決定方式
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最低賃金制度に関するILO条約 (第26号) も最低賃金率の適用や低賃金労働者に対する所得保障、労使両方参加による協議の内容となっており、この条約を批准している諸国ではほぼ共通している。 しかし、目的は同じでも、国によって、最低賃金の改定や決定の方法が異なっている。一般には4つに分かれており、殆どの国は上記の3つの方式によって、運用されている。しかしながら、同じ国でも、業種や地域によって異なり、決定方式が並立している場合がある。以下は、大橋勇雄の「特集:最低賃金 日本の最低賃金制度について 欧米の実態と議論を踏まえて」を転載した内容である。 審議会方式 労働側と使用者側をそれぞれ代表する同数の委員と中立委員から構成される審議会が最低賃金を決定するが、形式的にも実質的にも賃金委員会と呼ばれる審議会が決定権をもつ場合と、実質的には審議会が決定権をもつが形式的には決定権限をもつ者の諮問機関として機能する場合とがある。 現在、前者の方式をとる国として、ベルギーやある特定業種に賃金審議会を設置したかってのイギリス (1993年に廃止) などがある。 他方、現在のイギリスやフランス、ドイツ、スペインなどの多くのEU諸国、及び日本では、後者の審議会方式がとられている。また、労使のみの代表で構成される審議会で最低賃金が決定される場合、それはさながら団体交渉に近くなり、ベルギーは団体交渉の結果として最低賃金が決まる国と分類されている。 他に、イギリスではサッチャー政権下で規制緩和策が推進され、その一環として賃金審議会法が廃止された。しかしその後、1998年の最低賃金法により低賃金委員会が設置され、その推薦に基づいて政府が最低賃金を決定するという方式がとられている。そして、ドイツではかつては決定方式が労働協約方式のみであったが、2016年以降は、フランスとスペイン同様、審議会方式と労働協約方式が並立した国となっている。 法定方式 法律によって最低賃金を決定する方式であるために、その改定は一般の法改正と同じ手続きで行う必要がある。その例として、アメリカの連邦最低賃金は上院と下院での議会審議という立法過程を経て決められ、公正労働基準法(1938年制定)にその額が直接規定される。 またアメリカの各州には州法に基づいて州最低賃金制が存在するが、州によって様々であり、法定方式を中心に審議会方式や両者の併用などもみられる。州によっては、産業別・職種別の最低賃金も存在する。2009年以降は連邦最低賃金の改定がなく、物価上昇による実質的な最低賃金の低下を避けるため、及びFight for $15(最低時給15ドルへ引き上げるために闘う)運動による影響により、それを上回って最低賃金の水準を決める州が少なくない。 ただし、州によっては、最低賃金額は連邦のそれより同額、または低く決められる。これは適用労働者がほとんどの州で、州内のすべての労働者とされるのに対して、連邦最低賃金の場合、州際商業 (州相互間、または1州とその領域外の場所との取引、輸送、通信など) に関連した仕事に従事しているとか、一定の規模以上の企業で雇用されている、などの範囲が決められているからである。 労働協約方式 この方式は、労働組合と使用者との間の団体交渉で締結された労働協約上の賃金の最低額を、拡張適用法のもとに、協約の締結当事者 (組合員)以外の外部の労働者に対しても強制的に適用しようとするものである。ただし、元になる労働協約が、一定の地域内の特定の産業または職種の労働者のかなりの部分、すなわち法で決められた一定比率以上の者に適用されていなければならない。 この方式をとる国として、ドイツ、イタリア、オーストリア、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどがある。 こうした各部門別の協約賃金の拡張適用の結果、経済全体で協約最低賃金によってカバーされる雇用者割合は、ドイツが56.0%(2016)、イタリアが80.0%(2016)、オーストリアが98.0%(2017)、デンマークが82.0%(2016)、ノルウェーが72.5%(2014)となっている。 オランダは団体交渉で締結された賃金を援用して政府が決めるとされているが、実質的には労働協約方式に分類できる。フランスでも労働協約方式が特定の業種で存在し、審議会方式による全国全産業の労働者に一律に適用される 「発展のための全職業最低賃金」(SMIC) と並存している。SMICを上回って特定業種の協約最低賃金が決められた場合、その拡張適用によって最低賃金が決められるという形である。これは基本的にスペインも同様である。 日本でも労働協約の拡張適用が法制化され、広島県と滋賀県の塗装製造業関係で実施されていたが、日本の労使関係にマッチしていないとして2007年の最低賃金法の改正により労働協約に基づく地域的最低賃金は廃止されることになった。 労働裁判所方式 オーストラリアやニュージーランドで採用されているもので、労働裁判所や労働委員会などの労使関係を調整する機関が労使の意見を聴きながら審議し、最低賃金を裁定したり、決定したりするものである。
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決定方式
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/28 00:59 UTC 版)
最低賃金法第4条より、以下の要素を考慮して決定する。 勤労者の生計費 類似勤労者の賃金 労働生産性 所得分配率 等そのため、第23条より、勤労者の生計費及び賃金実態等を毎年調査している。 最低賃金を決める例年のスケジュールは以下のようになっている。 毎年4月頃:最低賃金委員会が雇用労働部の諮問を受けて、審議を開始する。 7月頃:最低賃金案を雇用労働部に答申 8月頃:雇用労働部が最低賃金を5日までに決定し、雇用労働部長官が、翌年度に適用される最低賃金額が告示 翌年1月:最低賃金発効 最低賃金委員会:公労使各々9人の計27人で構成される。委員の任期は3年であり再任することができる。(最低賃金法第14条)委員長及び副委員長は、各々1人であり、公益委員のうちから委員会が選出する。(最低賃金法第15条)また、関係行政機関の公務員のうちから3人以内の特別委員を置くことができ、委員会の会議に出席して発言することができる。(最低賃金法第16条)。 例年では、労使の対立が激しく、元々労働者側が強いためか、経済危機の状況や2020年を除き、労働者側に寄った引き上げ率を提示している。
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決定方式
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「最低賃金 (フランス)」の記事における「決定方式」の解説
SMICの時給額は、以下に挙げる三つによって、決定される。 物価スライド制消費者物価指数が前回の改定水準より2%以上上昇した場合、指数発表の翌月初日にその上昇分だけ改定される。(労働法 L.141-3条)消費者物価指数は、世帯主が労働者である都市部の世帯で、タバコを除く295品目の消費者物価を対象として算出される。 年次改定「労働省による3ヶ月ごとの調査によって記録された平均時間給の購買力の上昇分の2分の1を下回ってはならない」(労働法 L.141-5条) 「最低賃金の上昇と、一般的経済条件及び国民所得との間の永続的な全ての不均衡を除去しようとするものでなければならない」(労働法 L.141-6条) とされる。以下の i - iii を踏まえて、政府が全国団体交渉委員会に諮問し、答申を受けて命令(デクレ)により改定 i. 特殊な世帯(一般労働者のうち、生活水準の下位20%の世帯を抽出した世帯)の物価上昇率2013年2月に従来の消費者物価指数の上昇率基準となる世帯主が一般ワーカーまたは事務系労働者である都市部の世帯の上昇率から改められた。ii. 生産労働者(一般労働者及び事務系労働者)基本時間給実質上昇率×1/2 以上iii. 政府の裁量による上乗せ 政府裁量政府は、年度中あるいは毎年1月1日のSMIC改定の際に、上記1と2のメカニズムから算定される率を超えてSMICを引き上げることができる。これは政府による「後押し分(coups de pouce)」と呼ばれるものである。政府裁量額は、団体交渉全国委員会の答申後に政府が決定する。ただし、2012年7月1日以降は、オランド大統領政権下で行われた物価上昇分(1.4%)に加えた0.6%の上昇分上乗せして以降は、「後押し分」の引上げは行われていない。 全国団体交渉委員会:政府代表4名、労使各18名で構成される。同委員会は、以下のことをする。 国家の財政勘定の分析および一般的経済条件についての報告を受け取る。 上記の報告の要素と年度途中の改定を考慮に入れた上で、政府に対して、必要があれば多数派及び少数派の意見も報告書も加えてまとめ、理由付き答申を出す。ただし、答申は労使の合意した意見や見解は無い。 また、団体交渉全国委員会の答申は、下記の専門家委員会の年次報告書重視により、実質的な影響を持っていない。 専門家委員会:SMICの改定について意見を述べる独立機関である。 専門家委員会は、経済・社会の領域での能力・経験により選ばれるため、経済・統計の専門家としての性格が強い構成となっている。これらの人選は、雇用労働及び経済担当大臣の提案に基づき、首相によって 5人が任命される。 委員会は、労働市場の発展、生産性の向上、付加価値の分配、企業競争力、比較可能な諸外国の最低賃金の上昇を分析した上で、報告書を提出し、意見を述べる。 また、政府も国家財政分析及び一般的経済状況に関する報告を全国団体交渉委員会に提出する。政府の報告書と専門家委員会の報告書に開きがある場合、政府はその理由を書面で述べる。 専門委員会はサルコジ政権(2007年)下の雇用指針評議会において、賃金構造の硬直化、労働費用が増大していることが指摘された。そのため、雇用の適正な配分を保障するための経済条件に応じたSMICの引上げを可能とするために設置された。 そして、2008年の専門家委員会設置以降、統計データなどが載っている委員会の年次報告書が重視されるようになっている。
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