12月19日付の日本経済新聞では、大成建設が2025年4月に入社する総合職の大卒初任給を前年度から2万円引き上げ30万円とする方針を固めたと報じました。
これで初任給の引き上げは4年連続となるもようです。定年も60歳から65歳に延長し、定年後に再雇用する社員の待遇も高める方針としています。
同社の初任給引き上げはこれで4年連続と前述しましたが、同社だけでなく大林組、鹿島、清水建設、竹中工務店など大手ゼネコンといわれる建設各社はそろって初任給の引き上げを続けてきました。今回、大成建設が引き上げを決めたと報じられたことから、おそらく他社も追随すると思われます。
背景には24年4月から時間外労働の上限規制が導入されたことで、人手不足が深刻化していることが挙げられます
ただでさえ、建設業界にかぎらず少子化に伴う就職希望者の減少が進んでいるなかで、働く時間まで減少していくと必要な労働力を確保するのも大変です。それだけ業界のなかで人材の奪い合いが激しくなっているということでしょう。
加えて、国の制度による影響もあります。政府は、2022年度より、賃上げを実施した企業を公共入札で優遇する精度を開始しました。「総合評価落札方式における賃上げを実施する企業に対する加点措置」(入札加点制度)と呼ばれるものです。国土交通省が契約する直轄工事のうち、入札に参加した役7割の企業が賃上げを表明していた、という調査もあるようです。建設業界にとって公共事業が非常に重要ですから、賃上げを実施するインセンティブもそれだけ高まるということでしょう。
ただし、こうした国の制度の影響は公務員の採用にも及んでいます。2024年度の国家公務員の一般職試験(大卒程度)では、技術系土木区分の合格者数が採用予定数の74%にとどまり、定員割れとなりました。受験申込者数も、採用試験制度を見直した2012年度以降で初めて1000人を割り込む事態となっています。
民間で賃上げが進むことで、官民の格差が広がってしまうことが要因の一つであると考えられます。人事院もそれを把握して、公務員の初任給を増額するよう勧告も行っていますが、働き方改革同様に十分に進んでいるとは言えない状況だと感じます。
さて、初任給の引き上げを続けている大成建設ですが、全社員の平均年収はどのようになっているでしょうか。有価証券報告書によれば、同社の2024年3月期の平均年間給与は1025万円、2023年3月期は同993万円、2022年3月期は同964万円、2021年3月期は同985万円、2020年3月期は同1010万円となってます。
コロナ後に一時年収が下落した期間がありましたが、直近の2024年3月期にはコロナ前の水準を上回っています。従業員も増加傾向にあり、賃上げの効果もあってしっかり人員を確保できているようです。
足もとでは建設費用や材料などの高騰などが問題となっています。それに加えて人件費の問題もあり、建設業界の経営環境は以前にもまして厳しくなっていると言えます。われわれにとっても、例えばマンション価格の高騰や家賃の上昇などが家計に影響を与えています。賃上げの流れが続くことで、家計の消費も増え、経済が回る好循環になんとかつなげたいものです。