私は長年、自分の小さな世界で生きてきた。朝は決まった時間に起き、同じ電車に乗り、同じ道を歩く。この狭い世界は、私にとって何より安全な場所だった。
変化なんて必要ない。誰かと深く関わることもない。ただひたすらに同じ日々を重ねることが、私には心地よかった。人から見れば死んだような生活かもしれないが、それでよかった。生きている実感なんて、別に必要ないから。
だが先月、幼い頃から唯一の友人だったやつが「海外で働くことになった」と言い出した。その瞬間から、私の胃の中で何かが腐っていくような感覚が始まった。
「きっと成長できると思うんだ」
なんなんだろう、この「成長」っていう言葉。まるで今の自分が未完成で、劣っているみたいな言い方。今の環境じゃダメだっていう否定。周りの人間を踏み台にして、自分だけ高みに登ろうとする、あさましい上昇志向。
SNSには毎日のように投稿される準備の進捗。英語の勉強風景とか、手続きの報告とか、現地の写真とか。それを見るたびに、胃液が逆流してくる。「いいね」をつける他の知人たちも、同じように気持ち悪い。
検索しても出てくるのは「海外でのサクセスストーリー」とか「人生を変えた体験談」とか、吐瀉物みたいな美談ばかり。違う、そうじゃない。こんな気持ち悪さを共有できる人はいないのか。
今の自分に満足できない人間が、新しい場所に行けば何かが変わるとでも?
所詮、逃避でしかないじゃないか。周りの人間との関係なんて、さっさと切り捨てられる程度のものなのか。
この感情を誰かに話せば、「嫉妬乙」で終わりだろう。でも違う。人間の醜さへの、根源的な嫌悪感なんだ。
吐き気は日に日に激しくなる。友人の出発日が近づくたび、トイレに駆け込む回数が増えた。自分の反応がおかしいことくらい、わかってる。でも、この生理的な嫌悪感は止まらない。
私が異常なのは間違いない。でも、この異常な感覚こそが、人間の本質を捉えているんじゃないのか。
なんかふわっとしてるね
あー、またひとのせいにしてるー