直訳
直訳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/25 07:46 UTC 版)
直訳は、あまりに原文の文法的構造や単語との一対一対応を重視するために、翻訳後の言語の母語話者から見ると違和感や稚拙さを感じる表現となる場合がある。(法文(法令の文章)は、しばしば、明治期にドイツの法律のドイツ語の用語やいいまわし、フランスの法律のフランス語の用語や言い回しを、(特に土台があるわけではないので、しかたなく、一語一語、強引に造語しつつ)人工的に置き換えてきた歴史があるので、法律分野では、しばしば日本語のお決まりの表現自体が日本語としてはかなり不自然で「直訳調」になってしまっている場合があり、どうしようもない場合がある。(しかし、その場合は、もとももと人工的、恣意的に一対一対応が作ってあるので、翻訳もそれ「直訳」で済み、またそれ以外の方法が無い。) また、「直訳」は、翻訳先の母語話者にとって、まったく意味が不明になったり、おかしな意味や全然異なった意味、間違った文章になってしまうことがある(日常語の翻訳では、しばしばそうなる)。 日本の初等・中等英語教育では、子供たちに、とりあえず、日本語訳は「直訳」で学ばさせる、という方法を採用している。例えば、「Carefully は 注意深く」、「Though は "~だけれども"」といった調子で1対1対応でまずは教え、暗記させる。とりあえず、初学者・入門者には、レベルの高いことを期待するのは無理なので、とりあえずは1対1対応で“翻訳”(英文訓読に近い形)をさせて、ともかくもまずは外国語の様々な語に慣れ、綴り(スペリング)を覚えさせ、ともかくも基礎的な語を1000~2000語程度まで覚えさせることで、次の中級段階の入り口に立たせるまでの教育を行うのである。 多くの場合、初学者の一対一の言葉は全くの間違いというわけではないが、先述のCarefullyを「ていねいに」や「たんねんに」、Thoughを「~だが」のように訳したほうが自然な場合もある。だが、日本では多国語話者が極端に少ないため外国語教育の水準が低く、特に中等教育では、教育マニュアルの内容を超えていることから「自然な訳」が拒絶されることもある。これが「直訳調」の不自然な英語・日本語を生む原因でもある。 個々の語の意味というのは、その語だけでは確定せず、あくまで発話された状況・背景、文脈やイディオムとの関連があってはじめて定まるもので、場合に応じて指す内容は異なる。むしろ最近の言語研究では、個々の語自体より言い回しや文章全体が、意図やニュアンスを持つということが明らかになってきている。Googleの自動翻訳プログラムでも、そうした言語学的成果を織り込みつつ、膨大な文例と文脈のデータベースを用いるように改良してきたことで、次第に自然な翻訳ができるようになってきた。したがって他言語に翻訳する場合は、その言語ならではの表現について非常によく知っていなければならず、直訳のみで済ませば不自然になる可能性がかなり高いのである。 端的に言えば、直訳は誤訳に陥ってしまう可能性が高い。初級の不自然な例文を扱っているうちは直訳の問題点は気付かれづらいが、段階が進むごとにその問題点はやがて明らかになる。
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