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『火花』は入ってる?話題の翻訳家・鴻巣友季子が選んだ2015年の日本小説ベスト12!

年末年始にぜひ読んでほしい「この一冊」

11 川上未映子『あこがれ』新潮社

「他人の痛みをわかれ」とか「人の立場になって考えろ」というのが、「思いやり」を説くときの常套句。本当にそんなことできるんでしょうか? と、哲学者トマス・ネーゲルは『コウモリであるとはどのようなことか』で問うたわけですが、小学生の女の子と男の子の二視点で書かれた『あこがれ』は、シンパシーをめぐる中編集。

ほのかな恋愛とそれを取り巻く大人たちの事情が、さまざまな誤解も織り交ぜて描かれます。他人を理解できるかというのは川上未映子のメインテーマでもあるでしょう。

 

12 青木淳悟『匿名芸術家』講談社 

読み解きがたい謎の作家・青木淳悟。『匿名芸術家』は、十年余り前、彼がデビュー作を書きだすまでの、デビュー前夜を自伝的に描いた小説、と本の帯には謳われています。が、内容は自伝小説からどんどん離れて……19世紀ロマン派の画家たちと麻布のスーパーマーケットが……いや、どうやっても説明できません。とにかくデビューから十数年、批評家たちをこんなに困らせている小説家はいないのです!

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番外編(超期待) 高橋弘希『朝顔の日』新潮社

2015年の芥川賞は、又吉直樹『火花』と羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』の受賞で話題でしたが、私は一緒に候補になっていたこの『朝顔の日』も応援していました。作者はオルタナ系バンドのミュージシャンで、戦前戦中を描くのを得意としています。本書は堀辰雄の『風立ちぬ』や梶井基次郎の『檸檬』などで描かれた「最も文学的な病」肺結核(テーベ)を扱っています。

でも、ただの歴史小説ではありませんよ! 古めかしい文体に21世紀の先端的な視点、近代文学と現代文学、過去の戦争とこれから起きうる戦争を二重写しにした、果敢な未来形の小説です。 

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