サメの肝臓を外科手術のように取り出すことですでに有名なシャチ(Orcinus orca)が、新たな技を隠していた。なんと、自然界で最も恐ろしい捕食者のひとつであるホホジロザメ(Carcharodon carcharias)をシャチが単独で仕留めたという初めての科学的な報告が、2024年3月1日付で学術誌「African Journal of Marine Science」に掲載されたのだ。(参考記事:「【動画】サメの胸を正確無比に切り裂き、肝臓だけを食べるシャチ」)
その映像は2023年6月に、南アフリカのモーセル湾で撮影された。いつもはケープタウン近くで血縁関係のある「ポート」という名のシャチとともに狩りをする「スターボード」が、体長約2.4メートルの子どものホホジロザメを殺し、肝臓を取り除く様子が映っている。すべて2分以内の早業だ。
その後、スターボードは血まみれの肝臓を口にくわえて、ビデオ撮影者が乗っていたボートのそばを通り過ぎていく。
最大の獲物としてシロナガスクジラ(Balaenoptera musculus)でさえも仕留めるシャチは、協力して狩りをすることで知られており、スターボードの行動は著しく逸脱していると、今回の研究を主導した南アフリカ、ローズ大学のサメの専門家であるアリソン・タウナー氏は言う。
「今回の研究で発見したスターボードの捕食戦略には本当に驚きました」とタウナー氏は言う。「以前は、ホホジロザメを仕留めてその肝臓を取り出す際のチームワークに注目しながら、スターボードが他の個体のそばで狩りをしているところを観察していました」(参考記事:「【動画】ホホジロザメを食べるシャチ、狙いは肝臓」)
スターボードとポートは背びれがそれぞれ右と左に曲がっていることから名付けられた(スターボードは意味は右舷、ポートは左舷)。おそらく兄弟であるこの2頭は、2015年以来、特殊な手法で南アフリカ沖のエビスザメ(Notorynchus cepedianus)やホホジロザメを殺してきた。サメの胸を引き裂き、カロリーの高い肝臓だけを慎重に取り除くのだ。
今回の出来事では、ポートが近くで目撃されたものの、距離をおいていた。これはシャチの兄弟がソロでの狩りを学んでいるということなのだろうか?
「スターボードの技量が、シャチの力と経験を示している」と確信をもって言うのは難しいとタウナー氏は言う。
ソロ狩りの意味と価値
世界中に生息するシャチは、サメや魚、海洋哺乳動物などさまざまな獲物を仕留める戦略において際立って柔軟で創造的だと、米オレゴン州立大学の海洋生態学者であるロバート・ピットマン氏は電子メールで語っている。
例えば、クジラのように自分より大きな獲物を狩るために、オオカミのような群れを作って狩りをするシャチもいる。
近年はそうした群れでの狩りが多くの注目を集めてきた。南極のシャチは協力して波を作り、獲物を流氷から押し流す「波さらい戦術」をおこなっている。2017年には、ロシア沖でシャチが連携してホッキョククジラ(Balaena mysticetus)を仕留めた。また、近年オーストラリア沖では、少なくとも12頭のシャチからなる群れが、地球上で最大の動物であるシロナガスクジラを殺す様子が科学者によって目撃されている。(参考記事:「【動画】シャチ集団がクジラを襲撃、協力して捕食」)
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