老人ホームでバイトし始めて何が驚いたって、介護用リフトがワンフロアに4台もあることです。今私が働いているフロアは入所者さん13名なのですが、介護度もそんなに高くもなく、ほぼ自立で生活している人もいます。なのに4台って!すごい贅沢です。
私は派遣バイトも含めて大小、貧乏金持ちそれぞれの病院で働いてきましたが、今までその手のリフトというものをほとんど見たことがなく、最新設備の大学病院でも一般病棟で介護看護の為にリフトを使うなんていう贅沢は許されておりませんでした(唯一、ICUとか透析室、オペ室にあったくらい?)。
なので腰や体中の筋肉、関節を酷使して2時間毎の患者さんの体位変換や、着替え&4時間毎のオムツ替え、トイレ介助、車いすベッド間の移動などなど行ってきました。腰が悪いのは職業病だね、なんてそれが極当たり前のこととしてきていたので、デンマークの介護リフトを初めて使ってみて、その便利さに大感動です。
まずその老人ホームには「立ち上がるためのリフト」と「吊るし上げるリフト」の2種類のリフトがあります。用途によって、介護度やその人の障害によって使い分けます。
吊るし上げる(というといじめてるみたいだけど)リフトは時々、日本でも見かけることはあり(上にもあげた特殊病棟で)、背中全体を覆う大きめな袋のようなベルトで患者さんの身体を包み、吊るし上げます。その様子はまるで赤ちゃんを運ぶコウノトリのようで、そのリフトで吊るし上げられるお年寄りを見るたびに「ああ、人はコウノトリに運ばれてきて、そしてまた年老いてもこうして運ばれるのか…」と感慨深いものが(?)あります。
「吊るし上げる用リフト」
立ち上がる方のリフトはベルトを腕の下に通し、リフトのハンガーに引っ掛けて、そのハンガーで上に引っ張られ、背中のベルトで支えつつ、すねを基点にして立ち上がります。私も今日、写真を撮るために試しましたが、腰をしっかり支えられて立ち上がるので、腰や膝に負担がかからず、そういうところが弱いお年寄りには持って来い。すばらしいです。
「立ち上がる用リフト」
吊るす方、立ち上がる方のリフト両方とも車輪がついているので、吊るしたまま、立ち上がらせたまま移動も楽々でき、例えばベッドからポータブルトイレへそのリフトを使って座らせ、そのままバスルームに連れて行って(ポータブルトイレはシャワーチェアーも兼ねており、車輪もついているので移動可能)お下を洗ったり、顔を洗ったりモーニングケアを済ませ、その後またリフトを使って今度は車いすに座らせる、という大作業が一人でも楽にできます。時間も大幅に短縮。日本ではこれをすべて人力で、しかも時には一人でやっていたので(どんなに太ってて大きい人でも)、それから比べたら洗濯板と全自動洗濯機ほどの違いです。
1、腰の周りにベルトをつけハンガーに引っかけ、台に足を載せる。
2、リモコンでハンガーを上に持ち上げていくと、立ち上がっていく仕組み。
立ち上がるようリフトの腰ベルト。内側はムートン風でもこもこ。
働きはじめのうちは、どうしても人力ですべて動かすことに身体も頭も慣れてしまっていたので、リフトを使ってやその他小物を使ってなるべく介助者の身体に負担がかからないように、という新しい動きに戸惑いましたが、それにもだんだん慣れてきました。まあ、機械なのでちょっとした不注意での事故も大惨事になりかねないし、人力よりも気をつけていかねばですが(昔、電動ベッドでナースコールや他ベッド周囲にあったチューブ類をすべてぶっちぎった経験アリ。患者さんに害がなくてよかった…)。
あともう一つ、これはリフトに比べたらかなり原始的というか、簡素なものなのですが、ベッドシーツの上に敷く防水シーツとの間に、ナイロンの布を敷いているのですが、これがまた便利。ナイロン同士の「すれる」要素をうまく使って、例えば臥床中の患者さんの向きを変える時とか、足の方にずり落ちているのを上に引っ張り上げるときとか、非常に簡単にできるのです。
縦1m×横1.5mくらいのナイロン布を輪っか(筒型)のように縫っただけなのですが、ゴロゴロ患者さんを動かしていて背中の防水シーツの下でぐちゃぐちゃになったとしてもナイロンが薄いので、床ずれを招くほどごそごそはしません。
ベッド上で臥床からベッド端座位にさせるときも、そのナイロン輪っかシーツが下にあるだけで、面白いほど簡単に患者さんをくるっと回転させることができます。これくらいなら手作りでもできるし、コストもかからず、汚れても洗えるしでとても便利なので、ぜひ日本の介護施設も導入したらいいのになあ、と思います。
デンマークの介護は「寝たきりにさせない」介護と言われますが、介護者側はこうして頭と道具を使って時間を、無駄な動き&力を削って、尚かつ本当に噂通りお年寄りを寝たきりにはさせず、本当に素晴らしいと思います。その器具を使う人も使われる人も、両方にうまく利用されていて。日本では何かと言うと、こうした介護での負担を「スタッフ不足」で片付けようとしてしまいますが、確かに不足もしてるんだけど、この辺のテクニックをもっと学んで対処もしていけるんじゃないかな、と。
というか日本の場合、医療福祉はサービス業の部類になってしまうので、どうしても経営者はスタッフを守るというよりは経営に注視しがちになるんでしょうけど。こういういい介護器具をそろえることよりも、スタッフの身体にガタが来るまでこき使った方が安いでしょうしね…。そういうディスポでバブリーな感覚、時代遅れもだよなあ、なんて。
そんなわけで、今後もまたちょこちょこ、デンマーク介護現場(今度からは医療現場も加わりますが)から、すばらしいものを発見次第ご報告いたします!!