ミャンマー国軍、権力掌握を宣言 アウンサンスーチー氏らを拘束
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画像提供, Reuters
ミャンマー国軍は1日午前、「軍が国家の権力を掌握した」と宣言した。与党・国民民主連盟(NLD)によると軍はこれに先立ち同日朝、同党を率いるアウンサンスーチー国家顧問(75)らを拘束した。ミャンマーでは昨年11月の総選挙結果をめぐり、与党と国軍の緊張が高まっていた。
ミャンマー国軍は、ミンアウンフライン国軍総司令官が政府トップになると発表した。軍はさらに、今後1年間にわたる国家非常事態を宣言したと明らかにした。
これに対してアウンサンスーチー氏は、拘束に先駆けて用意した書簡で、国軍の行動はミャンマーを独裁国家に戻すものだと批判。支持者に対して、この事態を「受け入れず」、「クーデターに抗議」するよう呼びかけた。
BBCのジョナサン・ヘッド東南アジア特派員によると、首都ネピドーや最大都市ヤンゴンの道路には兵士が出ているという。
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これに先立ち、NLD中央執行委員会のミョ・ニュン報道官は電話でロイター通信に対して、アウンサンスーチー氏のほか、ウィン・ミン大統領ら幹部が同日早朝に連行されたと述べた。
「国民には性急に反応せず、合法的に行動するよう呼びかけたい」と報道官は述べると共に、いずれ自分も拘束されるだろうと話した。
関係者によると、国軍は複数の地方自治体でも政府幹部を自宅から連行したという。
BBCビルマ語によると、首都ネピドーでは電話やインターネットの回線が遮断された。ネピドー市内と通話ができないため、状況の把握が難しくなっている。
国営放送MRTVは、技術的な問題のため放送を中止したと説明している。
BBCワールドニュースを含めた国際放送は映らなくなっている。
最大都市ヤンゴンでも、通信回線の多くが遮断され、電話やインターネットの利用は限られている。ヤンゴン市内では多くの住民が銀行の現金自動預払機(ATM)から、急ぎ現金を引き出しているという情報もある。ただし、すでに作動しなくなったATMもあるという。ミャンマー銀行協会によると、国内の銀行はすべての金融サービスを一時停止した。
ロイター通信のカメラマンは、ヤンゴンの銀行支店前に行列する人たちの写真をツイートした。
ミャンマー国軍は1月30日には、憲法に沿って行動すると約束していた。今回のクーデターは、国軍そのものが起草した憲法に違反するものだとヘッド特派員は指摘する。
さらに、アウンサンスーチー氏のような政治指導者の拘束は挑発的で、国内でも強い反発が出る可能性のあるリスクが高いと、同特派員は解説している。
ミャンマーでは昨年11月の総選挙で、NLDが単独過半数の議席を得たものの、議席を減らした国軍系の最大野党・連邦団結発展党(USDP)や国軍は結果に異議を主張。最高裁に対して大統領や選挙管理委員長への不服を申し立てた上、先月26日には不正選挙について「行動する」と会見で主張していたため、軍事クーデターの懸念が高まっていた。
1日には総選挙の結果を受けて、国会が始まる予定だった。
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国際社会の反応は
アメリカ政府はクーデターを非難し、「最近の選挙結果を変更しようとしたり、ミャンマーの民主化を妨げようとする、あらゆる取り組みに反対する」と表明した。
アントニー・ブリンケン米国務長官は、政府関係者や市民活動リーダーたちを全員釈放するよう求め、アメリカは「民主主義と自由、平和と発展を求めるビルマの人たちと共に立っている」と述べ、ミャンマー軍は「ただちに行動を撤回しなくてはならない」と強調した。
オーストラリアではマリーズ・ペイン外相が、ミャンマー国軍に「法治主義を尊重し、紛争は法的手段で解決し、違法に拘束された市民リーダーや他の人たち全員を直ちに釈放するよう」求めた。
ボリス・ジョンソン英首相は「私はミャンマーにおけるクーデターと、アウンサンスーチー氏を含む文民の違法な拘束を非難する。国民の投票結果を尊重し、民政指導者たちを釈放しなくてはならない」とツイートした。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチのジョン・シフトン氏は、「ミャンマーを何十年も支配してきた軍部は、そもそも一度も権力を手放していなかった」と述べた。「これまで一度も民政の権限を受け入れていなかったので、今日の出来事はすでに存在していた政治的な現実を露呈しただけとも言える」と、シフトン氏は話した。
ヤンゴン在住の歴史家、タントミンウ氏は、「今後の展開を制御できる人は誰もいないだろうと、悲観している。それにミャンマーは国内に大量の武器があり、民族や宗教による深い分断があり、何百万人もの人がぎりぎりの生活をしている国だと、忘れてはならない」と話した。
1962年の軍事クーデター以降、ミャンマーでは2011年まで軍事政権が続いた。2015年に民政移管後初の総選挙が行われ、民主化運動の指導者だったアウンサンスーチー氏が率いるNLDが大勝し、民主化を進めてきた。
アウンサンスーチー氏は、イギリスの植民地だったビルマの独立運動を率いたアウンサン将軍の娘。民主化指導者として軍事政権に対抗し、1989年から2010年まで自宅軟禁状態に置かれた。1991年には軟禁中にノーベル平和賞を与えられ、「力なき人の力」の象徴とたたえられた。
2015年の総選挙で勝利した後は国家顧問となり、実質的なミャンマーの指導者となった。イギリス人の夫との間に子供がいるため、外国人の子供をもつ人の大統領就任を禁止する現行憲法下では大統領になれなかった。
しかし、2017年に軍が西部ラカイン州に住む少数民族ロヒンギャに対して大規模な軍事作戦を開始し、それを逃れるため数十万人のロヒンギャが隣国バングラデシュに逃れた際、アウンサンスーチー氏は軍部を制止せず、虐殺についても反論したため、かつて同氏を支援した国際人権団体などは非難に転じた。
擁護派は当初、強力な軍部と複雑な歴史を持つ多民族国家を治めようとするアウンサンスーチー氏が、現実的な政治家として動いているのだと説明していた。しかし、2019年末の国際司法裁判所(ICJ)でも軍部の行動をアウンサンスーチー氏が弁護したため、ノーベル平和賞を取り上げるべきだとの声も上がった。
一方、ロヒンギャ支持者の少ないミャンマー国内では、アウンサンスーチー氏は今も年配の女性への敬称「ドー」をつけて呼ばれ、高い支持を得ている。