この国、いや、どの国でも同じだが、いくら国防費をかけても、完璧な安全保障は買えない
米国では次年度の開始を控え、国防費が1兆ドルという途方もない額に近づこうとしている。なぜこんな事態になったのかを理解するためには、トランプ政権が発足した2017年1月にまで遡ることが重要である。
ドナルド・トランプ前大統領は就任と同時に、軍の消耗が激しく、近代的で十分な装備がなく、大規模な即応性の危機に直面しているため、国防費を大幅に引き上げなければならないと主張した。しかし、デイヴィッド・ペトレイアス退役将軍やブルッキングス研究所のマイケル・オハンロンなど専門家が指摘したように、これは誤りであった。即応態勢の危機はなかった。実際、ペトレイアスやオハンロンによれば、トランプが当選したときの米軍の状態は「最高」だった。にもかかわらず、トランプは就任1年目に国防費を710億ドル(11%)増やした。任期を終えるまでに、トランプは国防予算を1000億ドル近く増やし、総額約7400億ドルにした。
トランプの劇的な歳出増加の結果、多くのアナリストや政治指導者は、2020年に民主党が勝利すれば、国防費は削減されるか、最低でも急成長は止まると考えた。実際、2020年の民主党綱領では、国防予算はすでに高すぎると主張され、当時の候補者ジョー・バイデンは、トランプは国防費に関して財政規律をすべて放棄したと主張していた。
最終的にバイデンが選挙に勝利し、民主党が議会を掌握すると、多くのアナリストは年間の国防費を10%も削減し、7000億ドル以下に巻き戻すと考えた。この額は、トランプの第3代国家安全保障顧問でネオコンのタカ派、ジョン・ボルトン大使でさえ、国家の安全を確保するのに十分と主張していた額である。
しかし、常識に反し、これは実現していない。実際、バイデン政権による最初の2年の予算は、トランプの4回の予算より国防費を増加させる結果になりそうだ。
2021年4月、バイデンは国防費を7410億ドルから7530億ドルに増やすことを提案し、2023年度にはさらに270億ドル増やすと予測した。一方、議会はバイデン提案に250億ドルを追加し、2022年度の国防予算は7780億ドルとなり、トランプの前回予算より370億ドル、バイデンの2023年度の支出予測より70億ドル多くなった。
2022年10月1日に始まる2023年度で、バイデン政権は国防費のエスカレーションを続けている。国防費は8,130億ドルである。この増加は、インフレ率の上昇(2023年度予算では国防総省のインフレ率を2.3%と想定)や、別途予算が組まれているウクライナ戦争とは無関係である。
バイデンの予測より430億ドル(6%)の増加であっても、バイデンは党内の国防予算タカ派を満足させるには十分ではなかった。上院と下院の各軍事委員会は、バイデン案に450億ドルと370億ドルをすでに追加している。これにより、2023年度の国防費は8500億ドル以上となり、トランプが最初に編成した2017年度国防予算を2000億ドル以上も上回ることになる。この数字には、国防総省が毎年費やす軍人の退職金の償却費1000億ドルや、退役軍人庁が毎年費やしている3000億ドル以上の経費も含まれていない。インフレ調整、あるいは米国がウクライナに送り、今後も送り続ける装備品の交換のため、数十億ドルの追加が必要である。
国防費は裁量予算の大きな割合を占めているため、気候変動、学生の債務免除、インフラ、インフレ上昇など他の優先事項に集中したいのであれば、最終的には国防費を抑制する必要がある。ジェームズ・インホフ上院議員(共和党)、ジャレッド・ゴールデン下院議員(民主党)、マイケル・ターナー下院議員(共和党)、エレイン・ルリア下院議員(民主党)など、上下両院の軍事委員会の国防タカ派は、中国やロシアの脅威が増している今、それを行う時ではないと主張するだろう。 しかし、中国の年間国防予算は増加しているとはいえ、2970億ドルだ。ロシアは660億ドルに過ぎない。ある試算によれば、米国はすでに世界の他の国々を合わせたのとほぼ同じ規模の国防費を費やしている。
さらに、中国やロシアが米国の国益に対して軍事行動を起こした場合、米国には中国やロシアと異なり、それを支援する同盟国がある。例えば太平洋地域では、米国はインド、オーストラリア、日本を含むQUADの一員であり、3カ国合計で年間2000億ドル近い防衛費を費やしている。ヨーロッパでは、米国はNATO同盟を結んでおり、加盟29カ国はロシアよりはるかに多くの防衛費を費やしている。英国、ドイツ、フランスという欧州における米国の3大同盟国だけでも、ロシアの2倍以上の国防費を毎年支出している。
国防予算削減は国家安全保障を脅かすと言う人もいるかもしれないが、この国が、あるいはどの国がいくら国防費を費やしても、完璧な安全は買えないというのが実情だ。冷戦の最中でも、大統領は、軍が国家を守るために不可欠だと主張するすべてのプログラムに資金を提供することは拒否した。例えば、ドワイト・アイゼンハワー大統領は、州間高速道路システムのような国内プログラムにはすべて資金を提供し、バランス予算案の残りを軍に与えた。その結果、アイゼンハワー政権の終わりには、国防費は朝鮮戦争時の水準から40%減少した。
同様に、レーガン大統領は1期目に国防費を大幅に増やしたが、2期目には深刻化する財政赤字に対処するため、国防費を10%削減した。マーク・ミーリー将軍やマイク・マレン元議長など、現役退役軍人でさえ、赤字の増大は国家安全保障に対する脅威であり、赤字削減プログラムの一環として国防費を削減する必要があると主張しているだ。
国防総省は運営を改善し、無駄を省くことに加え、国家安全保障を脅かさずに特定のプログラムを削減できる。国防総省が大幅な削減を行える主要な分野は少なくとも3つある。まず、核兵器だ。トランプ大統領は、核三本柱の3つすべてを近代化し、新たに2種類の戦術核兵器を製造することを提案した。バイデン大統領は、戦術核兵器を1種類のみ中止する提案をしたが、3本柱すべてを近代化したいとしている。元国防長官で核兵器の専門家であるウィリアム・ペリーが推奨するように、戦術核兵器と陸上兵器の両方を中止すれば、10年間で3000億ドル近くを節約することができる。
第二に、大統領は、沿岸戦闘艦(LCS)のような無関係で旧型となった海軍の艦船を退役させ、節約分を新しい近代的な艦船の建造に充てるべきだ。24 隻の LCS を退役させれば36 億ドルの節約になる。さらに、戦争の英雄で元海軍飛行士の故ジョン・マケイン上院議員(アリゾナ州選出)の助言に従い、130億ドルのフォード級空母のような大型空母の建造をやめるべきだろう。また、海兵隊が水陸両用上陸作戦を放棄する新戦略をとっているので、キャスリーン・ヒックス国防副長官が推奨するように、海軍は大型揚陸強襲艦を削減できる。
3つ目は、F-35戦闘機の生産を現在の年間85機から、年間50機以下に減速することである。そうすることで、年間50億ドルを節約できるだけでなく、エンジニア陣はF-35の問題をより効果的に解決できるようになる。下院軍事委員会の委員長アダム・スミス議員(民主党、ワシントン州)は、このまま製造を続けるのはネズミの穴に金を流し込むようなものだと主張している。
バイデン政権と議会は、上記重要3分野の国防予算を削減するべきだ。そうすることは、国のためになり、国家安全保障を危険にさらさず、米国は、一般のアメリカ国民を助ける別の重要プログラムへの資金供給が可能になる。■
The Case for Reducing Defense Spending | The National Interest
September 9, 2022 Topic: Defense Spending Region: Americas Tags: Defense SpendingMilitaryGreat Power CompetitionU.S. MilitaryF-35
Lawrence J. Korb is a senior fellow at the Center for American Progress and a former Assistant Secretary of Defense.
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