この数十年でスポーツをする女性が増えたことで、女性アスリートのけがは男性アスリートとは違う場合があるという認識が広まっている。けがの種類によっては、負傷のしやすさにホルモンが関係している可能性を示す証拠が集まりつつあるからだ。
このほど、経口避妊薬を飲んでいる女性は、飲んでいない女性に比べて、下肢(脚と足)の筋肉と腱のけがをする確率が約8割も下がることを示す論文が、2024年3月に医学誌「Medicine & Science in Sports & Exercise」に発表された。
「多くの女性アスリートが何らかの避妊薬を使っています」と、けがの予防と回復の性差について研究する米モンタナ州立大学のホープ・ウェルヘイブン氏は話す。氏は今回の論文には関わっていないが、スポーツのけがを減らすのに避妊薬が果たす役割を解明すれば、すべての女性アスリートの健康を守るのに役立つ可能性があると指摘する。
けがの男女差
研究はまだ初期の段階にあるが、男性アスリートと女性アスリートではけがの発生率や種類に違いがあることははっきりしている。
たとえば、女性アスリートは男性アスリートに比べて膝の前十字靱帯(ぜんじゅうじじんたい)の断裂を起こす確率が2〜6倍高く、サッカーで脳震盪(のうしんとう)を起こす確率が2倍高く、疲労骨折を起こしやすいことが明らかになっている。
米ベイラー医科大学の整形外科医であるキャンディス・メイソン氏によると、女性アスリートの前十字靭帯断裂は男性アスリートに比べて、他の選手や物体との接触が原因であることは少ないうえ、断裂するのは先導脚(先に地面を離れる脚)より後続脚の靱帯であることが多いという。また、前十字靱帯を断裂した女性アスリートが競技に復帰できる可能性は、男性アスリートに比べて約25%低い。
スポーツのけがに男女差がある理由は、まだほとんど解明されていない。米クリーブランド・クリニックの医師でスポーツ医学を専門とするモリー・マクダーモット氏は、「男女間には、解剖学的にも生体力学的にもホルモンにも違いがあります」と言う。総筋肉量や、体脂肪率、骨や靱帯の構造の違いなどがあり、例えば女性のX脚や関節過可動性(柔らか過ぎる関節)は、ある種のけがにつながりやすい。(参考記事:「関節が柔らか過ぎる難病エーラス・ダンロス症候群、本当にレア?」)
月経周期とともに変動するけがのリスク
いくつかの研究により、エストロゲンなどのホルモン濃度は女性アスリートの負傷率と関係があり、月経周期の特定の時期にけがのリスクが高まることが示されている。
まだ否定的な証拠もあるものの、「ほとんどの研究が、女性は排卵前後にけがをしやすくなることを示唆しています」と、米ヒューストン・メソジスト病院のスポーツ内科医であるジリアン・ウールドリッジ氏は言う。
排卵の時期になると、エストロゲンの濃度がピークに達する。エストロゲンは筋肉や靱帯をゆるめるため、これが負傷リスクにつながると考えられている。(参考記事:「女性の脳は月経周期で劇的に変化する、感情や記憶への影響は不明」)
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