米国疾病対策センター(CDC)の12月18日の発表によると、ルイジアナ州で米国初の鳥インフルエンザの重症患者が確認された。患者は裏庭で鳥を飼育していて、病気にかかった鳥や死んだ鳥に接触していたという。また、2024年4月以来、少なくとも鳥インフルエンザの感染が61人で確認されている。そのほとんどが、ニワトリやウシとの濃厚接触によるものだ。
乳牛への感染も確認されている。2024年3月以来、このウイルスは米国の16州の800以上の乳牛群に広がっている。そのうちの500以上がカリフォルニア州で、感染の制御ができない状態にある。12月18日には、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事が、このアウトブレイク(集団感染)に対応するために非常事態宣言を行った。
野鳥によって広められるH5N1型鳥インフルエンザウイルスは、世界各地の養鶏場で何度も大流行を引き起こし、養鶏業者の悩みの種になっている。養鶏場のニワトリがこのウイルスに感染すると、内出血を起こして複数の臓器が破壊され、致死率はほぼ100%になるからだ。
1997年には香港で初めてニワトリからヒトへの感染が確認されたが、ヒトからヒトへの感染は起こらなかった。けれども近年、H5N1型は不気味な進化を遂げている。2022年には、H5N1型の哺乳類から哺乳類への感染がアルゼンチンのゾウアザラシで初めて確認された。群れが罹患して数千頭が死亡した。致死率は97%だった。(参考記事:「世界に広がる鳥インフル、南極でも初確認、各地で動物が大量死」)
動物からヒトへの鳥インフルエンザ感染が起こるたびに、ウイルスはヒトからヒトへと感染する能力を獲得する機会を得る。この分水嶺を越えると、パンデミック(世界的大流行)が始まる可能性がある。現時点でH5N1型が分水嶺を通過した証拠はないが、それが起こらないとは言い切れない。
「鳥インフルエンザウイルスについて現時点で明らかになっていることから考えると、これは良くない傾向で、本気で対策する必要があります」と米メイヨー・クリニックの微生物学者で呼吸器疾患を専門とするマシュー・ビニッカー氏は言う。
専門家は、ウイルスがヒトからヒトへと感染するようになるきっかけとして、以下の2つのケースを懸念している。そして、「最悪の事態に備えるのは時期尚早でもやりすぎでもない」と強調する。
1. ブタの間で鳥インフルエンザが大流行
科学者が最も懸念しているのがこのシナリオだ。H5N1がブタの間で流行しはじめれば、ヒトの間で流行するおそれが劇的に高まるはずだ。なぜならブタは、トリのウイルスとヒトのウイルスに同時に感染する可能性があるからだ。
インフルエンザウイルスはRNAウイルスで、変異しやすいだけでなく、ほかのウイルスと遺伝子の一部を交換する「遺伝子再集合(reassortment)」という能力も持っている。
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