||
命令法 | 単数 | rīd | stīg | līþ | wrēo | |
複数 | rīdaþ | stīgaþ | līþaþ | wrēoþ |
etc.
etc.
ヴェルナーの法則(Verner's law, Vernersches Gesetz)により、摩擦音が有声破裂音となる動詞がある。
etc.
一部の動詞は、縮約を起こす。
なお、これらは第二形式との類推により、語根母音がēo/ēu - ēa - u - oとなる場合がある。さらに、þēonは第三形式の類推によって、þungon, þungenとなる場合がある。
不定詞 | bēodan | drēogan | ċēosan | flēon | ||
---|---|---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō bēodenne | tō drēogenne | tō ċēosenne | tō flēonne | ||
時制 | 法 | 数・人称 | gの無声化 | Verner's law | 縮約動詞 | |
現在 | 直説法 | 単数一人称 | bēode | drēoge | ċēose | flēo |
単数二人称 | bīetst bēodest |
drīeġest | ċīesest | flīhst flȳhst |
||
単数三人称 | bīet(t) bēodeþ |
drīeġeþ | ċīeseþ | flīhþ flȳhþ |
||
複数 | bēodaþ | drēogaþ | ċēosaþ | flēoþ | ||
接続法 | 単数 | bēode | drēoge | ċēose | flēo | |
複数 | bēoden | drēogen | ċēosen | flēon | ||
分詞 | bēodende | drēogende | ċēosende | flēonde | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | bēad | drēah | ċēas | flēah |
単数二人称 | bude | druge | cure | fluge | ||
単数三人称 | bēad | drēah | ċēas | flēah | ||
複数 | budon | drugon | curon | flugon | ||
接続法 | 単数 | bude | druge | cure | fluge | |
複数 | buden | drugen | curen | flugen | ||
分詞 | (ġe)boden | (ġe)drogen | (ġe)coren | flogen | ||
命令法 | 単数 | bēod(e) | drēog | ċēos | flēo | |
複数 | bēodaþ | drēogaþ | ċēosaþ | flēoþ |
etc.
etc.
ヴェルナーの法則(Verner's law, Vernersches Gesetz)により、摩擦音が有声破裂音となる動詞がある。
etc.
語原により、縮約する動詞がある。
なお、tēonは不定詞で同型であるものの、第一形式、第二形式で意味、語源が異なる。
第三類は、インド・ヨーロッパ祖語の亮音(sonant)に由来する音を語幹に含む動詞群である。これらはゲルマン祖語から古英語にかけて母音の割れ(breaking)を起こし、語幹に含まれていた亮音の種別によって、それぞれで変化が異なったために母音が違っている。
OE. bindan "bind" - band - bindon - bunden
OE. helpan "help" - healp - hulpon - holpen
OE. weorpan "throw" - wearp - wurpon - worpen
OE. breġdan "drag, move"
<PGmc. *bregdaną
不定詞 | bindan | helpan | weorpan | ġieldan | breġdan | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō bindannne | tō helpanne | tō weorpanne | tō ġieldanne | tō breġdenne | ||
時制 | 法 | 数・人称 | III-a (-iNC-) |
III-b (-elC-) |
III-c (-eorC-) |
III-d (gieC-) |
III-e (-eCC-) |
現在 | 直説法 | 単数一人称 | binde | helpe | weorpe | ġielde | breġde |
単数二人称 | bintst bindest |
hipst | wyrpst | ġieldest | briġdest | ||
単数三人称 | bint bindeþ |
helpeþ hilpþ |
wyrpþ | ġieldeþ | briġdeþ | ||
複数 | bindaþ | helpaþ | weorþaþ | ġielleþ | breġdaþ | ||
接続法 | 単数 | binde | helpe | weorpe | ġielde | breġde | |
複数 | binden | helpen | weorpen | ġielden | breġden | ||
分詞 | bindende | helpende | weorpende | ġieldende | breġdende | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | band | healp | wearp | ġeald | bræġd |
単数二人称 | bunde | hulpe | wurpe | gulde | brugde | ||
単数三人称 | band | healp | wearp | ġeald | bræġd | ||
複数 | bundon | hulpon | wurpon | guldon | brugdon | ||
接続法 | 単数 | bunde | hulpe | wurpe | gulde | brugde | |
複数 | bunden | hulpen | wurpen | gulden | brugden | ||
分詞 | (ġe)bunden | (ġe)holpen | (ġe)worpen | (ġe)golden | (ġe)brogden | ||
命令法 | 単数 | bind | help | weorp | ġield | breġd | |
複数 | bindaþ | helpaþ | weorpaþ | ġieldaþ | breġdaþ |
III類の内、不定詞語根にi+N(鼻音)+C(子音)の構造を持つ者は bindanのように活用する。また、ゲルマン祖語からが音位転換(metathesis)を起こしたbiernan(<*brinnaną) - barn - burnon - burnen, irnan - arn(<*rinnaną) - urnon - urnenもある(cf. brinnan "burn", rinnan "run")。
etc.
III類の内、語幹がe+l+C(子音)の時、helpanと同じ、活用をする。このような活用をする動詞は以下のものがある。
etc.
但し、fēolan(<*felhaną)は以下の活用となる。
第三類のうち、eo+r/h+C(子音)の構造を持つものは、weorpanと同様の活用を起こす。このような活用を動詞は以下のものがある。なお、weorþan はヴェルナーの法則が働いて子音が変化する。また、feohtanはゲルマン祖語では第五類の動詞群である。
etc.
etc.
III類のうち、上記に当てはまらない動詞の内、e+C(子音)+C(子音)の構造を持つものは以下のものであり、幹母音はe - æ - u - oとなる。なお、berstanはゲルマン祖語で*brestanąであり、*-VrC-の母音の割れが生じた後に音位転換を起こしたため、このような形となっている。また、bregdan, frignanはゲルマン祖語では第五類の動詞である。
etc.
第四類の動詞群は語幹が er - ær - ǣr -or となる語群である。祖型ではPGmc. *er - *ar - *ē¹r - *ur<IE. er - or - ēr? - r◌̥と想定されている。
OE. beran "bear" - bær - bǣron - boren
<PGmc. *beraną
<PIE. *bʰéreti, *bʰer-
不定詞 | beran | |||
---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō beranne | |||
時制 | 法 | 数・人称 | ||
現在 | 直説法 | 単数一人称 | bere | |
単数二人称 | bir(e)st | |||
単数三人称 | bir(e)þ | |||
複数 | beraþ | |||
接続法 | 単数 | bere | ||
複数 | beren | |||
分詞 | berende | |||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | bær | |
単数二人称 | bǣre | |||
単数三人称 | bær | |||
複数 | bǣron | |||
接続法 | 単数 | bǣre | ||
複数 | bǣren | |||
分詞 | (ġe)boren | |||
命令形 | 単数 | ber | ||
複数 | beraþ |
OE. metan "measure" - mæt - mǣton - metan
<PGmc. *metaną
<PIE. *med-
OE. cweþan "say, tell"
<PGmc. *kweþaną
<PIE. *gʷét-
OE. sēon "see" - seah - sāwon, sǣġon - siġen, siwen
<PGmc. *sehwaną, (past 1st du) *sēgū
<PIE. *sekʷ-
OE. biddan
<PGmc. *bidjaną
<PIE. *gʷʰedʰ-
不定詞 | metan | cweþan | sēon | biddan | ||
---|---|---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō metenne | tō cweþenne | tō sēonne | tō biddanne | ||
時制 | 法 | 数・人称 | Verner's law | 縮約動詞 | 例外 | |
現在 | 直説法 | 単数一人称 | mete | cweþe | sēo | bidde |
単数二人称 | mitest | cwist | sīhst | bitst | ||
単数三人称 | miteþ | cwiþ | sīhþ | bitt | ||
複数 | metaþ | cweþaþ | sēoþ | biddaþ | ||
接続法 | 単数 | mete | cweþe | sēo | bidde | |
複数 | meten | cweþe | sēon | bidden | ||
分詞 | metende | cweþende | sēonde | biddende | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | mæt | cwæþ | seah | bæd |
単数二人称 | mǣt | cwǣde | sāwe sǣġe |
bǣde | ||
単数三人称 | mæt | cwæþ | seah | bæd | ||
複数 | mǣton | cwǣdon | sāwon sǣġon |
bǣdon | ||
接続法 | 単数 | mǣte | cwǣde | sāwe sǣġe |
bǣde | |
複数 | mǣten | cwǣden | sāwen sǣġen |
bǣden | ||
分詞 | (ġe)meten | (ġe)cweden | (ġe)siġen (ġe)siwen |
(ġe)beden | ||
命令法 | 単数 | met | cweþ | seoh | bide | |
複数 | metaþ | cweþaþ | sēoþ | biddaþ |
縮約動詞
ゲルマン祖語において、現在形に-*j-を持つ動詞は、i-母音変異と二重子音化を経た。更に、一部の動詞では硬口蓋化を起こし、-ċġ-/-dʒ-/となった。その結果、語幹母音がi-æ-ǣ-eとなっている。
OE. faran "go" - færþ - fōron - faren
<PGmc. *faraną
<PIE. *per-
不定詞 | faran | ||
---|---|---|---|
与格不定詞 | tō faranne | ||
時制 | 法 | 数・人称 | 現在時制 |
現在 | 直説法 | 単数一人称 | fare |
単数二人称 | fær(e)st | ||
単数三人称 | fær(e)þ | ||
複数 | faraþ | ||
接続法 | 単数 | fare | |
複数 | faren | ||
命令法 | 単数 | far | |
複数 | faraþ | ||
分詞 | farende | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | fōr |
単数二人称 | fōre | ||
単数三人称 | fōr | ||
複数 | fōron | ||
接続法 | 単数 | fōre | |
複数 | fōren | ||
分詞 | (ġe)faren | ||
命令法 | 単数 | far | |
複数 | faraþ |
VII類は畳音構造に由来する動詞群である。その由来は遠く印欧祖語に遡るが、ゴート語では比較的見えるが、古英語を含めた他のゲルマン語においては化石的にしか見られない。古英語では、VII類は過去形母音が -ē- か -ēo- かで分類する。
OE. hātan "call, command" - hēt, hēht - hēton - hāten
<PGmc. *haitaną, *hehait, *hehaitum, *haitanaz
<PIE. *key-d-
OE. lǣtan "let"
<PGmc. *lētaną, *lelōt
<PIE. *leh₁d-
OE. blandan "blend"
<PGmc. *blandaną, *bebland
<PIE. *bʰlendʰ-
OE. fealdan "fold"
<PGmc. *falþaną, *fefalþ
<PIE. *polt-
OE. blāwan
<PGmc. *blēaną, *beblō
<PIE. *bʰleh₁-
OE. bēatan "beat"
<PGmc. *bautaną, *bebaut
<PIE. *bʰewd-
OE. flōwan
<PGmc. *flōaną, *feflō
<PIE. *plōw-
不定詞 | hātan | lǣtan | blandan | fealdan | blāwan | bēatan | flōwan | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō hātanne | tō lǣtanne | tō blandanne | tō fealdenne | tō blāwenne | tō bēatenne | tō flōwenne | ||
時制 | 法 | 数・時制 | ē過去 | ēo過去 | |||||
ā-ē-ē-ā | ǣ-ē-ē-ǣ | a-ēo-ēo-a | ea-ēo-ēo-ea | ā-ēo-ēo-ā | ēa-ēo-ēo-ēa | ō-ēo-ēo-ō | |||
現在 | 直説法 | 単数一人称 | hāte hātte hātu hāto |
lǣte | blando | fealde | blāwe | bēate | flōwe |
単数二人称 | hǣtst | lǣtst | blentst | fieldest | blǣwest | bīetst | flēwest | ||
単数三人称 | hǣtt hāte hātte hāteþ |
lǣt | blent | fieldeþ | blǣweþ | bīett | flēweþ | ||
複数 | hātaþ | lǣtaþ | blandaþ | fealdaþ | blāwaþ | bēataþ | flōwaþ | ||
接続法 | 単数 | hāte | lǣte | blande | fealde | blāwe | bēate | flōwe | |
複数 | hāten | lǣten | blanden | fealden | blāwen | bēaten | flōwen | ||
分詞 | hātende | lǣtende | blandende | fealdende | blāwende | bēatende | flōwende | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | hēt heht |
lēt | blēnd | fēold | blēow | bēot | flēow |
単数二人称 | hēte hehte |
lēte | blēnde | fēolde | blēowe | bēote | flēowe | ||
単数三人称 | hēt heht |
lēt | blēnd | fēold | blēow | bēot | flēow | ||
複数 | hēton hehton |
lēton | blēndon | fēoldon | blēowon | bēoton | flēowon | ||
接続法 | 単数 | hēte hehte |
lēte | blēnde | fēolde | blēowe | bēote | flēowe | |
複数 | hēten hehten |
lēten | blēnden | fēolden | blēowen | bēoten | flēowen | ||
分詞 | hāten | (ġe)lǣten | blanden | (ġe)fealden | (ġe)blāwen | ġebēaten | (ġe)flōwen | ||
命令法 | 単数 | hāt | lǣt | bland(e) | feald | blāw | bēat | flōw | |
複数 | hātaþ | lǣtaþ | blandaþ | fealdaþ | blāwaþ | bēataþ | flōwaþ |
弱変化動詞は語幹に-dや-tを含む語尾をつけて過去、過去分詞を作る。古英語の文献上およそ8割を占める。なお、弱変化において古英語は3類までしか持たないが、ゴート語の史料からゲルマン祖語においては-nanの語尾を持つ4類が存在したことが推測されている。
1類はゲルマン祖語において*-janという語尾を持っていたと推測される。このため、語幹にi-ウムラウト、二重子音化が存在する。
語尾 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
不定詞 | fremman | nerian | dēman | drenċan | ġierwan | -an | ||
現在 | 直説法 | 単数一人称 | fremme | nerie | dēme | drenċe | ġierwe | -e |
単数二人称 | frem(e)st | nerest | dēmst | drenc(ċe)st | ġierest | -(e)st | ||
単数三人称 | frem(e)þ | nereþ | dēmeþ | drenc(ċe)þ | ġiereþ | -(e)þ | ||
複数 | fremmaþ | neriaþ | dēmaþ | drenċaþ | ġierwaþ | -aþ | ||
接続法 | 単数 | fremme | nerie | dēme | drenċe | ġierwe | -e | |
複数 | fremmen | nerian | dēmen | drenċen | ġierwen | -en | ||
分詞 | fremmende | neriende | dēmende | drenċende | ġierwende | -ende | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | fremede | nerede | dēmde | drencte | ġierede | -(e)d/te |
単数二人称 | fremedest | neredest | dēmdest | drenctest | ġieredest | -(e)d/test | ||
単数三人称 | fremede | nerede | dēmde | drencte | ġierede | -(e)d/te | ||
複数 | fremedon | neredon | dēmdon | drencton | ġieredon | -(e)d/ton | ||
接続法 | 単数 | fremede | nerede | demde | drencte | ġierede | -(e)d/te | |
複数 | fremeden | nereden | dēmden | drencten | ġiereden | -(e)d/ten | ||
分詞 | fremede | nerede | dēmed | drenċed | ġier(w)ed | -(e)d | ||
命令法 | 単数 | fremme | nere | dēm | drenċ | ġiere | -e | |
複数 | fremmaþ | neriaþ | dēmaþ | drenċaþ | ġierwaþ | -aþ |
弱変化動詞2類語尾に-ian を持つ。これらはゲルマン祖語において-*ōjanという語尾を持っていたと推測される。このため、1類に見られるi-ウムラウト、二重子音化がない。West-Saxon以外では直説法過去単数において、-adeとなることが多い。
語尾 | ||||
---|---|---|---|---|
不定詞 | lufian | -ian | ||
現在 | 直説法 | 単数一人称 | lufi(ġ)e | -ie |
単数二人称 | lufast | -ast | ||
単数三人称 | lufaþ | -aþ | ||
複数 | lufiaþ | -iaþ | ||
接続法 | 単数 | lufi(ġ)e | -ie | |
複数 | lufi(ġ)en | -ien | ||
分詞 | lufiende | -iende | ||
過去 | 直説法 | 単数一人称 | lufode | -ode, -ade, -ede |
単数二人称 | lufodest | -odest | ||
単数三人称 | lufode | -ode, -ade, -ede | ||
複数 | lufodon | -odon, -edon | ||
接続法 | 単数 | lufoden | -ode | |
複数 | lufonden | -oden | ||
分詞 | lufod | -od | ||
命令法 | 単数 | lufa | -a | |
複数 | lufiaþ | -aþ |
2類に属する動詞は以下のものがある。
3類に属するのは、habban, libban, seċġan (secgen), hyċġanの四つである。語尾は不定詞は-an, 過去単数は -de、過去分詞-d。1類と2類の混合のような活用となっている。
不定詞 | habban | libban | seċġan | hyċġan | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
現在時制直説法 | 単数一人称 | hæbbe | libbe | seċġe | hyċġe | ||
単数二人称 | hæfst hafast |
leofast | seġest sæġst sagast |
sǣst | hyċġst hyċġest |
hogast | |
単数三人称 | hæfþ hafþ |
leofaþ | seġeþ sægþ sagaþ |
hyċġþ hyċġeþ |
hogaþ | ||
複数 | habbaþ | libbaþ | seċġaþ | hyċġaþ hyċġeaþ |
|||
現在時制接続法 | 単数 | hæbbe | libbe | seċġe | hyċġe | ||
複数 | hæbben | libben | seċġen | hyċġen | |||
過去時制直説法 | 単数一人称 | hæfde | lifde | sæġde | sǣde | hogde hogode |
|
単数二人称 | hæfdest | lifdest | sæġdest | sǣdest | hogdest hogodest |
||
単数三人称 | hæfde | lifde | sæġde | sǣde | hogode | ||
複数 | hæfdon | lifdon | sæġdon | sǣdon | hogdon hogodon |
||
過去時制接続法 | 単数 | hæfde | lifde | sæġde | sǣde | hogde hogode |
|
複数 | hæfden | lifden | sæġden | sǣden | hogden hogoden |
||
命令法 | 単数 | hafa | leofa | seġe sæġe saga |
hyġe | hoga | |
複数 | habbaþ | libbaþ | seċġaþ | hyċġaþ hyċġeaþ |
|||
現在分詞 | hæbbende | libbende | seċġende | hyċġende | |||
過去分詞 | hæfd | lifd | sæġd | (ġe)hogod |
また、nabban(<ne + habban)もhabbanと同様の活用をする。
seċġanはdの前のġ[j]がしばしば脱落し前の母音を長音化した。
hyċġanはiウムラウト発生前にiの語尾を持たない活用は母音変化が起こらずu>oの変化を経たが、持つ活用はu>yの変化を経ており、現在時制ではそれが類推によって埋められた。なお、これは初期ウェセックス方言で起こっており、他方言ではしばしば弱変化二類動詞 hogianの活用形が見られた。
以上の表では、seċġanとhyċġanは二列に分けているが、これを二列に分けるのは簡便の為で特段の使い分けはない。
現在時制の活用が印欧祖語の過去形あるいは完了形に由来する強変化動詞群で、改めて過去形を弱変化の活用でつくった動詞群であり、そのため分類は強変化に準じて行う。現代英語では助動詞として使われるものも多い。命令法は接続法を持って行うのが一般的だが独立した形を持つものもある。u/yの両形を持つ者はyの方が古形である。
I | II | III | IV | V | VI | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
不定詞 | witan | āgan | dugan | cunnan | unnan | þurfan | durran | sculan | *(ġe)munan | magan | *mōtan | |
現 在 時 制 直 説 法 |
単 数 一 人 称 |
wāt | āh | dēah dēag |
can cann |
an ann |
þearf | dear dearr |
sceal | man | mæġ | mōt |
単 数 二 人 称 |
wāst | āhst | - | canst | - | þearft | dearst | scealt | manst | meaht miht |
mōst | |
単 数 三 人 称 |
wāt | āh | dēah dēag |
can cann |
an ann |
þearf | dear dearr |
sceal | man | mæġ | mōt | |
複 数 |
witon | āgon | dugon | cunnon | unnon | þurfon | durron | sculon | munon | magon | mōton | |
現 在 時 制 接 続 法 |
単 数 |
wite | āge | duge dyge |
cunne | unne | þurfe þyrfe |
durre dyrre |
scule scyle |
mune myne |
mæġe- | mōte |
複 数 |
witen | āgen | dugen | cunne | unne | þurfen þyrfen |
durren | sculen scylen |
- | mæġe- | mōten | |
過 去 時 制 直 説 法 |
単 数 一 人 称 |
wisse wiste |
āhte | dohte | cūþe | ūþe | þorfte | dorste | scolde sceolde |
munde | meahte mihte |
mōste |
単 数 二 人 称 |
wissest wistest |
āhtest | - | cūþest | ūþe | - | - | scoldest sceoldest |
munde | meahtest mihtest |
mōstest | |
単 数 三 人 称 |
wisse wiste |
āhte | dohte | cūþe | ūþe | þorfte | dorste | scolde sceolde |
munde | meahte mihte |
mōste | |
複 数 |
wisson wiston |
āhton | dohton | cūþen | uþon | - | dorston | scoldon sceoldon |
munde | meahton mihton |
mōston | |
過 去 時 制 接 続 法 |
単 数 |
wisse wiste |
āhte | - | cūþe | ūþe | - | - | scolde sceolde |
- | meahte | - |
複 数 |
wisten | āhten | - | cūþen | - | - | - | scolden sceolden |
- | meahten | - | |
命 令 法 |
単 数 |
wite | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - |
複 数 |
witaþ | - | - | - | - | - | - | - | ||||
現在 分詞 |
witende | āgende | dugende | - | - | þearfende | - | sculende | munende | - | - | |
過去 分詞 |
ġewiten | āgen ǣgen |
- | cunnen cūþ |
geunnen | - | - | sculen | munen | meahte mihte |
mōste |
witanは現在英語文語のwit, wotに相当する。意味は"to know"。ドイツ語ではwissenに対応。現在時制が強変化I類の過去時制の変化に由来。否定辞neとの融合形nāt、nītonなどがある。
āganは現代英語のowe、ought、ownに相当する。意味は"to own, to possess, to have" 「所有する」。過去分詞āgen、ǣgenは形容詞としてのみ使われる。否定辞neとの融合形nāh、nāhtonなどがある。
duganは現代英語dowに相当する。意味は"to avail, to be of use"。
cunnanは、現代英語のcanに相当する。但し、この時代では、まだ動詞としての用法が強い。意味は"to know, to be able to" 。現代英語のcouldは、過去形cūþeに由来するが、語中の' l 'はwill/wouldやshall/shouldからの類推によるもので、本来は間違い。過去分詞cūþは、形容詞としてのみ使える。
unnanのオランダ語gunnen、スウェーデン語unna、デンマーク語undeに相当する。意味は"grant" 。
þurfanは現代英語では廃用になったtharfに、またドイツ語ではdürfenに相当する。意味は、現代英語の"to need"。
durranは現代英語のdareに相当する。意味は"dare"
schulanは現代英語のshall,shouldに相当する。意味は"must, have to, should, shall"
*(ġe)munanの意味は"think of, remember"
maganは現代英語のmayに相当する。意味は"can"。miht(meht)は後期ウェセックス方言の語形。
*mōtanは現代英語のmustに相当する。意味は、"may, to be able, must"。過去形mōsteがModE.mustの直接の語源である。
この四つは、語尾の起源(印欧祖語の一人称単数語尾が-mi活用、他の動詞は-ō活用、要は印欧祖語で非母音語幹動詞か母音語幹動詞かの違い)や、過去形の形成の仕方が、他の動詞と異なる為、変則動詞と呼ばれる。
OE. willan < PGmc. *wiljaną < PIE. *welh₁-
OE. dōn < PGmc. *ðōną < PIE. *dʰeh₁-
OE. gān < PGmc. *γāną < PIE. *ǵʰeh₁-
不定詞 | willan | dōn | gān | |
---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō willanne | tō dōnne | tō gānne | |
現在時制直説法 | 単数一人称 | wille | dō | gā |
単数二人称 | wilt | dēst | gǣst | |
単数三人称 | wil(l)e | dēþ | gǣþ | |
複数 | willaþ | dōþ | gāþ | |
現在時制接続法 | 単数 | wil(l)e | dō | gā |
複数 | willen | dōn | gān | |
現在分詞 | willende | dōnde | - | |
過去時制直説法 | 単数一人称 | wolde | dyde | ēode |
単数二人称 | woldest | dydest | ēodest | |
単数三人称 | wolde | dyde | ēodest | |
複数 | wolden | dyden | ēoden | |
過去時制接続法 | 単数 | wolde | dyde | ēode |
複数 | wolden | dyden | ēoden | |
過去分詞 | - | gedōn | gegān | |
命令法 | 単数 | - | dō | gā |
複数 | - | dōþ | gāþ |
willanは現在英語のwill、dōnは現在英語のdo、gānは現在英語のgoに相当する。但し、willanの意味は、”望む”であり、現在英語のwillの使用法は古英語ではしない。
また、willには、否定辞のneと結合したnyllan、nellan、nolde、後期にはnelle、nellaþなどがある。
この三つの動詞は過去時制に於いて、またdōnとgānは現在時制においても、活用の仕方が似ているため、よく併記される。
現在のbe動詞に相当する。この動詞は三つの動詞(厳密には四つ)に由来し、そのため不規則の度合いが大きくなっている。
OE. sēon< PGmc. *i(s)- < PIE. *h₁es- "to be"
bēon< PGmc. *βeuną < PIE. *bʰewH- "to become"
wesan< PGmc. *wesaną < PIE. *h₂wes- "to remain"
不定詞 | sēon/sindon | bēon | wesan | ||
---|---|---|---|---|---|
与格不定詞 | tō sēonne | tō bēonne | tō wesanne | ||
現在時制直説法 | 単数一人称 | eom | bēo | wese | |
単数二人称 | eart | bist | wesst | ||
単数三人称 | is | bið | wes(t) | ||
複数 | sind(on) sint |
bēoð | wesað | ||
現在時制接続法 | 単数 | sī(e) | bēo | wese | |
複数 | sī(e)n | bēon | wesen | ||
現在分詞 | - | bēonde | wesende | ||
過去時制直説法 | 単数一人称 | - | - | wæs | |
単数二人称 | - | - | wǣre | ||
単数三人称 | - | - | wæs | ||
複数 | - | - | wǣron | ||
過去時制接続法 | 単数 | - | - | wǣre | |
複数 | - | - | wǣren | ||
過去分詞 | - | ġebēon | - | ||
命令法 | 単数 | sī, sēo | bēo | wes | |
複数 | - | bēoð | wesað |
sindon系列は母音またはs で始まる形態でラテン語のsumなどと同根。但し、eartはゲルマン祖語*iraną、印欧祖語*er-に由来し、現代英語で現在時制二人称や複数に用いられるareは古ノルド語のerunと同根のearon/earun由来でこちらもゲルマン祖語*iranąの三人称複数現在形の*arunに遡る。
この動詞は、否定形としてneとの融合形neom,nis,næsを持つ。Anglianでは、bēonのēoはīoとなっており、eom,eartはそれぞれ、eam,(e)arþの形を持つ。
sindon/wesan系列はゲルマン祖語の段階で既にお互いを補充法的に補っていた。sindon/wesan系列は特に現在形においては、一時的なことや仮定したことを表すのに用いられた。
bēon系列はbで始まる形態であり、専ら、習慣や未来のこと及び不変のことを含意することが多かった。
wesan系列は元来は、強変化第5類に属する動詞だが、専ら過去時制でしか使われない。
これらの差異が中英語を通して近代英語、現代英語まで持ち込まれたためbe動詞は(現代英語の動詞にしては)複雑な活用を示す。
掲示板
43 ななしのよっしん
2021/08/03(火) 17:35:42 ID: Tv/t4SgH0q
軽い気持ちで開いたら本格的すぎるページが待っていた
なにこれこわい
古英語無料で学べちゃうやん…
44 ななしのよっしん
2023/05/08(月) 03:28:30 ID: 2vNwPToVH6
FGOでケルヌンノスについての碑文?が古英語で書かれてるとあったが…この大百科やべぇ
これを全部頭に入れて理解してるダビンチちゃんマジ天才
45 ななしのよっしん
2023/05/08(月) 10:13:08 ID: 2vNwPToVH6
現代英語の大百科もこれくらい充実していたら学習に使えるのに…
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最終更新:2024/11/30(土) 09:00
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