フリーライターの田中亜紀子さんが、元校長だった80代の父を「おかしい」と思い始めたのは数年前のこと。ようやく病院に連れて行くことができ、認知症の「ピック病」の割合が多いと診断されたのは2017年秋だった。それから約1年後の2018年の夏には、転倒し裂けた損傷部位を自ら切り取り、おでこの広範囲を骨にする「事件」が起きた。

それから父親と二人暮らしの田中さんはほとんど出かけられず、遠出の用事も日帰りがメインで、家をあけることが怖かった。が、事件から1年、大好きだという台湾の旅行に誘われたのだ。

世の中には仕事や育児など様々な事情で自由な時間が取れない人も少なくない。介護を理由に諦めていた田中さんが実現できた、留守中の体制を整えなんとか行けたその旅行。その効果と、そこで出会った「驚きの占い」に救われた話をリポートしてもらおう。

台湾1のパワースポットと呼ばれる龍山寺 写真提供/田中亜紀子

1年前の夏の惨劇から、家をあけるのが怖い

8月頭の暑い夏の日、私は台湾でチベット医学の脈診から占いを行う先生に対峙していた。しばらく見てもらったあと、先生は急にある図を描き、話を始めた。その時私は図の意味に気づき、震えるほど驚いた。なぜそれを? 思わず口を開こうとしたら先生は言った。

知っています。言わなくてもわかっていますよ。そのことは

 

昨年7月末、家でちょっとした惨劇があった。認知症の中でもピック病の症状が強い80代の父が、外で頭から転倒し、おでこの皮膚と肉が裂けた後、家で自ら損傷部位をはさみで整えてしまったのだ。私が発見した時には、家は血の海、父のおでこはまるっと骨に(その時の話はこちらの記事に詳しく記している)。治療中も後も様々なことがあり、いろんな時を過ごす中、私はほとんど家をあけられなかった。

その日からちょうど1年あまり。信じられないことに、私はこの8月頭、友達と台湾を2泊3日で訪れていたのだ。

事件以来、「小規模多機能型居宅介護」の施設(以下、小規模多機能)と契約し、そこのケアマネさんと日々試行錯誤して父の生活を工夫した。現在は通所のある日々だが、父は一日に3時間ぐらいしかいられず帰宅する。私がいぬ間に、また何かやらかしたらと思うと、外出は気が気ではなく、仕事でも長時間家をあけることは恐ろしい。

数少ない私的な外出は、基本はいつでも戻れるように家の近く遠出が必要な時もダッシュで日帰り。独身で不規則なライター業をしながら、一人で父親のコントロールをしていたので、思うように仕事もできず、どこにいても家のことが頭からはなれない重苦しい1年を過ごした。

幸い父は、通所と見守りのあるルーティンの生活に慣れ、最近は私も日々のコントロールが楽になりつつあった。それに伴い、気晴らしに旅にでたいと思い始めたものの、「もうちょっと状況が落ち着くまで待とう」となかなか実践の覚悟が持てなかった。

しかし7月中旬、友人から台湾行の誘いがあった。当初はまだ決意できず、行かないつもりだった。が、「絶対的に安心な時はこないし、むしろまた悪化するかもしれないから、今のうちかも」と心が揺れる。とりあえずもし行けば世話をかけることになる小規模多機能のケアマネさんに「短期で海外旅行に行ってもいいでしょうか」と、思い切って相談してみた。