番組発の流行語「ほとんどビョーキ」の意味
「『トゥナイト』見たーい」。昨年話題を独占したドラマ『不適切にもほどがある!』の阿部サダヲのセリフだ。これに「懐かしい」と思ったひとも多いはず。『トゥナイト』と言えば、往年のお色気深夜番組の代表格。だがそこには下世話な興味だけでなく、実は真面目なジャーナリズム精神もあった。ここで改めて番組の魅力と時代を振り返ってみたい。
「利根川さん、ほとんどビョーキですよ」。サングラスにちょび髭、アポロキャップを被ったリポーターの中年男性がカメラに向かい、言葉とは裏腹に楽しそうな表情で語りかける。
そのリポーターの名は山本晋也。れっきとした映画監督である。代表作として「未亡人下宿」シリーズがあるピンク映画の巨匠。赤塚不二夫やタモリとも親しく、彼らが出演し、所ジョージが主演した『下落合焼とりムービー』(1979年公開)の監督も務めた。『タモリ倶楽部』などにもよく出演していた。
一方、「利根川さん」とは『トゥナイト』の司会者である利根川裕のこと。元編集者で作家に転身した。いつも温厚でにこやか。山本晋也には「ねえ、カントク」などと名前ではなくなぜか職業で呼ぶので、並み居る映画界の巨匠たちを抑えて当時は日本一有名な映画監督になっていた。
風俗レポートは真面目な社会学だった
『トゥナイト』は、1980年に始まったテレビ朝日の深夜番組。基本は情報番組でお色気だけが売りではなかったが、深夜ということで最新性風俗の情報が目玉になっていた。その代表的コーナーである「中年・晋也の真面目な社会学」のリポーターが、ほかならぬ山本晋也だった。
栄枯盛衰の激しい性風俗業界のなかで、山本は毎回現場に赴きリポートした。そして驚くような斬新なサービスを目の当たりにすると決まって飛び出したのが、「ほとんどビョーキ」というフレーズ。インパクト十分で、流行語にもなった。
性風俗にもいろいろあるが、なかには「よくこんなことを思いついたな」という奇想天外な、ある意味常軌を逸したものも少なくない。だがそこには共通して人間のむき出しの本性があらわになる。そしてその姿を目の前にして、あきれながら妙に感心したりもする。
だから「ほとんどビョーキ」はれっきとした褒め言葉。その根底には山本自身がエロにかかわる人間である自負、そして一流の洞察力に裏づけられた共感があった。
実際、「社会学」を謳ったこの山本のコーナーは、どんな教科書にも載ることのない現代社会の貴重かつ生々しい記録だった。