欧米の内側でくすぶり始めた「価値観の戦争」
Foresight World Watcher's 4 Tips
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J・D・バンス米副大統領によるミュンヘン安全保障会議での演説が大きな波紋を広げています。事前に予想されていたロシア・ウクライナ戦争の停戦交渉に関する内容ではなく、欧州に対する強い不信感が表明されたことは驚きをもって伝えられました。なぜこうした発言に至ったのかについては、現時点では詳細な論考が見当たりません。もちろん、欧州のSNS規制がイーロン・マスク氏率いるX(旧ツイッター)の利益を損なうというような部分もあるのでしょうけれども、それだけで説明できるものでもなさそうです。
欧州側の反応もまず「唖然」、そして怒りというものだったようです。少なくとも直視しておくべきは、「米国と共有するはずの最も基本的な価値観が後退している」というバンス氏の発言が、欧州と米国の間に民主主義の理解・定義をめぐって大きな食い違いが生まれつつあると示すことです。
トランプ政権の外交が脱価値的なものになる一方で、価値観の表象性や影響力が低下したわけではありません。いわば「異なる民主主義」同士が衝突する。独公共放送ZDFは「今や、第二次世界大戦以来、何十年にもわたって本来アメリカとヨーロッパを結びつけてきた価値観が、もはやその形では通用しなくなっていることが非常にはっきりと示されている」と伝えています。価値観の戦争状態が欧米の内側で生まれつつあることが懸念されます。
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[SITUATION REPORT]Vance Leaves Europe Gobsmacked【Rishi Iyengar, Keith Johnson/Foreign Policy/2月14日付】
「バンスがミュンヘンで登壇したとき、ほとんどの人は、彼が演説を行うまでの間、会場周辺で繰り広げられていた議論の的となっていたトピック、すなわち欧州の防衛支出とウクライナの運命について、彼が演説で詳しく述べるだろうと予想していた」
「しかし、これらのテーマについては一言ずつ触れられただけだった。そのかわり、バンスは20分間の講演の大半を、欧州が、言論の自由に対する行き過ぎた検閲を通じて、西側諸国が共有する『民主的価値観』から後退していると批判することに費やした」
「欧州人やその他の人々が見守るなか、バンスは次のようなメッセージを発した。『ワシントンには新しい保安官がいる。そして、ドナルド・トランプ大統領のリーダーシップのもと、私たちは皆さんの意見に反対するかもしれないが、皆さんが公共の場で意見を述べる権利を守るために戦う』。この発言には、散発的でためらいがちな拍手が送られた」
バンス副大統領がミュンヘン安全保障会議で行ったスピーチについて伝えるにあたり、米「フォーリン・ポリシー(FP)」誌は、週刊ニューズレター「シチュエーション・リポート」最新号に「バンス、欧州を唖然とさせる」というタイトルを付した(2月14日付)。
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