鑑三翁に学ぶ[死への準備教育]

「世論/輿論」とSNSで検索してみた。《「輿論」の読み方は「よろん」で、「世間一般の意見」という意味です。 現在では、「世論」の表記の方が一般的ですので、より多くの人に伝わりやすくするためには「世論」とするのが良いでしょう。 ただ、本来の意味を考えると、「世論」は大衆感情、「輿論」は世間で議論された公の意見、と、2つの言葉には違いがあります。》と出できた。ほほう、とわかったような気もしたが、「循環論法」のようで何を言っているのか判然としない。では、と思って英語を引いてみた(weblio)。《「世論」はpublic opinion。「輿論」はpublic opinion、opinion、vox populi、popular opinion》と出てきた。なお Vox Populi, Vox Deiとはラテン語の成句であり、日本語では「民の声は神の声」などと訳される。かつてある新聞のコラムで「天声人語」としても知られていた。

ところで上記ラテン語Vox Populi, Vox Dei(※出典は諸説あり) を日本語で「民の声は神の声」などと訳しているようだが、鑑三翁の論稿に一貫しているのは、「輿論は神の声なりと意(おも)ふは非なり」ということだ。鑑三翁はVox Populi, Vox Dei の従前の日本語訳のように好意的な意味では捉えてはいないことに注目したい。(なおWikipediaには《群衆の騒動はいつも狂気に近いので「民の声は神の声」と言い続ける人々の言うことに耳を傾けるべきではない》という王政下で格言化した経緯も紹介されている。)

さて鑑三翁は「輿(世)論」の主題でいくつかの短文を書いている。今回はこれら三論稿をまとめて紹介する(現代語訳した)。

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《世論と神の心》

【世論は神の声だと考えるのは間違っている。神の声は常に世論とは反対にある。古き時代の預言者は皆ことごく世論に反抗した者たちだ。人類とは何者か。聖書に次のようにある。「主は天から人の子らを見おろして、賢い者、神をたずね求める者があるかないかを見られた。彼らはみな迷い、みなひとしく腐れた。善を行う者はない、ひとりもない。」(詩編14:2-3) 神に背いたままの人類の世論は神の意思を伝えるものではない。私たち(※原文「吾人」)は神の言葉である聖書に聴くべきである。悪しき者が多数を占める社会の世論なるものに従ってはならない。】(全集13、p.122)

 《世論と単独者》

【信仰というものは人間との交際の結果として起こるものではない。人間は社交的動物であるよりも、むしろ神を崇拝する(※原文「拝神的」)動物である。ギリシャ語の　”アンソロポス(anthropos）:人間”は、「上を仰ぐ者」の意味であるという。周囲には人がいないものと考えて、上を仰いで「この上もなく尊いもの-神」(※原文「至上者(いとたかきもの」)と交通する者、これが古の人の見た人間であると言う。今日の人は世論を作らなければ何もできないと考える。‥‥しかしながら昔より今日に至るまで、人類の大きな進歩にして世論からできたものはない。‥‥したがって単独でもよい、単独の方がよい、つまり単独であって単独ではないのだ。】(全集15、p.129-30)

《神の言葉と世論》

【聖書に「水が海をおおっているように、主を知る知識が地に満ちるからである。」(イザヤ書11:9)とは記してあるが、神の言葉(※原文「言(ことば)」)が人間社会の世論となるとはどこにも書いていない。いやむしろ聖書は所々にその反対を言っている。「たとい、イスラエルの子らの数は、浜の砂のようであっても、救われるのは、残された者だけであろう。」(ローマ人への手紙9:27)、また「招かれる者は多いが、選ばれる者は少ない。」(マタイによる福音書22:14)、また「イエスは彼らに答えて言われた、「互いにつぶやいてはいけない。わたしをつかわされた父が引きよせて下さらなければ、だれもわたしに来ることはできない。」(ヨハネによる福音書6:44)と。】(全集19、p.482)