さて、前回久しぶりに近況を一挙ご紹介した後ですが、これまた久しぶりに仕事ぶりなんかも書いてみようと思います。
ステノ退職、Herlev小児科と経て就職した王立病院内分泌外来ですが、早くも4年半が経ちました。ひと所に4年以上というと、ステノを超える長期逗留です。
基本的には、内分泌外来に4つあるチームのうちの、糖尿病チームに所属しているわけですが、去年いろいろと思うところがあって、内分泌チームも兼任することになり、二足の草鞋を踏みしだいている毎日です。でもまあ、この内分泌疾患がこれまた複雑で、正直言ってわからないことばかりですが、なんとか平静を装って仕事をしています。
王立病院の糖尿病チームで対応している患者さんの多くは、いわゆる「続発性糖尿病」というカテゴリーの糖尿病です。他科に入院、通院中で、その治療の関係で糖尿病を新たに発症したり、元々の糖尿病が悪化したというケースが多く、しかし、他科の先生達はその元の病気を専門的に診る以外、二次的に現れた糖尿病の高血糖問題に関して、そこまで手が回らないため、うちの外来に往診を希望してきます。そして、内分泌科の研修医の往診だけでは手が回らないため、出動するのが糖尿病ナースです。
王立病院は一応デンマークの中枢的、高度専門医療機関なので、専門的な手術や治療として、臓器移植や癌治療でのステロイド投与、消化器系外科治療、肺線維症(システィックフィバローシス。王立病院にはデンマーク唯一のCFクリニックがある)、透析を含む腎臓病、広範囲熱傷などの外傷などなどを背景に、高血糖が問題となる場面が多く、糖尿病だけではなく、元々の病気とその治療にもある程度知識をもち、その治療に高血糖が支障とならないよう管理し、さらには地方の病院に転送される前に、ある程度の糖尿病管理とプランを緊急対応ドクターとともに、入院中に立てておく(場合によってはうちの外来で引き続きケアをしていく)のが往診糖尿病ナースの仕事です。
糖尿病以外は畑違いなもので、外科のこと、癌治療のことなど、最初は本当に手探りで、わからないことばかりでした。特にうちのお得意さんである上部消化器外科、主に膵臓癌患者さんのことは、本当にその管理が難しく、知れば知るほど、深く関われば関わるほど、どんどん膵臓の病気にはまってしまいました。
そして気がついたら、すい臓がん全摘出後にインシュリン依存性糖尿病となる患者さんへの、術前糖尿病指導、外科病棟での術直後のインシュリン治療導入、癌病棟での術後抗ガン治療中のインシュリン調整と栄養管理などなど、消化器外科、癌病棟、糖尿病科と3つの領域を最小限のトラブルで治療が進むように管理をする、「治療過程コーディネーター」となったのが2年前です。
コーディネーターとして他の糖尿病往診ナース達に指示を与えつつ、外科から糖尿病外来へ、そこから癌治療へとスムーズに移行させること、術後即抗ガン治療に入り、体力のない患者さんや、遠方に住む患者さんへの、電話やメールでのフォローアップと、膵臓全摘後の糖尿病に関する患者指導資料作り、術後栄養士とのコラボで行う合同診療、糖尿病看護評価のためのデータ採集とアナライズなど、やることはめちゃくちゃ多いのですが、目に見える効果が出てきていること(術後1年以内の死亡率低下と低血糖問題の減少)、上司やドクター達、同僚からの理解とサポートをたくさんいただけていることもあり、なんとかやりくりできています。
そんな他科往診糖尿病ナース、そして独立して行う糖尿病看護外来の仕事について、知り合いの日本人糖尿病専門医の方と話していたことがきっかけとなり、なんとその先生の推薦で、「CDEの役割を考える〜将来の展望〜」というテーマで行われる、日本糖尿病療養指導士のワークショップにゲストとして登壇させていただくことが決まりました。
同じ日の講演プログラムには、聖マリアンナ医科大、慈恵会医科大、日医大などの糖尿病会の大御所である名誉教授が名を連ねており、Kanahei、すでにちびりそうでしたが、「宝の持ち腐れ」状態の日本の糖尿病療養指導士資格、ドクターにとっても負担減、ナースにとっても活躍の場が増えて仕事にやりがいが生まれるならばと、「よっしゃ!頑張るで!」とやる気満々だったんですけどね…。残念ながらコロナのせいで講演会は延期となりました。とほほ。でも来年まで発表内容を温めつつ、さらに熟成の進んだ良いものとする時間ができたと思って、前向きに行こうと思います。
そしてコロナ。たくさんの、いろんな人に様々な影響を及ぼしたコロナ。私のようなヘボ市民にも影響がおよび、コロナ緊急事態宣言のせいで、4月1日からコロナ重症患者専門ICUに飛ばされたのですが、今のところ現場は予想とは裏腹に、とても落ち着いています。
デンマークではICUの専門ナースとなるためには最低2年のICU現場経験、その後2年の専門教育を受けるので、彼らの専門性は非常に高いです。働き方としては、ドクターが出した指示に従って、ICUナースが人工呼吸器、透析、すべての管、投薬の管理をほぼ独立して行っています。なので、ナースだからというだけでICU勤務ができるかというと、全然できないわけです。
そしてそんな高度専門資格を持つスタッフはそこまで多いわけではなく、人工呼吸器のような医療機器の台数も限られています。イタリアやスペインのように医療崩壊が起きた現場では、このキャパを超えて患者さんが押しかけたため、患者さんがバタバタと亡くなっていきました。デンマークみたいな小さな国では、とにかくそんな状況を何としても避ける必要があり、イタリアの医師と実際に話をしたというデンマーク保健相のボスは、「とにかく、なんでもできることを全てしてください。崩壊が起きてからではもう遅い」と、必死な訴えを聞いたそうです。
そういった理由もあって、王立病院では本院の隣に出来たばかりの、最新設備を備えた脳神経センターとなる予定だった新棟を、丸ごとコロナ対策病棟としてオープンすることになりました。ICUベッドが30床、状況によってさらに30床増設可、さらに入院管理が必要なコロナ患者さんのためのコロナ病棟を30床、コロナ外来、コロナスクリーニングと、4月からどんどこ作っていき、ロックダウンで通常診療を出来ない外来などからスタッフを寄せ集め、新コロナセンターを作りました。
何よりも必要となるICU資格保持ナースは、各所から集められ、すでに退職した人も、他のキャリアに転向した人も集められました。現首相のMetteは「やれることをして、後で必要なかったねって笑える方がいい」と、デンマーク医療空前の、莫大な資金を湯水の如く投下して、このコロナセンター開設しました。人によっては意見が分かれるところだとは思うし、もちろん経済を維持することは大切です。が、命あってこそ、Human first、な彼女の支持率はコロナ危機の前の約30%から70%以上に上がったそうです。
(ちなみにこのMette Frederiksen、娘さんがいるのですが、うちの次男とEfterskolen(超ヒューマニズム全開、環境、世界の貧困などのテーマにかなり熱いスクールカラー)のクラスメイトでした。首相になった後も変わらず、普通のお母さんとして発表会や卒業式にもきており、ヘニングも「話しかけたら、普通に話してくれた」とのこと。)
さて、勤務が始まる前は、私達ヘルパーも患者さんのそばでICUナースのアシストのようなことをするのかとドキドキしていたのですが、ヘルパーの主な仕事は、宇宙服のような防護衣を着て汚染域である隔離室でケアを行っている彼らのために、隔離室の外、クリーンゾーンにとどまり、そこから物品の支給をすること(いわゆるランナーという外まわり)、そして患者さんが亡くなった場合のエンゼルケア、家族へのコミュニケーションとケアだとのこと。
FacebookでコロナICU勤務になりましたと載せた後、みんなから「気をつけて頑張って!」とか、「尊敬します!」とか、「あなた達は英雄だわ!」みたいなコメントをたくさんいただきましたが、実際はICUカースト制度の末端にいるヘルパーの私達はのんきにクリーンゾーンで雑用をしているだけで、温かい激励のコメントに、だいぶ罪悪感を感じる日々です…。
デンマーク政府の迅速的確なコロナ対策と、有能なICUドクターおよびナース達のおかげで、ここまでいわゆる絵に描いたようなフラッティングカーブを維持できているのだと思うと、私はもう、感謝しかありません。ほぼ毎日のように休憩室に企業や個人から届けられるチョコレートやケーキなど感謝の贈り物をもぐもぐしつつ、「あなた達がいてくれてよかった…」としんみり噛み締めております。
とはいえ、1週間先の状況も見えない今。イースター休暇が明けた今週から、段階的に保育園と小学校(5年生まで)が再開され、病院も一部を通常診療に戻すことが決まりました。自粛続きで人々のフラストレーションも高まりつつあり、最近の好天もあって、だんだんと自粛ムードも緩みつつあるこの頃。この再開でまた感染者が増えることも考えられるので、まだまだ油断はできませんが、このままどうか、穏やかにコントロールされつつコロナが収束していきますように…。
ステノ退職、Herlev小児科と経て就職した王立病院内分泌外来ですが、早くも4年半が経ちました。ひと所に4年以上というと、ステノを超える長期逗留です。
基本的には、内分泌外来に4つあるチームのうちの、糖尿病チームに所属しているわけですが、去年いろいろと思うところがあって、内分泌チームも兼任することになり、二足の草鞋を踏みしだいている毎日です。でもまあ、この内分泌疾患がこれまた複雑で、正直言ってわからないことばかりですが、なんとか平静を装って仕事をしています。
王立病院の糖尿病チームで対応している患者さんの多くは、いわゆる「続発性糖尿病」というカテゴリーの糖尿病です。他科に入院、通院中で、その治療の関係で糖尿病を新たに発症したり、元々の糖尿病が悪化したというケースが多く、しかし、他科の先生達はその元の病気を専門的に診る以外、二次的に現れた糖尿病の高血糖問題に関して、そこまで手が回らないため、うちの外来に往診を希望してきます。そして、内分泌科の研修医の往診だけでは手が回らないため、出動するのが糖尿病ナースです。
王立病院は一応デンマークの中枢的、高度専門医療機関なので、専門的な手術や治療として、臓器移植や癌治療でのステロイド投与、消化器系外科治療、肺線維症(システィックフィバローシス。王立病院にはデンマーク唯一のCFクリニックがある)、透析を含む腎臓病、広範囲熱傷などの外傷などなどを背景に、高血糖が問題となる場面が多く、糖尿病だけではなく、元々の病気とその治療にもある程度知識をもち、その治療に高血糖が支障とならないよう管理し、さらには地方の病院に転送される前に、ある程度の糖尿病管理とプランを緊急対応ドクターとともに、入院中に立てておく(場合によってはうちの外来で引き続きケアをしていく)のが往診糖尿病ナースの仕事です。
糖尿病以外は畑違いなもので、外科のこと、癌治療のことなど、最初は本当に手探りで、わからないことばかりでした。特にうちのお得意さんである上部消化器外科、主に膵臓癌患者さんのことは、本当にその管理が難しく、知れば知るほど、深く関われば関わるほど、どんどん膵臓の病気にはまってしまいました。
そして気がついたら、すい臓がん全摘出後にインシュリン依存性糖尿病となる患者さんへの、術前糖尿病指導、外科病棟での術直後のインシュリン治療導入、癌病棟での術後抗ガン治療中のインシュリン調整と栄養管理などなど、消化器外科、癌病棟、糖尿病科と3つの領域を最小限のトラブルで治療が進むように管理をする、「治療過程コーディネーター」となったのが2年前です。
コーディネーターとして他の糖尿病往診ナース達に指示を与えつつ、外科から糖尿病外来へ、そこから癌治療へとスムーズに移行させること、術後即抗ガン治療に入り、体力のない患者さんや、遠方に住む患者さんへの、電話やメールでのフォローアップと、膵臓全摘後の糖尿病に関する患者指導資料作り、術後栄養士とのコラボで行う合同診療、糖尿病看護評価のためのデータ採集とアナライズなど、やることはめちゃくちゃ多いのですが、目に見える効果が出てきていること(術後1年以内の死亡率低下と低血糖問題の減少)、上司やドクター達、同僚からの理解とサポートをたくさんいただけていることもあり、なんとかやりくりできています。
そんな他科往診糖尿病ナース、そして独立して行う糖尿病看護外来の仕事について、知り合いの日本人糖尿病専門医の方と話していたことがきっかけとなり、なんとその先生の推薦で、「CDEの役割を考える〜将来の展望〜」というテーマで行われる、日本糖尿病療養指導士のワークショップにゲストとして登壇させていただくことが決まりました。
同じ日の講演プログラムには、聖マリアンナ医科大、慈恵会医科大、日医大などの糖尿病会の大御所である名誉教授が名を連ねており、Kanahei、すでにちびりそうでしたが、「宝の持ち腐れ」状態の日本の糖尿病療養指導士資格、ドクターにとっても負担減、ナースにとっても活躍の場が増えて仕事にやりがいが生まれるならばと、「よっしゃ!頑張るで!」とやる気満々だったんですけどね…。残念ながらコロナのせいで講演会は延期となりました。とほほ。でも来年まで発表内容を温めつつ、さらに熟成の進んだ良いものとする時間ができたと思って、前向きに行こうと思います。
そしてコロナ。たくさんの、いろんな人に様々な影響を及ぼしたコロナ。私のようなヘボ市民にも影響がおよび、コロナ緊急事態宣言のせいで、4月1日からコロナ重症患者専門ICUに飛ばされたのですが、今のところ現場は予想とは裏腹に、とても落ち着いています。
デンマークではICUの専門ナースとなるためには最低2年のICU現場経験、その後2年の専門教育を受けるので、彼らの専門性は非常に高いです。働き方としては、ドクターが出した指示に従って、ICUナースが人工呼吸器、透析、すべての管、投薬の管理をほぼ独立して行っています。なので、ナースだからというだけでICU勤務ができるかというと、全然できないわけです。
そしてそんな高度専門資格を持つスタッフはそこまで多いわけではなく、人工呼吸器のような医療機器の台数も限られています。イタリアやスペインのように医療崩壊が起きた現場では、このキャパを超えて患者さんが押しかけたため、患者さんがバタバタと亡くなっていきました。デンマークみたいな小さな国では、とにかくそんな状況を何としても避ける必要があり、イタリアの医師と実際に話をしたというデンマーク保健相のボスは、「とにかく、なんでもできることを全てしてください。崩壊が起きてからではもう遅い」と、必死な訴えを聞いたそうです。
そういった理由もあって、王立病院では本院の隣に出来たばかりの、最新設備を備えた脳神経センターとなる予定だった新棟を、丸ごとコロナ対策病棟としてオープンすることになりました。ICUベッドが30床、状況によってさらに30床増設可、さらに入院管理が必要なコロナ患者さんのためのコロナ病棟を30床、コロナ外来、コロナスクリーニングと、4月からどんどこ作っていき、ロックダウンで通常診療を出来ない外来などからスタッフを寄せ集め、新コロナセンターを作りました。
何よりも必要となるICU資格保持ナースは、各所から集められ、すでに退職した人も、他のキャリアに転向した人も集められました。現首相のMetteは「やれることをして、後で必要なかったねって笑える方がいい」と、デンマーク医療空前の、莫大な資金を湯水の如く投下して、このコロナセンター開設しました。人によっては意見が分かれるところだとは思うし、もちろん経済を維持することは大切です。が、命あってこそ、Human first、な彼女の支持率はコロナ危機の前の約30%から70%以上に上がったそうです。
(ちなみにこのMette Frederiksen、娘さんがいるのですが、うちの次男とEfterskolen(超ヒューマニズム全開、環境、世界の貧困などのテーマにかなり熱いスクールカラー)のクラスメイトでした。首相になった後も変わらず、普通のお母さんとして発表会や卒業式にもきており、ヘニングも「話しかけたら、普通に話してくれた」とのこと。)
さて、勤務が始まる前は、私達ヘルパーも患者さんのそばでICUナースのアシストのようなことをするのかとドキドキしていたのですが、ヘルパーの主な仕事は、宇宙服のような防護衣を着て汚染域である隔離室でケアを行っている彼らのために、隔離室の外、クリーンゾーンにとどまり、そこから物品の支給をすること(いわゆるランナーという外まわり)、そして患者さんが亡くなった場合のエンゼルケア、家族へのコミュニケーションとケアだとのこと。
FacebookでコロナICU勤務になりましたと載せた後、みんなから「気をつけて頑張って!」とか、「尊敬します!」とか、「あなた達は英雄だわ!」みたいなコメントをたくさんいただきましたが、実際はICUカースト制度の末端にいるヘルパーの私達はのんきにクリーンゾーンで雑用をしているだけで、温かい激励のコメントに、だいぶ罪悪感を感じる日々です…。
デンマーク政府の迅速的確なコロナ対策と、有能なICUドクターおよびナース達のおかげで、ここまでいわゆる絵に描いたようなフラッティングカーブを維持できているのだと思うと、私はもう、感謝しかありません。ほぼ毎日のように休憩室に企業や個人から届けられるチョコレートやケーキなど感謝の贈り物をもぐもぐしつつ、「あなた達がいてくれてよかった…」としんみり噛み締めております。
とはいえ、1週間先の状況も見えない今。イースター休暇が明けた今週から、段階的に保育園と小学校(5年生まで)が再開され、病院も一部を通常診療に戻すことが決まりました。自粛続きで人々のフラストレーションも高まりつつあり、最近の好天もあって、だんだんと自粛ムードも緩みつつあるこの頃。この再開でまた感染者が増えることも考えられるので、まだまだ油断はできませんが、このままどうか、穏やかにコントロールされつつコロナが収束していきますように…。