
『これは怖すぎる…』埋まって感じたリアルな雪の恐怖と寒さとビーコンのありがたさ 《ビーコン捜索検証》
雪山を登る人なら聞いたことがあるだろうビーコン。雪崩に巻き込まれてしまった場合の装備として、ほとんどの登山者がその重要性を知っていると思います。しかし、なかには高価なために手を出せていない人もいるのではないでしょうか?
今回は、雪崩対策装備の1つであるビーコンの有無で、捜索にどれくらいの違いがあるのかを検証してきました。
捜索時間はもちろんのこと、精神的にも肉体的にも影響があった様子をレポートします。
2025/02/21 更新
本ページはアフィリエイトプログラムを利用しています。
目次
ビーコンは大事!でも、やっぱり金額が・・・

撮影:後藤武久
銀嶺、霧氷、氷爆、スノーモンスター、エビのしっぽなど、雪山でしか見られない景色は神秘的なものが多く、ただ息を飲むばかり。雪をまとった山は、本当に美しいものですよね。
そんな自然の美しさに出会うためには、ハードシェルや防寒着といったウェア、冬用登山靴、アイゼン、ピッケルなどの雪山装備が欠かせません。

出典:PIXTA
そして、雪山の安全対策の装備として必要なのが、ビーコンなどの雪崩対策装備(アバランチセーフティギア)。雪山は美しいだけではなく、雪崩などの重大な事故につながるリスクがある過酷な一面も持っています。
仲間のためにも雪崩対策装備は必須

撮影:後藤武久(アバランチセーフティギアのビーコン、スノーショベル、プローブ)
雪崩は地形や気候、降雪状況などから、ある程度予測することはできますが、いつどこで発生するかは分からないもの。谷地形だけではなく、樹林帯でも斜度が十分あれば発生する可能性があります。
雪崩は、雪山に入るすべての登山者に起こりうるアクシデントです。
というのは雪山に登る多くの登山者が理解していることですが、実際は
登山者
雪崩への備えは大事なんだろうけど、冬用登山靴とかアイゼンを買い揃えるだけで大変。いつ起こるかわからない雪崩のためにビーコンとかまでは、とても手を出せないよ。
という人も。
たしかに予算はきびしいところですが、雪崩対策装備は自分の身を守るだけの装備ではありません。万が一雪崩に巻き込まれてしまった仲間を、すばやく救うための人命救助アイテムでもあります。
編集部 大迫
「ビーコンが必要」っていうのは、みんな頭ではわかっていると思います。だけど「自分や仲間がいざ埋まってしまったら」というところが具体的にイメージできていないから、金額だけが先行して「ビーコンは高い!」ってなっているんじゃないかな?
ということで、実際に雪山での救出がどれくらい大変かを体験してきました。
「ここまで何もできないなんて……」埋まってリアルになった恐さ

撮影:後藤武久
まずは、雪に埋まってしまった状態を体験するために、安全を確保しながら雪に約5分間埋まってみることに。
雪に埋まった環境
・寝そべって腰まで入るくらいの雪だまりに掘った穴
・脚には雪を30cmほど被せる
※安全のため、頭周りの空間は確保。異常が合った場合に合図を出せるよう足だけ外に出した状態。
雪に埋まったのは、自ら体験しないと気がすまない編集部の大迫。
閉塞感と冷えていく感覚が恐怖を煽る

撮影:後藤武久
編集部 大迫
閉塞感がこれだけ人を不安にさせるんですね。今回、顔の周りはある程度余裕がありましたが、それでも狭いところに入った瞬間、急に恐怖を感じました。
想像していたよりもずっと雪が重くて動けなかったです。とくに太もも周りから冷えてきて、徐々に体が冷えていくのを感じました。
外にいるスタッフにずっと声をかけているのに、なんの反応もないし。自力で出られない、助けも呼べない、本当に何もできませんでした。
自然が牙を剥くと怖いってことを、はっきりと思い出させられました。
周りとのやりとりもできない、動くこともできないだけではなく、雪によってみるみる奪われていく体温。体の芯が冷やされたみたいに寒いと、体を震わせている大迫がつぶやいたひと言が印象的でした。
編集部 大迫
万が一、埋まってしまったら、自分だけで助かるのは無理じゃないですかね……。あまりの動けなさや閉塞感、そしてドンドン冷たくなっていく感覚、雪の怖さがすごくリアルになりました。
今回はあくまでも実験ということで安全に配慮をしていたので5分過ぎても少し埋まっていることができましたが、顔の周りもすべて覆われてしまったらと想像すると、きっと5分も耐えられなかったと思います。
不安でしかなくリスクが高いそんな状況から、一刻も早く仲間を救助したり、時には救ってもらうためにも、ビーコンを備えたいですね。
《実験》早さだけじゃない!?ストレスも安全も左右する捜索の違い

撮影:後藤武久
しかし、広大な山で雪崩に埋もれた人を探すのは、まさに至難の業。
「ビーコンあり」が捜索に有利なのは言わずもがなですが、「ビーコンなし」で捜索した場合、時間や捜索する側にどんな影響や違いが出るのでしょうか?ビーコンを使って捜索をしてみました。

撮影:後藤武久
雪崩に巻き込まれた登山者の代わりには、40cm×60cmほどの段ボールを採用。段ボールはカメラマンが雪に埋め、大迫はその時目をつぶってどこに埋めたかわからないようにします。
実験内容
・ 「ビーコンあり」と「ビーコンなし」の2パターンで捜索
・捜索時間の目安は生存リミットの15分
・捜索範囲は幅15m×長さ20mほど
・捜索者は編集部 大迫のみ
結果は「ビーコンあり」が1分16秒で、「ビーコンなし」では14分9秒かかりました。やはり「ビーコンあり」の方が圧倒的に早い結果となりました。
もちろん発見までの早さは重要ですが、それ以外にも大きな違いがあったようです。それでは、捜索実験の様子を見ていきましょう。
ひとりでも見つけられるスピード救出劇 《ビーコンありの捜索》

撮影:後藤武久
まずは、ビーコンを使って段ボール(埋没者の想定)を捜索。
やるべきことが明確である安心感

撮影:後藤武久
ビーコンを受信モードにするとすぐに反応があり、埋没者の方向や距離が画面に表示されました。
編集部 大迫
何も目印のない雪面を前にした時は、どこから探せばいいのかまったく見当がつきませんでした。でも、ビーコンを確認すると探す目安が目で見て分かるので、やるべきことが明確なので、ひとまず安心できました。
実際に雪崩にあったときはきっとパニックになっていて、判断力などが低下していると思うので、この頼もしさはとても心強いでしょうね。
音と目で確認できる距離が、集中力を高める

撮影:後藤武久
ビーコンが示す方向に進んでいくと反応音が変わり、埋没者が近くなってきたことを知らせてくれます。
編集部 大迫
(もちろん実際には人が埋まっていないということもあると思いますが)時間に追われるようなストレスがなかったんですよ。やることがハッキリしていたので、集中できたのは大きいと思います。
たったの15分に人の命がかかっているって意識すると焦りそうですけど、ビーコンの音と画面に表示される距離数で、埋没者に確実に近づいていることが分かるので、落ち着いて探すことに集中できました。
余力を残せる安全性

撮影:後藤武久
ついにビーコンが埋没者を発見したため、プローブを雪面に刺して(プロービング)。埋没者の位置や深さをピンポイントで特定します。どうやら一刺し目で手応えがあったようです。

撮影:後藤武久
編集部 大迫
このポイントにいると分かっているので、手応えを予測しながらプロービングに集中できました。不安定な雪面を歩いた範囲も最小限で、プロービングの回数も少なかったため、疲労感はほとんどありません。
山の奥で雪崩に遭遇した場合、体力を消耗していると二次遭難のリスクも十分考えられます。体力の温存は、安全性に直結しますね。
「ビーコンあり」の捜索では、大迫の歩調にはなんの迷いもなく、驚くほどスムーズに埋没者を探し出しました。
道しるべがあるという安心感、時間に焦らない冷静な思考力のキープ、体力の消耗を軽減する安全性と、捜索する側にもビーコンを備えるメリットが大きいことが分かりました。
心も体も消耗する持久戦 《ビーコンなし捜索》

撮影:後藤武久
つぎに、「ビーコンなし」の段ボールの捜索を開始します。
絶望しかない。見渡せるのにだだっ広い捜索範囲

撮影:後藤武久
今回は、雪崩に巻き込まれた人の流出物がいっさい見られない状況を想定。
※通常はバックパックなどの流出物が、遭難者の位置の目安になることもある
編集部 大迫
ただただ呆然とするばかりでした。実際の捜索範囲と比べるとかなり小規模な範囲ですが、それでもどこをどうやって探したらいいのか、まったく見当が付きません。
ただただ、見つけられるか不安でした。
ストレスフルな状況による精神的疲労

撮影:後藤武久
手がかりが一切ないため、捜索の対象範囲を手応えがあるまで20~30cm間隔でひたすらプロービングします。心なしか大迫の背中から悲壮感が。
編集部 大迫
プロービングを繰り返しても繰り返しても、何の手応えもありません。あとどれくらいやればいいのか……。捜索漏れがないように、等間隔でプロービングしなきゃという緊張感で、より疲弊していきました。
ただでさえ埋没者がどこにいるか分からないストレスがありながら、タイムリミットや自分の安全確保など、考えることがたくさんあって、ストレスが溜まる一方だったともいいます。
時おり遠くを見つめる大迫の様子から、捜索の集中力が途切れ気味になっているのが伺えました。
長時間の捜索で重くなっていく体

撮影:後藤武久
やっとのことで埋没者を探し当て、掘り出したときには14分以上が経過していました。大迫の顔には疲れがにじみ出ています。
編集部 大迫
プロービングで手応えがあったと思って、スノーショベルで掘ってみたら樹木……。どの手応えが捜索物か疑心暗鬼になり、時間も体力も無駄に消耗してしまいました。
何度目になるのか分からないほど続けたプロービングで、腕も腰も重たいです。やっと見つけたときには、まさに疲労困憊。見つかった安堵と作業からの解放で、疲れがドッときました。
「ビーコンなし」の捜索は、その大変さがひしひしと伝わってきました。埋没者の位置もプロービングの手応えも分からない不安、時間に追われるストレス、蓄積する一方の疲労。
大人数のパーティーであれば効率を少しは上げられそうですが、2~3人のパーティーの場合には現実的な捜索は難しそうです。
「正直これが助かる唯一の方法だと思いました」

撮影:後藤武久
夏山にはない荘厳さや美しい雪化粧に魅了される雪山。しかし、その反面には雪崩といった特有のリスクがあります。大事なのはリスクに備えること。
ビーコンなどの雪崩対策装備は他の装備に比べると高価ですが、生命をおびやかすリスク対策には欠かせないアイテムです。買い揃えるのが難しい場合は、インターネットで申し込めるレンタルもあります。
編集部 大迫
今回の実験をするまでは、僕も「ビーコンって、ちょっと高いよな」という気持ちが少しありました。ですが、埋まると自分ではどうしようもないこと、狭い範囲でも捜索が困難であることがリアルになった今は、同じ金額でも感じ方がまったく違います。
購入やレンタルで備えることはもちろんですが、機会があればメーカーやショップが行っている雪山講習やビーコン講習会に参加して実際に経験する機会を作って欲しいです。
雪山に登るならば、仲間や自分の安全と迅速な救助のためにも、ビーコンをはじめとした雪崩対策装備をぜひ装備してください。
今回、使用したビーコン

撮影:後藤武久
今回はマムートの「バリーボックス S2」を使用しました。直感的に操作ができ、大型ディスプレイは視認性がよく、シンプルなナビゲーションで、誰でも使いやすいおすすめの一台です。
マムート バリーボックス S2
タイプ | デジタル3アンテナデバイス |
---|---|
重量 | 180g |
バッテリー | 単四電池×2本 |