トランプ新政権の副大統領になるJ.D.バンス氏は、幅広い権限を持った“首相”のような強力な副大統領になると言われ始めている。
“最も有力な大統領候補”J.D.バンス氏
米国では早くも次期2028年の大統領選挙の行方を占う選挙賭博が始まっており、オンラインの賭博情報サイト「bookies.com」によると、現在の掛け率は次のようになっている。
J.D.バンス(次期副大統領・共和党)+450(※100ドル賭けて450ドルになる)
ギャビン・ニューサム(カリフォルニア州知事・民主党)+575
ロン・デサンティス(フロリダ州知事・共和党)+700
ミシェル・オバマ(元ファーストレディ・民主党)+950
ジョシュ・シャピロ(ペンシルベニア州知事・民主党)+1000
🇺🇸 2028 US Presidential election odds: Who will succeed Donald Trump?@billsperos | @BookiesAdam https://t.co/05KFgyz25A
— Bookies.com (@bookies) November 11, 2024
バンス氏は配当率が最も低い。つまりは最も的中率が高いと見られているわけで、4年後にトランプ氏が残る任期を終えた後、最も有力な次期大統領候補ということになる。
バンス氏は、副大統領候補に指名された当初は過去のトランプ氏への批判的な発言などで支持が低迷していたが、10月1日の副大統領候補のテレビ討論で民主党のティム・ウォルズ副大統領候補を、友好的ながらも完膚なきまで論破して一気に頭角を表した。
この記事の画像(5枚)「ニュート・ギングリッチ(元下院議長)曰く:副大統領候補討論でスターが誕生、トランプも認める」(FOXニュース10月2日)
「バンスの討論での態度は、この男が保守派のスーパースターであることを示した」(保守系ニュースサイト「タウンホール」10月3日)
その後、バンス氏の集会には大勢の聴衆が詰めかけるようになり、同氏はハリス氏を真っ向から批判する「アタック・ドッグ(戦闘犬)」の役割を果たすと共に、トランプ氏の失言の後始末をして副大統領候補の役目をこなしていった。加えて、集会の終わりには必ず取材の記者たちの質問を受けて公開の記者会見を行い、トランプ氏には批判的な記者たちが好意的に対応し出していた。
「この男は皆が嫌がるようなことも進んで引き受ける。敵陣のマスコミの取材を受けることなんかね」
トランプ氏は6日に勝利宣言をした際にこう言ってバンス氏を紹介し、全幅の信頼感を表明した。
「チェイニー以来の最も強力な副大統領に」
米国の副大統領は大統領の「スペア」的な存在で、儀礼的な行事に参加することが主な任務と考えられてきたが、バンス氏は例外的な副大統領になると言われるようになってきた。
「“J.D.バンス首相”はチェイニー以来の最も強力な副大統領になりそうだ」
英紙「テレグラフ」電子版は9日、こんな表題の記事を掲載した。
🇺🇸 JD Vance could serve as a de facto “prime minister” to Donald Trump, Republicans have suggested, becoming the most powerful vice-president to hold the office since Dick Cheney.
— The Telegraph (@Telegraph) November 9, 2024
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もちろん米国には首相職はない。しかし齢78歳のトランプ大統領の下、40歳の副大統領が代わって行政を差配する場面が増え、幅広い職権を行使する英国の首相のような存在になるのではないかと同紙は推測する。それでバンス氏は、トランプ政権の地盤を固めるだけでなく、後継者としての自らの政治的地盤を固めることになるというのだ。
また同紙が引用した「チェイニー」とは、ジョージ・W・ブッシュ大統領の下で2001年~2009年副大統領を務めたディック・チェイニー氏のことで、イラク戦争を主導するなど大統領に代わっていわゆるネオコン路線を踏襲して「米国史上最強の副大統領」と言われた。
バンス氏がそのチェイニー氏のように指導性を発揮できるかどうかは、ひとえにトランプ氏のバンス氏への信頼にかかっていると言えるだろう。配下に厳しく忠誠を求めるトランプ氏のことなので、バンス氏に少しでも自分を差し置いて次期大統領を目指す気配を感じたら、いっぺんに冷遇することは容易に想像できる。
しかし、米国の大統領には副大統領を罷免する権限はない。その一方で副大統領は「大統領がその職務上の権限及び義務を遂行できない」と判断された時は、直ちに大統領職を代行すると連邦憲法修正25条は規定していて、むしろ副大統領の方が立場が強いとも言える。このため例えバンス氏がトランプ氏の妬みを買っても、政権から追われることはないと考えられる。
アパラチア山脈の寒村で赤貧の暮らしから身を立てた「苦労人」のバンス氏としては、そうしたことがないよう気配りができると考えられるが、今後ホワイトハウス内のバンス氏をめぐる動向からは目を離せない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】