空から見ると、乾いた砂漠の表面にいくつもの穴が開いている。しかし、その穴の数十メートル下にはトンネルが通り、地下の帯水層から何十キロも離れた農地や村に水を運んでいる。古来からある、かけがえのない水路だ。
この地下水路はカナートと呼ばれ、3000年前の鉄器時代に生み出された驚異の工学技術だ。イランでは、多くのカナートが現在も使用されている。川の源流や洞窟の中の湖などの水源を見つけ出し、水が必要とされている場所まで勾配のある長いトンネルを掘ったものだ。数千ある地下水路の総延長は、地球から月までの距離に匹敵する。(参考記事:「古代エジプトの「税を決める井戸」が見つかる」)
地上に整然と並ぶ穴は、地下を手作業で掘削する人のための通気口。トンネルは長いものだと約65キロにも達し、終点が地上に出て緑のオアシスになっている。
カナートの建設は骨の折れる作業だが、高い精度が求められることもその難しさに拍車をかけている。たとえば、勾配の角度は、水がスムーズに流れるようにしなければいけないが、勢いが強すぎると水路が浸食されたり崩壊しやすくなるので、調整が難しい。完成後も年に一度のメンテナンスが必要だ。
それでも用水路のおかげで、乾いた砂漠で農業が発展した。この技術はシルクロード交易やイスラム教徒の征服によって広められ、モロッコ、スペインといった遠方の国にもカナートがある。(参考記事:「地下の水資源、“化石水”が枯渇する?」)
102歳の水路管理人、イランの人間国宝
動画を制作したイランの映画監督コメイル・ソヘイリ氏にとって、カナートは故郷ホラーサーン州の風景に欠かせない存在だ。
「(イランの)風景、文化の多様性は世界の人々にあまり知られていません」とソヘイリ氏は話す。「世界最古の文明の一つがこの驚くべき創造物(カナート)から生まれたのです」(参考記事:「『イスラム国』が破壊した文化遺産」)
カナートの管理人はミラブと呼ばれるが、102歳のゴラームレザー・ナビプールさんは数少ないミラブの一人で、ほぼ間違いなく最高齢のミラブでもある。イランの人間国宝にも指定されているナビプールさんは、自身の技能を若い世代に伝えようとしている。カナートの水でピスタチオを栽培する息子もその一人だ。しかし、ナビプールさんは同時に、この伝統の未来に不安を抱いている。(参考記事:「千年動いたイラン伝統の風車、存続の危機に」)
1960~1970年代、カナートに依存していた広大な土地が再分割され、管理上の混乱が生じ、その結果、多くのカナートで、古くから続けられていたコミュニティーによる維持管理が破綻した。そして、現代的な農業が広まり、「人々はカナートを必要としなくなりました。もはやカナートの仕事で稼ぎ、家族を養うことは不可能です」とソヘイリさんは説明する。カナートの管理は日常の習慣というより、「趣味」のようなものになってしまった。
2016年、ユネスコはイランのカナートを世界遺産に指定した。
ナビプールさんは動画の中で、「私と私の祖先たちにとって、カナートは生命の源でした」と述べている。「人生の最後の瞬間までカナートを守ることが私の務めです」