軽はやっぱり「危ない」のか?

2025.02.04 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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世の中、軽が売れていて、自分も製品としての魅力を感じますが、交通事故発生時の安全性に不安があります。一定の安全基準は満たしているのでしょうが、やはり普通車に比べて、安全性は一歩ゆずるのでしょうか?

物理の原理原則でいうならば、当然、質量・体積の大きなクルマと小さなクルマがぶつかればどちらが勝つか? ということの結果は明白です。いくら軽自動車の衝突安全のレベルが上がろうと、もっと大きなものと衝突した場合、確率的に損になるというのは否定できない事実だと思います。

その前提で話をしますが、今の軽自動車の安全性能のレベルは、ものすごく上がっています。衝突安全の法規のおよぶ範囲で、いわゆる普通車は、すでにいき着くところまでいっている感がありますが、クラッシャブルゾーンに比較的余裕がなく、非常に厳しい規格のなかで開発される軽は、新型が出るたびに「明らかに先代モデルより性能が上がった」という面が顕著に表れます。

そうした衝突試験の結果だけ見ると、最新の普通車と軽自動車の安全性には大差はありません。車両そのものについて「軽だから危ない」という認識は、間違っていると思います。

だけれど、衝突安全のテストくらい、リアルワールドを想定した試験の仕方を定めるのが難しいものもありません。なにしろ、ぶつかる形態というのが本当に多種多様なのです。オフセット衝突だって、わずかに角度が変わったら、結果は大きく違ってしまう。そのなかで、ぶつかったときにけがをするのかしないのかというのがユーザーにとっては一番大事なわけで、万が一の事態になったら、あとになって「あのとき、軽に乗っていたからけがをしたんだ」とか「もっと大きなクルマに乗っていれば助かったのに……」などと思ってしまうものなのです。

誤解を恐れずに確率論だけでいうならば、大きいクルマに乗ったほうが、そうした千差万別の衝突においてけがをする程度はより少なくなる可能性があります。冒頭で述べたとおり、原理原則からは明確なことなのです。

とはいえ「軽が危ない」のではない。繰り返しますが、個々の安全性能は登録車と比べてもそん色ない。「大きなクルマとぶつかることを想定するなら軽のほうが不利になるかもしれない」というだけのことです。じゃあダンプカーに乗ればいいのか、戦車のようなクルマに乗ればいいのかと、キリのない話になってしまいますが。

ちなみに私の日ごろのアシは、現行モデルの軽です。前述のことはわかったうえで、クラッシャブルゾーンがいかにも小さい最新の軽トラックに乗っています(笑)。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。