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すかいらーくから高倉町珈琲へ 75歳で再起業した横川竟流の経営(全3記事)

32歳で「すかいらーく」を創業、75歳で「高倉町珈琲」で再起業 「失敗したからすかいらーくができた」横川竟氏流の経営哲学

日本のトップリーダーの会談から真のイノベーションを担う次世代リーダー誕生のヒントを探る場として開催された、「日本を変える 中小企業リーダーズサミット2025」。本セッションでは、株式会社高倉町珈琲の代表取締役会長であり、すかいらーく創業者の横川竟氏の講演の模様をお届けします。32歳ですかいらーくを創業、75歳で再起業した横川氏が、自身の経営哲学について語りました。

大手に勝つための“モノの売り方”

杉本崇氏(以下、杉本):チェーン店では今、契約農家さんを作られるところから、上流から一気通貫でされていらっしゃるところが少しずつ増えているかなと思うんです。それでも、ただサプライチェーンが長くなると、それだけの管理も大変だしと僕は思ってしまうんですが、そこはいかがでしょうか?

横川竟氏(以下、横川):そこが経営でしょうね。言ったとおりにできるんだったら誰でもできるわけですよね。言ったとおりにできないことがいっぱいあって、一つひとつをどう改良するか、改善するか。

機械化もシステム化もあるし、技術指導もあるし、何気なく作っているものを「そうじゃないよ。こうやったらいいよ」と教えながら、作る業者も回る。

私どもが安くできるということは、「マーチャンダイジングシステム」って言うんですが、その道に入って一つひとつやって、5年も経てば仕組みって出来上がりますので。

だから考え方としては、モノを買って売るんじゃなくて、自分で作って価値を上げて売るという売り方に変えていくと商売は成り立つし、そうしないと大手には勝てないですよ。大手はそれをやっているわけですから、中小もそれに近い仕組みでやる。

大手は変化に弱いですから、変化に弱いところを突いて、自分たちは変化に強い商品でやっていけばいいんですね。だから、大手が3月からやるんだったら、2月からやればいい。大手がやったらやめちゃえばいいわけですよね。商売って駆け引きですから、そこがきちんと読めないと。人がやっていることをやっている限り、もう将来はない。

杉本:ありがとうございます。

高倉町珈琲のサービスのこだわり

杉本:失礼ついでにもう1つおうかがいしたいなと思うのが、高倉町珈琲の価値はさっきお話しいただいたように、空間も含めたサービスだと思うんです。

ただ、サービスって、なかなかお金に換算するのは難しいじゃないですか。コーヒー1杯でおいくら円というのだったらわかりやすいんですが、快適な空間にどう値段をつけるのかって、僕としてはすごく難しいなと思っていて。

横川:値段はつかないですね。楽しさというのはトータルですから。不満がないようにするためですから、接客も大事だし、商品の味もそうだし、盛り付けも価格もそうですね。それで、最後に「おいしかった。また来よう」となったら100点です。

そういうふうにできるかどうかの(理由の)1つに、気がつかないけれど酸素があるし、それからうちは今「次亜塩素酸水」というものを使ってるんですが、野菜を全部それで洗うんですね。そうすると殺菌ができるので、生で食べても大丈夫だと。

その機械と設備と仕付けをみなさんがやっているかというと、数少ないと思います。そういう意味では「衛生」って口で言うんじゃなくて、何をやって衛生にしているのか、どうやって店を楽しくしているのか。ソファーのスプリングだって、ある時期がくるとダメになりますので、ダメになった段階では交換しなきゃいけないんですね。

だから、見えない価値って最初はやるんですが、これを持続するためにどういうメンテをするかということを含めて、担当者の教育と同時に価値の共有ができていないとたぶんダメなので、難しいと思います。

杉本:なるほど、ありがとうございます。

32歳ですかいらーくを創業し、75歳で再起業

杉本:さらに話が変わって申し訳ございません。代替わりのところで、少しお話をおうかがいしたいなと思っています。

中小企業は経営者の高齢化、さらに後継者不足が社会問題となっております。生涯現役を貫く先代が、なかなか次世代に譲る決心がつかずに事業承継が遅れるというのも、まま聞く話かなと思います。逆に新たな会社を75歳で起業された横川さんから見て、こういった社会課題を解決するにはどうするのがよいと思いますか?

横川:あまり年齢を意識しちゃダメなんじゃないですかね。僕は75歳で(再起業を)やって、今は87歳になりましたが、32歳ですかいらーくを作ったんです。その時と思うことはぜんぜん変わっていないんですね。

体力が落ちてきますから、体力が落ちたぶんを何でカバーするのかで言うと、集中力が長く持たないんだったら、短い集中力だけど昔と同じものを使わなきゃいけないんですね。それができるうちは大丈夫なんです。

そういう意味でいくと、商売で言えばマーケットの変化をキャッチできるかと、それから重要なことの優先順位に応じてものが決められるんだったら、いつでも経営者になれるんですね。

バトンタッチを外食で言うと、ほとんどがあんまりうまくいってなくて、成功しているケースは3割ぐらいですよ。みんな「成功している」と言いながらも、裏ではお見えになるということは悩んでいるなと。これが現実です。

ただこれからは、外食で言うと、「あの子はよくやった」と任せるとできないんですよ。経営者と、言われたことをやる社員とは違うので、良い仕事ができた人間が良い経営者とは限らないんですね。

すかいらーくは失敗を繰り返したからこそ成立した

横川:そういう意味でいくと経営というのは、経営をさせて3年ぐらい見て、できそうだと思ったらバトンタッチをしなきゃいけない。要するにバトンタッチの準備をしないで、ただ「そうか。俺も年だからお前に任せる」じゃダメだと思いますね。

中小で言うと、「独立型中小」と「引きずり型中小」があるんですね。独立型は、失敗しても懲りずに思いきってどんどんやっているから問題ない。僕らはいっぱい失敗した上にすかいらーくが成立しましたから。

小売店が成功しなきゃスーパーはやらなかったし、スーパーが失敗しなかったらすかいらーくはやらなかった。失敗したからすかいらーくができたので、失敗することを恐れることはないんだと。

ただ、中小で下請けをやってる会社さんはいろいろと条件があるので難しいんですが、バトンタッチというのは思想のバトンタッチなんです。だから、経営を譲るということは思想を譲るのであって、権利を譲るんじゃないんですよ。みんな権利を譲っていると思っているから、権利を悪用して失敗するんですよね。

ある方は、「経営というのは『駅伝のたすき』で、社長はランナーだ」と。思想に対してランナーが変わるだけなんだから、それがちゃんとバトンタッチできるかどうか。これがうまくいくか、いかないかの分かれ道だとおっしゃっている方がいるんですが、僕はそのとおりだと思いますね。

「一番いけないのは、自分の好きな人間をスタッフにすること」

杉本:そこでさっきのお話で言うと、「うまく業務ができる人と経営は違うんだ」というお話をされていて、なるほどなと思ったんです。ただ、この経営ができるかどうかというとなかなか(難しい)。さっきも「3年」とおっしゃいましたが、見抜くのって難しくないですか? 何をもって「こいつはできるな」「こいつなら任せられるな」というものを見つければよろしいんですかね。

横川:1つは、人間って偉くなると偉ぶりたくなるんです。お金ができると飲んで遊びたくなるんですよね。会社をやっている間はそれをやっちゃいけないんです。今までやれたように、1つの枠の中で仕事をしてきているんだから。

社長になっても、社長も枠の中なのに「自由だ」ということで、自分が出ちゃうんですよ。社長は自由じゃないんです。枠の中でもっと重い荷物を背負って仕事をしているという、自覚が足りないんじゃないですか。

杉本:なるほど。そこを3年伴走しながら。

横川:裏表があるのかどうか、見なきゃダメですよね。それから一番いけないのは、自分の好きな人間をスタッフにすることです。3年ぐらい経つと、いつの間にか前任の社長が決めたスタッフはいつも全部いなくなって、好きな人間だけが集まっちゃうので。そういう意味でいくと、人間性が問われてくると思いますね。

杉本:なるほどですね。

お客さんの最長滞在時間は「午前11時から午後6時」

杉本:今、視聴者の方から続々と質問がきているので、最後の3分をいただいて少しおうかがいしたいなと思っています。

私の聞いた質問なのでお答えしづらい部分があるかもしれませんが、高倉町珈琲での回転率のところなんですけれども。高倉町珈琲では、ある程度は回転率を計算といいますか、何かされているんですか?

横川:言ってません。

杉本:すごいですね。

横川:回転率を言う前に、お客さんの満足度を優先しないと。うちの店はずば抜けて売れない代わりに下がないんです。だからワイワイ来て、わーっと飲んで「今日は売れた、売れた」っていうことじゃないんですね。だから、一見「真面目にやってるのかな?」というふうに見えるんですね。でも、それを真面目にやろうとすると、しわ寄せがお客さんにいくんです。

だから「長居」って言いましたよね。午前11時から午後6時というのが、今までのお客さんの(滞在時間の最長)記録ですよ。

11時に入ってお昼を食べられて、午後3時にパンケーキを食べて、夕方にご飯を食べる。おじいちゃんと親と孫3人の6人でお見えになって帰った店があって、店長から報告があったんですが、これが今までで最長ですよね。でも、(滞在時間)2時間は当たり前ですから。

それで収支ができるかという点で言うと、投資の問題。それが、さっき言った仕入れのところにムダがないようにすること。経営というのはムダをなくすことですから、ムダをなくす仕組みや機械化をいろいろやらなきゃいけないので、そこを細かく細かくやっていく。

商売というのは「1個でいくら儲かるか」じゃないですよ。いっぱいやった中で少し儲けて、最後に10円なら10円、100円なら100円が出てくるわけで、きめ細かいことが実は利益を生むんだと思わなきゃいけないですね。

杉本:ありがとうございます。

「商売」と「経営」の違い

杉本:もう1つだけ質問させてください。おそらく横川さんは、お話の中で「商売」と「経営」という言葉を意識して使い分けてらっしゃるのかなというふうに、おうかがいしていて思いました。

横川:そうですね。

杉本:それぞれをどういうふうに使い分けてらっしゃるのかを教えていただきたい、というご質問でございます。

横川:普通はみんな商売というと、経営も入った話をするんです。でも、本当によく人を見てもらうと、良いものを仕入れて作って売ることはできるけど、儲けることができない人がいる。これをもっと簡単に言うと、商売というのは値段を含めて売れるものを作ることです。

100円なら100円で「これだけのものはどうですか? よそだと150円なのに、この人が作ると100円でできる」というふうに売る。そういう点で言うと、お客さんが喜ぶ商品を買える値段で作れることが「商売がうまい」ということですね。

経営は、その中でどうやって利益を生むか。「1回売れた」じゃダメですから、継続することとムダをなくすことが経営なんですね。商売は売れるものを作らなきゃいけない。売れるものは1個作っても3年経つと真似られますので、作り続けられるかということが逆に問題になるかもしれないですね。

杉本:なるほど。まさに経営はマラソンですね。

横川:マラソン、駅伝ですね。

杉本:(笑)。そうですね、ありがとうございます。さて、ここまでたくさんお話をうかがってきましたが、お時間となりましたのでここで基調講演を終わりたいと思います。横川さん、大変貴重なお話をありがとうございました。

横川:ありがとうござました。また何かありましたら、どうぞご質問いただいてけっこうです。

杉本:よろしくお願いします。

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