2025-01-20

[] 受け手の怠慢、作り手の傲慢

最近、『恋のジンゲーム』という漫画を読んだ。第1話を読んで最初に感じたのは「なんでこんな構成にしてるんだろう」だった。前半の、主人公による独白主体構成は、独特なセリフ回しもあって軽妙で、その後の展開を期待させる。だけど後半の構成は歪だ。

謎の存在主人公の前に現れて「色々あって君に恋をしてほしい」と言い出す。その「色々あって」はすぐさま丁寧に説明される。後半はこの説明に費やされており、絵的には主人公と謎の存在が突っ立って喋り続けているだけなので見栄えは良くない。

「丁寧に説明される」と書いたが、タイトルにもなっているジンゲームジンロがなんなのか、ルールシステムだとか、謎の存在がなぜそんなことをするのか、なぜ主人公が選ばれたのだとかも口頭で説明される。これらを1話の後半に詰め込んでいる。

それでも足りなくて、2話の序盤ではジンロという存在の補足的な説明から始まる。ストーリーが進んでないのに、そんな説明ばっかされても興味がわかない。


こんな描き方をするようでは以降は期待できないなってことで本作は切っていたんだが、はてブホッテントリにあがってる“ある記事”を読んで本作を思い出した。

それはH×H考察記事で、その筆者はピエール手塚という人だった。『恋のジンゲーム』の作者である。それに気づいたとき、私の中で腑に落ちるものがあった。

この人の考察記事言及されているH×Hという作品は、近年とても歪な構成になっている。まず目につくのは、誰がどう見ても明らかに多すぎる文字量。説明、各登場人物の思惑まで細かく文章にするためだ。

贔屓目に見ても、漫画としてはダメな描き方という他ない。それでも読まれ続けているのは、これまでH×Hが築き上げてきたファン層が前のめりに読んでくれるためだ。前のめりに読んでさえくれれば面白い、ということでもあるが。

からこそピエール手塚考察記事を書く程度には熱心になっているわけだが。そんな今のH×Hを支持する程度には、あの「文字量や思考説明もやたらと書く」ことにはそこまで抵抗感がないんだと思う。それが当人作風にも表れた結果が『恋のジンゲーム1話の、あの歪な構成に繋がっているのだろう。


私がピエール手塚という人物最初に覚えたのは、実は漫画ではなく、この人の書いているブログきっかけだった(ブログより前にこの人の漫画をどこかで読んでいるかもしれないが、作家のものを明確に認知したという点ではブログきっかけ)。

この人は、ある記事で「はてなブックマークは最低のコメントがつく最低のサービス」と評している程度にははてブ(ひいてはそこにコメントする輩)に辟易している。あと、この人がはてなブログで書き始めた理由も、以前にやっていたブログコメントがつきすぎて嫌になったからだという。

で、結局の所はてなブログで書くのも嫌になってるので、ある程度“そういうもの”を制御したい性質なんだなと感じた。受け手に何らかの期待をしつつも信用はしていないというか。それが作風にも表れていて、だから『恋のジンゲーム』も読み手言及されそうなことを先に書いておかないと、となってああいった構成になったのだろうか。


そして、この記事タイトルにつながる話なのだが、私は「作り手のせいにするのは受け手の怠慢、受け手のせいにするのは作り手の傲慢」って思ってて。

そもそも自分表現物が不特定多数人間100%理解してもらえることなんて無理だ。100%に近づけることはできても、それは作り手だけでコントールできるものではない。受け手絶対数が増えれば、より制御は困難になっていく。

果たして、そうして制御不能になったのは受け手無知無理解が原因だろうか。それとも作り手の表現力の問題だろうか。月並みだが「どっちもどっち」というしかない。作り手も受け手作品に対して誠実に向き合うよう努める、というだけの話ではあるのだが。その”だけ”が難しいって話でもある。

私は近年のH×Hを「前のめりに読めば面白い」と書いたが、ぶっちゃけ大概の作品は前のめりに読むことさえできれば面白い(少なくとも評価できる点は多少みえてくる)。『恋のジンゲーム』もそうやって臨むと、一見すると歪にみえ構成にも“意義”を見出せる。

改めて読み直してみるに、あれは“ふるい”のようなものだと私は考える。この作品方向性ルール1話の時点で提示しました。漫画としては少し歪になりましたが、それでも自分作品を前のめりに、ちゃんと読もうとしてくれる人はついてきてください。今のH×Hみたいに、それでも読み続けてくれれば面白いですから、といった感じ。

もちろん大多数の受け手にとってピエール手塚冨樫義博に相当しないし、『恋のジンゲーム』はH×Hに相当しない。ただ個別作品もつ意義だとか意図といったものも含め、文脈を読もうといった姿勢のもの受け手側が真摯に持つべきじゃないかと思う。

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