Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

チェビシェフの不等式の2通りの証明と例題

チェビシェフの不等式(Chebyshev's sum inequality)

2n2n 個の実数 x1,x2,,xn,y1,y2,,ynx_1,x_2,\dots,x_n,y_1,y_2,\dots,y_n

  • x1x2xnx_1\geq x_2\geq\cdots\geq x_n
  • y1y2yny_1\geq y_2\geq\cdots \geq y_n

を満たすとき, 1ni=1nxiyi(1ni=1nxi)(1ni=1nyi)1ni=1nxiyn+1i \dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_i y_i \geq \left( \dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^nx_i \right) \left( \dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^ny_i \right) \geq \dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^nx_iy_{n+1-i} が成立する。

注:チェビシェフの不等式は二つあります。確率論におけるチェビシェフの不等式はマルコフの不等式とその証明のページ下部を参照してください。

チェビシェフの不等式とは

チェビシェフの不等式は並べ替え不等式のよく使う特殊な形です。入試や数学オリンピックにおける不等式証明にときどき使えます。

式よりもイメージで覚えましょう。 1ni=1nxiyi(1ni=1nxi)(1ni=1nyi)1ni=1nxiyn+1i \dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^nx_i y_{i} \geqq \left(\dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_{i} \right) \left(\dfrac{1}{n}\sum_{i=1}^n y_{i} \right) \geq\dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n x_{i} y_{n+1-i} という式は一見複雑ですが,日本語で表すと「大きい物どうしの積の平均 \geq 平均の積 \geq 逆順の積の平均」となります。

「大きい物どうしの積の和は大きい」というイメージは並べ替え不等式と全く同じです。→並べ替え不等式の証明と例題

このページではチェビシェフの不等式の証明を2通り紹介します。

  1. 両辺の差を取って直接示す方法
  2. 並べ替え不等式を用いる方法

チェビシェフの不等式の証明1

方針

両辺の差が非負であることを示すのが不等式の最も基本的な証明方法です。

n2×((左辺)(中辺))=i=1nnxiyii=1nj=1nxiyj=i=1nj=1nxiyii=1nj=1nxiyj\begin{aligned} &n^2\times (\text{(左辺)}-\text{(中辺)})\\ &=\displaystyle\sum_{i=1}^nnx_iy_i-\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nx_iy_j\\ &=\displaystyle\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nx_iy_i-\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nx_iy_j \end{aligned}

まではごく自然だと思いますがここで行き詰まります。そこで,i,ji, j の対称性を保つことを考えて一工夫します。

証明

xixjx_i-x_jyiyjy_i-y_j は同符号なので, i=1nj=1n(xixj)(yiyj)0 \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n(x_i-x_j)(y_i-y_j)\geq 0 となる。あとはこれを変形していく。

i=1nj=1n(xiyi+xjyj)i=1nj=1n(xiyj+xjyi)2i=1nj=1nxiyii=1nj=1n(xiyj+xjyi)2i=1n(xiyi)j=1n1i=1nj=1n(xiyj+xjyi)2ni=1nxiyi2i=1nj=1nxiyj \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n(x_iy_i+x_jy_j)\geq \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n(x_iy_j+x_jy_i)\\ 2\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nx_iy_i\geq \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n(x_iy_j+x_jy_i)\\ 2\sum_{i=1}^n(x_iy_i)\sum_{j=1}^n1\geq \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n(x_iy_j+x_jy_i)\\ 2n \sum_{i=1}^nx_iy_i\geq 2\sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^nx_iy_j

両辺を 2n22n^2 で割ってチェビシェフの不等式を得る。

右側の不等式も同様にできる。

シグマ計算がよくわからない人は,こちらの2重和の説明を参考にしてください(→シグマ計算を機械的に行うための3つの公式)。

チェビシェフの不等式の証明2

証明

並べ替え不等式より以下の nn 個の不等式が成立する:

i=1nxiyix1y1+x2y2++xnyni=1nxiyix1y2+x2y3++xny1i=1nxiyix1y3+x2y4++xny2 \sum_{i=1}^nx_iy_i\geq x_1y_1+x_2y_2+\cdots +x_ny_n\\ \sum_{i=1}^nx_iy_i\geq x_1y_2+x_2y_3+\cdots +x_ny_1\\ \sum_{i=1}^nx_iy_i\geq x_1y_3+x_2y_4+\cdots +x_ny_2\\ \vdots

これらを全て足しあわせて n2n^2 で割るとチェビシェフの不等式の左側が得られる。右側も同様。

例題

以下の問題は1987年のIMOの問題候補をちょっと変えたものです。

問題

a,b,c>0a, b, c>0 のとき以下の不等式を示せ:

anb+c+bnc+a+cna+b12(an1+bn1+cn1)\dfrac{a^n}{b+c}+\dfrac{b^n}{c+a}+\dfrac{c^n}{a+b} \geq \dfrac{1}{2} (a^{n-1}+b^{n-1}+c^{n-1})

方針

対称式の不等式証明は,大小関係を自由に決めて並べ替え不等式やチェビシェフの不等式を使えます。分母の形からNesbittの不等式を思いつきたいです。

証明

対称式なので,abca\geq b\geq c の場合を証明すれば十分。このとき 1b+c1c+a1a+b\dfrac{1}{b+c}\geq\dfrac{1}{c+a}\geq\dfrac{1}{a+b} なので,チェビシェフの不等式より,

anb+c+bnc+a+cna+b13(an1+bn1+cn1)(ab+c+bc+a+ca+b)\begin{aligned} &\dfrac{a^n}{b+c}+\dfrac{b^n}{c+a}+\dfrac{c^n}{a+b}\\ &\quad\quad \geq\dfrac{1}{3} (a^{n-1}+b^{n-1}+c^{n-1})\left(\dfrac{a}{b+c}+\dfrac{b}{c+a}+\dfrac{c}{a+b}\right) \end{aligned} である。これと,Nesbittの不等式 ab+c+bc+a+ca+b32 \dfrac{a}{b+c}+\dfrac{b}{c+a}+\dfrac{c}{a+b}\geq\dfrac{3}{2} を組み合わせて求める不等式を得る。

Muirheadも並べ替えもチェビシェフも結局は「大きい物どうしの積の和は大きい」

Tag:数学オリンピック突破のための有名不等式まとめ