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「死ぬくらいなら、その前になぜ仕事を辞めなかったのか?」その疑問に答える「科学的な理由」

近藤 一博

2023年に日本人10万人を対象に実施した調査によると、じつに78・5%の人が「疲れている」と答えたという。だが欧米では、「疲れているのに働く」ことは自己管理ができないだらしない行為と見なされるため、疲労の科学的な研究は軽視されてきた。「疲労」が美徳とされ、お互いを「お疲れさま」と称えあう特異な国だからこそ、日本の疲労研究は世界のトップを走っている。その日本で疲労研究をリードする著者が、数々のノーベル賞級の新研究をなしとげて見えてきた、疲労の驚くべき実像とは。
*本記事は、近藤 一博『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』(講談社ブルーバックス)を抜粋、編集したものです。
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うつ病の脳内炎症が発生するメカニズム

うつ病患者の約80%が抗SITH‐1抗体陽性であり、SITH‐1を発現させたマウスがうつ病様の症状を示すことから、SITH‐1がうつ病の原因の一つであることは確実です。

ところがうつ病には、SITH‐1だけでは説明できない症状がありました。

それが、脳内炎症です。病的疲労の原因は脳内炎症と考えられ、第3章でみたように、うつ病においてもそれは同様です。また、うつ病患者にみられる強い疲労感の原因も、脳内炎症であると考えられます。

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しかしそれほど重要な、うつ病で脳内炎症が発生するメカニズムが、SITH‐1マウスでは脳内炎症がみられなかったため、SITH‐1だけで説明することができなかったのです。

このためわれわれは、SITH‐1がうつ病の原因であると完全に言い切るには、何か大切なピースが欠けているのではないかと考えていました。第3章で最初にSITH‐1を紹介したときに、うつ病の「危険因子」であるとして、「原因」とまでは言い切らなかったのは、そのためでもあります。

しかし、この本の執筆直前にわれわれは、新型コロナウイルス後遺症の研究を経て、SITH‐1が抱えるこの問題を解決することができました。

結論からいうと、SITH‐1と脳内炎症をつなぐ重要なピースが見つかったのです。

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