11歳や12歳で奉公に出て、休日は年に2日。長期休暇がもらえるのは9年目。住み込みのため独身を強いられ、番頭まで勤め上げた40代になってようやく結婚できた-。 「華やかに見える日本橋の大店(おおだな)でも、江戸の商家の勤務実態は現代から見るとブラック企業。本のタイトルを編集者に示されたときは抵抗がありましたが、今は時宜を得たものだったかなと思います」 江戸は豊かで清潔、町は安全で、長屋には人情が満ちていたなど、江戸を賛美する本は数多い。日本人はすごかったと褒められれば、読者も悪い気はしない。だが、永井さんは当時の風俗小説や随筆、日記などの記述から、悲惨な実相を次々に突きつける。 いわく、江戸の水を飲むと下痢をする、町奉行は市民を守ってくれない、餓死する隣人を見て見ぬふり、子供の虐待等々。図版も豊富で、蓋もしない肥桶(こえおけ)をかつぐ掃除人とすれ違い、鼻をつまむ人たちの絵は強烈だ。錦絵や浮
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