2000年
ガボン南西部の海岸を歩くマルミミゾウ。1999年9月、生態学者のマイケル・フェイ氏はアフリカ中央部に残る原生林を調査するため、3000キロにおよぶ徒歩旅行に出発した。同行した写真家マイケル・ニック・ニコルズ氏の感動的な写真はガボン政府を動かし、2002年に13の国立公園が設立された。（PHOTOGRAPH BY MICHAEL NICK NICHOLS）

2001年
2001年9月11日の米国同時多発テロ事件は21世紀初頭を象徴する出来事だった。写真家のロバート・クラーク氏は、ニューヨークの世界貿易センタービルに2機目の飛行機が突入する瞬間を捉えた。クラーク氏はのちに当時を振り返り、「私のビルの屋上は人でいっぱいになりました。人々は泣き、抱き合い、信じられない思いで現場を見つめていました」と語った。「最初にはっきり思ったのは、自分は世界が変わってゆくところを見ているということでした」（PHOTOGRAPH BY ROBERT CLARK）

2002年
インド南東部で、レンガ窯の所有者からの借金を返済するため、レンガを積み上げて運ぶ家族。写真家のジョディ・コッブ氏は、『ナショナル ジオグラフィック』の取材で21世紀の奴隷取引の被害者を撮影した。全世界に2700万人いるとされる現代の奴隷のほとんどが、この家族のような債務奴隷である。経営者たちは高金利と不正な会計処理によって労働者が債務を完済できないようにしていて、債務はしばしば子どもたちに引き継がれる。（PHOTOGRAPH BY JODI COBB）

2003年
2003年4月、イラク、バグダッドのフィルドス広場でイラク人がサダム・フセインの銅像を倒すのを手伝う米海兵隊員たち。米軍を中心とする多国籍軍がイラクに侵攻してフセイン政権を打倒した1カ月後のことだ。写真家アレクサンドラ・ブーラ氏は、『ナショナル ジオグラフィック』のために開戦からの数週間を記録したが、イラク戦争は2011年12月に米軍が撤退するまで続いた。（PHOTOGRAPH BY ALEXANDRA BOULAT）

2004年
ボツワナのオカバンゴ川で、エメラルドグリーンの水中を覗き込むサン族（ブッシュマン）。この地域には雨はほとんど降らないが、800キロも離れたアンゴラに降る雨による川の定期的な増水と氾濫により、スイギュウ、ワニ、ナマズ、ゲンゴロウなどが生息する奇跡のような湿地帯が形成されている。写真家デビッド・デュビレ氏は2004年に、『ナショナル ジオグラフィック』のために、この地域の豊かな生物多様性を写真に捉えた。ナショナル ジオグラフィック協会はその後、生物を育む川の流域を保護するためのイニシアチブを立ち上げた。（PHOTOGRAPH BY DAVID DOUBILET）

2005年
メキシコのカリフォルニア湾で漁網にかかって死んだオナガザメ。ブライアン・スケリー氏がこの写真を撮影した2005年当時、年間で推定4000万匹のサメがヒレをとるために殺されていた。2000年以降、米国海域でのフィニング（サメのヒレだけを切りとって胴体を海に捨てる残酷な漁）は禁止されているが、フカヒレスープの需要の増大とともに、フィニングも増加している。現在では年間1億匹ものサメが殺されている可能性がある。（PHOTOGRAPH BY BRIAN SKERRY）

2006年
敏捷なヒョウアザラシは狩りを得意としているが、彼らにとって人間は、狩りではなく好奇心の対象であるようだ。写真家のポール・ニックレン氏が2006年に南極の海で遭遇したメスのヒョウアザラシは、みずから彼に近づいてきた。体長3.5m以上あるこのアザラシは、口にくわえていたペンギンのヒナを落とし、代わりにニックレン氏のカメラ（と彼の頭の大部分）にしばらくかぶりついていたという。（参考記事：「獲物のペンギンをくれたヒョウアザラシ」）（PHOTOGRAPH BY PAUL NICKLEN）

2007年
コンゴ民主共和国のビルンガ国立公園で7頭のマウンテンゴリラが殺されているのが見つかった2007年、マウンテンゴリラは世界に約720頭しか残っていなかった。ゴリラの殺害には、この地域で広まっている違法な木炭取引が関係している。写真家のブレント・スタートン氏は殺害されたゴリラの写真を撮影し、この写真は世界の人々を憤らせた。生息地の消失と気候変動により、ゴリラは今日も絶滅の危機に瀕している。（参考記事：「胸に刺さる、「助けの必要性」を訴える写真12点」）（PHOTOGRAPH BY BRENT STIRTON, GETTY REPORTAGE）

2008年
牧場主のサイモン・ブース氏は、かつてはオーストラリア南東部の牧場で250頭の牛を放牧していた。しかし、写真家のエイミー・トンシング氏が2008年に牧場を訪れたとき、この地域は観測史上最悪の干ばつに見舞われ、ブース氏をはじめ多くの牧場主が牛の売却を余儀なくされていた。この地域の川は干上がり、農作物は全滅し、水をめぐる争いで地域どうしが対立するようになっていた。彼らは気候変動の初期の犠牲者だった。（PHOTOGRAPH BY AMY TOENSING）

2009年
写真家のリンジー・アダリオ氏がアフガニスタンの山腹で偶然出会った妊婦のノール・ニサさん（右）と母親。ノールさんは陣痛が始まっていて、母親と夫とともに車で4時間のところにあるファイザバードの病院に向かうところだったが、途中で車が故障し、夫は助けを求めに行っていた。妊産婦の死亡率を下げるために10年以上前から活動していたアダリオ氏は、一家を病院に連れて行った。（PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO）

2010年
2010年7月、イエメンのハッジャ州にある山の家の外に立つ、2組の児童婚の妻とその夫。ピンクの服を着たタハニさんは、6歳のときに25歳の夫マジェドさんと結婚したが、結婚当初は「顔を見るのもいやで、よく隠れていました」と言う。写真家のステファニー・シンクレア氏は、10年以上にわたり児童婚の悲痛な世界を取材してきた。（参考記事：「幼き花嫁たち」）（PHOTOGRAPH BY STEPHANIE SINCLAIR）

2011年
『ナショナル ジオグラフィック』の写真家ジョエル・サートレイ氏は、「Photo Ark（写真の箱舟）」プロジェクトの一環として、3歳のチーターを撮影した。これは、来世紀までに絶滅するおそれのある種を救うために写真の力で人々に呼びかけるプロジェクトだ。2005年にこのプロジェクトを立ち上げて以来、サートレイ氏は世界の動物園や野生動物保護区で暮らす1万種以上の動物のポートレートを撮影してきた。（参考記事：「写真は動物たちを絶滅から救えるか」）（PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE）

2012年
これは普通のクモガニの一種（Loxorhynchus grandis）のオスではない。フジツボの仲間のフクロムシに寄生されてメス化したカニだ。寄生性のフクロムシはその能力を使ってカニの腹部を広げ、自分の卵が入った袋で満たす。写真家のアーナンド・バルマ氏は、長年、宿主の心を操る寄生生物の世界を撮影してきた。（参考記事：「世にも恐ろしい 心を操る寄生体」）（PHOTOGRAPH BY ANAND VARMA）

2013年
ライターのポール・サロペック氏は、6万年にわたり人類が拡散したルートをたどるため、4大陸を横断する3万3000キロの旅に出た。写真家のジョン・スタンマイヤー氏は、この旅の最初の行程に同行した。写真は、安価な携帯電波を捉えようとジブチの海岸に集まるソマリア人移民たち。（参考記事：「全長3万3000キロ 人類の旅路を歩く」）（PHOTOGRAPH BY JOHN STANMEYER）

2014年
20世紀のグリズリー（ハイイログマ）は危険な状況にあった。狩猟と生息地の喪失によって絶滅の危機に瀕し、1960年代には600頭まで減少していた。しかし米国の「絶滅危惧種法（ESA）」によって状況は好転し、2010年代にはイエローストーン地域だけで1000頭近くが生息するようになった。写真家のチャーリー・ハミルトン・ジェームズ氏がグランド・ティートン国立公園で撮影したバイソンの死骸を食べるハイイログマは、そのうちの1頭だ。（参考記事：「イエローストーン　自然保護の実験場」）（PHOTOGRAPH BY CHARLIE HAMILTON JAMES）

2015年
スーザン・ポッターさんは2015年2月に死亡し、不滅の遺体となった。その15年前、彼女は科学のための献体に同意していた。写真家のリン・ジョンソン氏が撮影したポリビニルアルコール樹脂に包まれたポッターさんの遺体は、撮影の直後に冷凍され、2万7000枚の薄い切片に切り分けられて、医学生が今後何年にもわたって学ぶことになるデジタル遺体として蘇った。（参考記事：「バーチャルな世界に生き続ける、ある女性の物語」）（PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON）

2016年
米ミシガン州フリントの消防署第3分署から配給されるペットボトルの水を受け取るジュリー、アントニオ、インディア・アブロンさんの3人きょうだい。2016年、写真家のウェイン・ローレンス氏は、2014年の水道水汚染問題以降、フリントの住民の生活がどのように変わってしまったかを物語るポートレートシリーズを制作した。この危機は、職務怠慢によって推定1万2000人の子どもを含む住民を危険にさらした市と州の当局者の辞任につながった。（PHOTOGRAPH BY WAYNE LAWRENCE）

2017年
ケイティ・スタブルフィールドさんは18歳で顔を失った。3年後の2017年、外科医が彼女に新しい顔を与えた。彼女は世界で40例目となる顔面移植手術を受けたのだ。『ナショナル ジオグラフィック』の写真家マギー・スティーバー氏とリン・ジョンソン氏は、2018年9月号の表紙を飾った驚くべきストーリーのために、移植のプロセスを追った。
ドナーとなった故アドレア・シュナイダーさんの顔を切り取る外科医の姿を撮影したジョンソン氏は後に、「アイデンティティについて知っていることのすべてに疑問を突きつけ、考えさせられる光景でした」と振り返った。「顔はただの組織ではありません。人間なのです」（参考記事：「顔を失った女性、顔面移植成功で再出発を誓う」）（PHOTOGRAPH BY LYNN JOHNSON）

2018年
地球で最後のオスのキタシロサイ「スーダン」に寄り添う野生動物保護官。スーダンは2018年3月に死亡した。写真家のエイミー・ビターリ氏は2009年にスーダンと出会って以来、珍重されるサイの角を狙う密猟者により絶滅寸前まで追い込まれたキタシロサイの窮状を記録することに専念してきた。（参考記事：「まるごと1冊絶滅」2019年10月号）現在では2頭のメスだけが残り、科学者たちは体外受精によってキタシロサイを増やそうと努力している。（参考記事：「最後の2頭になったキタシロサイ、「脱絶滅」技術で救えるか」）（PHOTOGRAPH BY AMI VITALE）

2019年
写真家のエフゲニア・アルブガエバ氏は、この写真が掲載された2020年12月号の特集「北の果てで見る夢」に、「セイウチに囲まれていたとき、小屋はぐらぐら揺れていました」と書いている。ロシアの北極圏地域の出身であるアルブガエバ氏は、凍てつく風景の中のゆっくりした暮らしを撮影するために帰国し、セイウチの研究者と木造の小屋で2週間も過ごした。「そのうちの3日間は小屋に閉じ込められていました」と氏は言う。「小屋の周囲に集まってきた推定10万頭のセイウチがパニックを起こさないように、細心の注意を払っていました。セイウチが移動したりケンカしたりするたびに小屋はぐらぐら揺れました」（PHOTOGRAPH BY EVGENIA ARBUGAEVA）

2020年
2020年5月、ジョージ・フロイドさんが警官による不適切な拘束を受けて窒息死する様子を撮影した動画をきっかけに、全米に激しい怒りと報復の声が広がった。「ブラック・ライブズ・マター（BLM＝黒人の命は大切）」の抗議者たちは街頭に繰り出し、多くの人が、奴隷制を擁護するために戦った南軍兵士の記念碑の撤去も求めた。写真家のクリス・グレイブス氏はバージニア州リッチモンドの活動家たちが南軍のロバート・E・リー将軍の銅像をフロイドさんの記念碑に変える様子を撮影した。（参考記事：「モニュメントは何をたたえるか？」）（PHOTOGRAPH BY KRIS GRAVES, NATIONAL GEOGRAPHIC）

2021年
北米西部の消防士にとって、2021年は山火事との戦いの年だった。カリフォルニア州の山火事「ディキシーファイア」では40万ヘクタールが焼き尽くされ、同州史上2番目に大きな火災となった。写真家のリンジー・アダリオ氏は、この恐ろしい山火事を記録した経験を、過去に取材してきた世界の紛争に例えている。
北米西部の山火事は、近年、件数も規模も増大している。その一因は気候変動にある。気候変動により高温と乾燥が悪化し、植物がカラカラに乾いて燃えやすくなっているのだ。（参考記事：「【写真が記録した2021】 気候変動」）（PHOTOGRAPH BY LYNSEY ADDARIO）

2022年
「大量虐殺を生き延び、耐え抜いてきた祖先たちの抵抗と戦い」を称えて拳を振り上げるクアナ・ローズ・チェーシングホース氏。ハン・グイッチンとシカングー（オグララ）・ラコタという部族の血をひく彼女は、モデルで活動家でもある。
先住民の主権を求める活動を取り上げた2022年7月号の特集「私たちはここにいる」のためにこの写真を撮影したナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー（探求者）であるキリー・ユイーヤン氏は、「主権とは、自分自身である自由です」と言う。先住民を犠牲者として描く古い物語から脱却するため、氏はこの力強いポートレートを制作した。（PHOTOGRAPH BY KILIII YUYAN）

2023年
コウモリは動物の病気を人間に伝染させると非難されることが多い。けれども科学者も自然保護活動家も、コウモリを恐れるのではなく、この驚くべき動物を保護するべきだと主張してきた。
実際、コウモリは本当にすばらしい。彼らはがんにならない。冬眠するコウモリは体温を高低の両極端で調節できる。そして彼らは地球上で唯一空を飛ぶことのできる哺乳類だ。ただ、コウモリの飛び方は不思議なほど解明されていない。米ブラウン大学の研究者たちは、さまざまな種類のコウモリの飛行を詳細に調べることで、この状況を変えようとしている。写真は、ニコール・ソベキ氏が撮影した、飛行風洞の中で羽ばたくエジプトルーセットオオコウモリ（Rousettus aegyptiacus）。（PHOTOGRAPH BY NICHOLE SOBECKI）

2024年
残り2頭のキタシロサイの存続に新たな光が差した。2頭はいずれもメスだが、キタシロサイはまた繁殖できるかもしれない。（参考記事：「世界初、体外受精でサイが妊娠、残り2頭のキタシロサイの救済に光」）
写真家のエイミー・ビターリ氏は、10年以上、絶滅の瀬戸際に立たされるキタシロサイを追いかけてきた。最後のオスの心揺さぶる写真は、2018年のその年の1枚に選ばれた。そして2024年は、科学者の手にのるミナミシロサイの胎児の写真が選ばれた。サイの体外受精に初めて成功し、代理母が妊娠した受精後70日目の胎児だ。
残念ながら、妊娠とは無関係な細菌の感染により、母親は妊娠２カ月ほどで亡くなってしまった。しかし、この成功はキタシロサイの胚をミナミシロサイの代理母で育てる道への扉を開くものだ。（PHOTOGRAPH BY AMI VITALE）