インド、カナダ外交官41人の国外退去要求=英報道

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インド政府がカナダに対し、10日までに外交官41人を国外退去させるよう要求したと、英紙フィナンシャル・タイムズが3日に報じた。インドから分離した独立国家の樹立を目指すシーク教指導者が6月にカナダ国内で殺害された事件をめぐり、両国の関係は悪化している。
インドからの退去を求められた外交官が10日以降も国内にとどまった場合、外交特権がはく奪されると、フィナンシャル・タイムズは伝えている。
カナダのジャスティン・トルドー首相は先月、同国西部で起きたシーク教指導者の殺害事件について、インド政府が関与した疑いがあると議会への報告で述べ、歴史的に緊密な関係にあった両国間の緊張が高まった。インドはカナダ側の主張を否定している。
インド外務省関係者はBBCに対し、コメントすることはないと述べた。
カナダは、首都オタワに駐在するインド外交官を上回る人数の外交官をインド・デリーに配置している。両国間に危機的状況が生じて以降、インドは「両国の外交使節の等級と外交力を同等」にするよう求めてきた。
「エスカレートさせるつもりはない」
トルドー首相は3日、インドとの亀裂をエスカレートさせるつもりはないと、記者団に語った。
「我々はインド政府と責任を持って、建設的に関わり続けるつもりだ」
シーク教指導者ハーディープ・シン・ニジャール氏(45)は6月18日夕、ブリティッシュコロンビア州のシーク教寺院「グル・ナナク・シーク・グルドワラ」の混雑した駐車場で、自分の車の中にいたところを覆面の2人組によって射殺された。同寺院はヴァンクーヴァーから東約30キロのサリー市にある。
ニジャール氏はカナダ市民権を得ていた。
インドは2020年に同氏をテロリストに指定した。同氏は、シーク教徒が多いインド北部パンジャブ州で独立国家「カリスタン」の樹立を求める運動を支持してきた。
トルドー氏は先月にカナダ議会で、同国の情報機関が、ニジェール氏の殺害に「インド政府のエージェント」が関与しているかどうかを調査していると述べた。
インドはこの疑惑を否定。インド外務省はその後、カナダから共有されたいかなる具体的な情報についても調べる用意があるとした。
互いの外交官を国外追放
両国は、互いの外交官を国外追放する事態となっている。
先月21日には、インド政府がカナダ市民へのビザ(査証)発行を停止した。カナダ国内における在外公館で「安全が脅かされ」ており、業務に支障が出ていることによる、一時的な措置だとしている。
インド政府は、ビザ発行停止は「第三国にいるカナダ人」にも適用されると説明した。
インド外務省のアリンダム・バグチ報道官は、「カナダにおいて、我が国の大使館や総領事館への脅迫が続き、通常業務に支障が出ている。そのため一時的に、ビザ発給ができなくなった」と述べた。
「インドは、両国の外交使節の等級と外交力を同等にしたいと考えている。これは、我が国の内政にカナダが外交的に干渉しているからだ」と報道官は述べた。
これに先立ちカナダは、インド国内にいる一部の外交スタッフがソーシャルメディアで脅迫されているとして、人員を一時的に縮小すると発表。「緊張関係が悪化している現状に照らして、自国の外交官の安全確保に努める」と述べた。
在インドのカナダ大使館・総領事館での、ビザ発給業務は続いている。
アメリカ、イギリス、オーストラリアはインド政府に対し、カナダの調査に協力するよう求めている。
インド政府は、独立国家「カリスタン」の樹立を求める欧米諸国のシーク教徒の分離主義者にしばしば鋭く反応してきた。6月に殺害されたニジャール氏は「カリスタン運動」と呼ばれるこの建国運動を声高に支持していた。
この運動がピークに達したのは1980年代で、シーク教徒の多いインド・パンジャブ州を中心に暴力的な反乱が起きたが、武力で鎮圧された。