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SNSが生む経済損失
手元のスマートフォンのアラートに頻繁に喚起され、それに手を伸ばしてはチェックを繰り返す。たとえ仕事の打ち合わせ中でも、である。そのアラートは、フェイスブック上で更新が生じたことやメッセージ受信のお知らせだ。また、仕事でパソコンに向かうことが多い職業だと、画面上でフェイスブックやツイッターに常につながったままの状態の人も少なくない。
ワシントン・ポスト紙の元スタッフ・ライター、ウィリアム・パワーズ(William Powers)氏は、自著の中で次のことを指摘している。
「心理学の知見によると、頭を使う仕事をやめて横から入ってきた用事に対応すると、感情や知覚はたちどころに肝心な仕事から離れはじめ、別件に長いあいだ気を取られていると、元に戻るのに要する時間も長くなるという。いくつかの推定によると、集中力を回復するのにかかる時間は中断時間の10~20倍にもおよぶこともある」(引用元:『つながらない生活 「ネット世間」との距離のとり方』有賀裕子訳)
あらためて言われてみると、身に覚えがある人も少なくないだろう。
パソコンに向かって上司への報告書を作成している。すると同じパソコン画面上で接続しているフェイスブックのニュースフィードにちょっと目をやると、友達の投稿がどんどん流れてくる。ちょっと一瞬のつもりでフェイスブックの投稿を眺める。いくつかの投稿を眺めてコメントをしたりで滞在5分。たった5分の寄り道だ。しかしどうだろう。作成中の上司への報告書に戻ったものの先ほどの投稿が頭にちらつく。「ああ、投稿にあったイタリアンレストランはよさそうだな。今度行ってみよう」。そんなことを頭の中でもやっと思いながら、作業を進める。そう、実は集中力という観点では、5分の寄り道では済まなくなっている。先のデータを基にすれば、集中力を回復するのに、下手したら中断時間である5分の10〜20倍の時間を要することだってあるのだ。物理的にはたった5分でも、作業効率という観点ではなかなかのダメージだ。
この〝なかなかのダメージ〟についてはこんなデータもある。
BaseX(http://basex.org/)が2008年に行った推計では、情報過多により年間9000億ドルもの経済損失が生じているという。以降、ソーシャルメディアの利用者数と利用時間が飛躍的に伸びていることを考えると、現時点ではもっと多くの経済損失の源になっている可能性がある。みんなの「ちょっと一瞬」が積もりに積もると、経済損失という観点ではとんでもない数字に膨れ上がるという試算だ。これはもう、〝なかなか〟と言える次元ではない。
「新しい病」を生むデジタル
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「友人からのSNSへのコメントやメールにすぐに返答しなくては、と思うとなかなか寝つけないんです」
SNSでのやりとりに没頭し、やめられなくなる「ネット依存」の悩みを抱えて医療機関にかかる人が増えている。スマートフォンやソーシャルメディアの普及がネットから片時も離れられないという「新しい病」を生み出しているというのだ。