行列のスペクトル分解
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任意の正規行列 は以下のように分解できる。 ただし, は の相異なる固有値すべてで, は固有値 の固有空間への射影行列。
正規行列には,エルミート行列やユニタリ行列が含まれます。→正規行列の意味と3つの代表例
スペクトル分解の意味と例
スペクトル分解の意味と例
をスペクトル分解すると,
となります。
- 固有値 に対応する固有空間 への射影行列が です。
- 固有値 に対応する固有空間 への射影行列が です。
スペクトル分解すると, の性質が以下のようにわかります:
による変換は 方向の成分を 倍して 方向の成分を 倍するような変換。
補足:射影行列について
スペクトル分解は,射影行列の知識があると理解しやすいです。ぜひ 射影行列のイメージと楽しい公式 を見てください。その記事では が への直交射影であるという意味も詳しく解説しています。
性質
性質
スペクトル分解 に対して以下が成立します。
は「 の成分を取り出す操作」に対応するので,1~3は以下のように解釈できます。
- 「 の成分を取り出す操作」は 回繰り返しても 回でも結果は同じ。
- 「 の成分を取り出す操作」と「 の成分を取り出す操作」を両方すると になる。
- 「 の成分を取り出した結果」を全成分ぶん足しあげるもとに戻る。
いずれも妥当ですね。
応用(n乗の計算)
応用(n乗の計算)
とスペクトル分解できれば,さきほどの性質1,2を使うことで となるので, 乗の計算が簡単にできます。
※スペクトル分解が与えられたもとで行列の 乗を計算する問題は,大学入試でも昔よく出題されていました。
固有ベクトルによる表現
固有ベクトルによる表現
冒頭の主張は以下のようにも表せます。
任意の 正規行列 は以下のように分解できる。 ただし, は(重複も許した)固有値で, は に対応する固有ベクトルで, は正規直交基底をなす(※)。
※ は正規行列なので,固有ベクトルたちをうまく取れば正規直交基底を作れます。→正規行列の意味と3つの代表例
基底が である部分空間への射影行列は, と書ける。→射影行列のイメージと楽しい公式
そこで,冒頭の主張において,固有空間への射影行列 を,その基底である固有ベクトルたちで表すと,固有ベクトルによる表現になる。
証明
証明
正規行列がスペクトル分解できること(固有ベクトルによる表現)を証明します。
が正規行列なら,固有ベクトルを並べたユニタリ行列で対角化できる。(→正規行列の意味と3つの代表例の定理1)
このユニタリ行列の 列目を とおくと, となる。例えば, 行列の場合,以下のようになる:
つまり,スペクトル分解とは,ユニタリ行列で対角化した式を少し変形したものに過ぎません。
量子力学では,無限次元の行列のスペクトル分解を考えたりします。