2013年、大量の石灰岩の板が、ブラジルから密輸されようとしていた。ブラジル北東部の有名なアラリペ盆地の採石場から切り出されたもので、ただの石灰岩ではない。そこには太古の生物の遺骸や痕跡が残されていた。
これらの化石は世界中の博物館や個人コレクターにひそかに販売され、密輸者たちは大金を手にする予定だった。ところが、強制捜査が行われ、押収した3000近くの標本はブラジル、サンパウロ大学に送られた。
その中に、翼を持つ奇妙な爬虫類の標本があった。体高1メートル超で、鳥のくちばしに似たあごと非常に大きな頭部を持つ。8月25日付けで学術誌「PLOS ONE」に発表された論文によると、これは、トゥパンダクティルス・ナビガンス(Tupandactylus navigans)のほぼ完全な骨格だという。約1億1000万年前の白亜紀初期に存在した翼竜だ。
ブラジル、ABC連邦大学の古生物学者で論文著者の一人、ファビアナ・ロドリゲス・コスタ氏は「ブラジル国内でも国外でも極めて美しく保存された翼竜をいくつも見てきましたが、これほど多くの関節がつながっていて、軟組織まで保存されている標本は希少です」と話す。「宝くじに当たるようなものです」
トゥパンダクティルス・ナビガンスは2003年、ドイツと英国の科学者によって、2つの頭骨を用いて初めて記載された。しかし、軟組織と首、翼、脚の骨を含む体の残りの部分を調査できたのは今回が初めてだ。この翼竜の頭部にある巨大なとさかは飛行能力にどのような影響を与えたかという議論が続いており、今回の発見が解決の糸口になる可能性もある。
「唯一無二の化石です」とコスタ氏は言う。
空を支配した古代の爬虫類
翼竜は恐竜と同じ主竜類で、両者はすぐ近くで暮らしていた。恐竜は陸で繁栄し、翼竜は空を支配した。2億年以上前の三畳紀後期から6600万年前の白亜紀末まで共存していたが、小惑星の衝突に端を発する地球規模の災害によってどちらもほぼ絶滅した。
恐竜の一部の子孫は鳥類として存続している一方、翼竜には生きた子孫がいない。化石は先史時代の空を飛んでいた翼竜の姿や生活を垣間見る唯一の手段だが、翼竜の化石は極めて希少だ。繊細な骨は保存されにくく、骨格の断片しか残されていないことが多い。
古生物学者たちは主に、かつて水中にあった堆積物から翼竜の遺物を回収している。湖や海の底に沈んだ死骸は短期間で柔らかい泥に埋まり、低酸素状態に置かれて腐敗が進みにくくなるからだ。
おすすめ関連書籍
ダーウィンが来た! 生命大進化 第2集 現生動物への道が開かれた (中生代 ジュラ紀~新生代)
生命がどのように生まれ、時代を生き抜き、進化したのかを圧倒的なビジュアルとともに見る、壮大な進化のドラマ。第2集「現生動物への道が開かれた」では、中生代 ジュラ紀から新生代までを網羅。〔全国学校図書館協議会選定図書〕
定価:1,980円(税込)