マルハナバチなど、花の受粉を媒介する昆虫は、農薬や気候変動、生息地の消失、そして病気といった様々な脅威に直面している。マルハナバチの腸に寄生するクリシジア・ボンビ(C・ボンビ)という原虫(単細胞の微生物)もそのひとつだ。(参考記事:「マルハナバチが絶滅に向かっている、原因は高温」)
この病原体には、ヒマワリの花粉が薬のように効く可能性が過去の研究で示されてきたものの、詳しいことはわかっていなかった。だが、2022年1月8日付けで学術誌「Journal of Insect Physiology」に発表された論文によって、驚くほど単純なしくみが明らかになった。
「ヒマワリの花粉を食べたハチは大量の糞をします」と、論文の筆頭著者を務めたジョナサン・ジャコミーニ氏は言う。寄生虫は、この糞と一緒に体外に排出されていたのだ。
植物の蜜や花粉は、昆虫の薬になりそうなものの宝庫だが、科学者たちは最近になってようやくこれについて理解し始めたばかりだと、ジャコミーニ氏は付け加える。「ハチが普段から接する自然のもののなかには、ハチに有益なものがあります」。そして、私たち人間が環境に変化を加えることで、ハチを助けられるかもしれないと、科学者たちは期待している。
人間の薬の多くも植物から
北米東部によく見られるマルハナバチの一種 (Bombus impatiens)は、黄色と黒の縞模様を持ち、尻の部分はやわらかい毛で覆われている。社交性が高く、コロニーで生活し、鳥の巣箱や材木の山、使われなくなった動物の巣穴、深く生い茂った草むらなどの隙間に巣を作る。(参考記事:「マルハナバチの1種が絶滅危惧種に、米国で初」)
野生においてだけでなく農業の現場でも、マルハナバチは受粉媒介者として重要な役割を担っていて、トマトやカボチャなどの受粉を助けるために飼育されている。ハチに限らず、花粉を媒介する生物はいずれも様々な問題に直面しており、C・ボンビがマルハナバチにとって最大の脅威というわけではない。寄生虫自体、ハチの健康にそれほど深刻な影響を与えはしないが、食料が不足しているときにC・ボンビに感染してしまうと、ハチの寿命が縮んだり、若い女王バチが減る恐れがある。(参考記事:「ハチが減っている、目撃される種数が世界で25%減」)
米マサチューセッツ大学アマースト校の進化生態学者で、植物と昆虫の関係を研究しているリン・アドラー氏と、米ノースカロライナ州立大学の進化生態学者のレベッカ・アーウィン氏は、花粉を媒介する昆虫がその花粉から薬効を得ているのではないかと考えてきた。というのも、植物は自らの遺伝子を目的地に届けるために、花粉媒介者の役に立つ化学物質を蜜や花粉によく含めるからだ。
「防御を目的とした植物の化学物質の多くは、一定の量に達すると薬効を発揮します。人間の薬も、多くは植物を原料としています」と、アドラー氏は指摘する。