Location via proxy:   [ UP ]  
[Report a bug]   [Manage cookies]                

ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jayne Anne Phillips の “Night Watch”(3)

シンプル・イズ・ベスト。ここではすべての流れが、Endurance was strength. The courage of the lost swelled and moved, a force separating the days, clearing the way.(p.276)という結びのことばにむかって収斂していく。 その流れも煎じつめると、ふ…

Jayne Anne Phillips の “Night Watch”(2)

しばらく前から、去年の国際ブッカー賞受賞作、Jenny Erpenbeck の "Kairos"(2021, 英訳2023)に取り組んでいる。 Erpenbeck(1967 - )はドイツの作家で、彼女の作品は初読かと思ったら、読書リストを検索したところ、"The End of Days"(2012)を読んでい…

Rachel Kushner の “Creation Lake”(3)

去年今年貫く棒の如きもの ご存じ虚子の名句だけど、ぼくも去年の宿題をひとつのこしたまま年が明けてしまった。うん? 句の意味とはちと、ちがいますな。 さて前回(2)では、カルト集団の教祖 Bruno の哲学的瞑想が退屈とクサした表題作だが、あと半分、…

2024年ぼくのベスト小説

今年ももう大晦日。去年の今日はトマム・スキー場にいたので、二年ぶりにわが家で第九を聴いている。 ベートーヴェン : 交響曲 第9番 「合唱」 (Beethoven : Symphony No.9 / Hans Schmidt-Isserstedt | NDR Sinfonieorchester Hamburg) [CD] [Live Recordin…

Rachel Kushner の “Creation Lake”(2)

長い、長すぎる。 400ページちょっとの本だから超大作ではないし、現代の作品ではむしろふつうの分量といえるけど、それでも長い。 そう感じるわけは、ひとえに、本書の主な舞台、南仏の田舎に居住するカルト集団的なコミューンの教祖、Bruno Lacombe の瞑想…

Samantha Harvey の “Orbital”(3)

本書で描かれる国際宇宙ステーションには、日本人宇宙飛行士 Chie も乗りこんでいる。 そのせいかステーションが日本上空を通過する場面もあり、ぼくたちはニヤリとさせられるはず。... Asia slides away to the starboard side. Shikoku and Kyushu pass be…

Samantha Harvey の “Orbital”(2)

えっ、いったいどうなっとんねん!? 本書が今年のブッカー賞を受賞と知ったときは、ほんとうに驚いた。 novella といってもいいほどの薄い本で、取りかかる前は楽勝と思ったものだけど、いざ読みはじめると、舞台の国際宇宙ステーションが地球を三周したあた…

Jayne Anne Phillips の “Night Watch”(1)

今年のピューリツァー賞受賞作、Jayne Anne Phillips の "Night Watch"(2023)を読了。Jayne Anne Phillips(1952 - )は1970年代後半から短編を書きはじめ、"Machine Dreams"(1984 未読)で長編デビュー。第四作 "Lark and Termite"(2009 ☆☆☆★★)は、200…

Anne Michaels の “Held”(3)

肉親の死、家族との別れ。それは文学史上、古典古代の昔から語り継がれてきた永遠のテーマのひとつであり、実人生でも、いつかはだれでも経験する万人共通のテーマである。 ゆえにこれを扱った作品なら必ず読者の共感を呼びそうなものだが、やはり出来不出来…

Anne Michaels の “Held”(2)

まず冒頭から。 We know life is finite. Why should we believe death lasts forever? * The shadow of a bird moved across the hill; he could not see the bird. * Certain thoughts comforted him:/ Desire permeates everything; nothing human can be…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(4)

先日 "Creation Lake" をやっと読みおえ、毎年恒例のブッカー賞ランキングがほぼ完成。あとは総括のコメントを若干補足するだけとなった。これからしばらく、その下書きのような記事がつづきそうだ。 まずくりかえしになるが、ぼくの色眼鏡によると、今年は…

Rachel Kushner の “Creation Lake”(1)

数日前、今年のブッカー賞最終候補作、Rachel Kushner の "Creation Lake"(2024)を読了。これは今年の全米図書賞一次候補作でもあった。 Kushner(1968 - )がブッカー賞ショートリストにノミネートされたのは、"The Mars Room"(2018 ☆☆☆★)以来二度目。…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(3)

本書には前回(2)で挙げたとおり、美点がいくつもある。ぼくの評価も☆☆☆★★。双葉十三郎のことばをもじっていえば、「読んでおいていい作品」だ。 なかでもコロナ禍をいち早く採りあげ、あの状況の核心のひとつに迫ったことは、現代文学のひとつの生きのこ…

2024年全米図書賞発表

本日(ニューヨーク時間20日)、今年の全米図書賞が発表され、小説部門で Percival Everettの "James"(2024)がみごと栄冠に輝いた。未読の最終候補作もあるが、まずは順当な結果ではなかろうか(☆☆☆★★)。 既読の最終候補作は Hisham Matar の "My Friends…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(2)

前回の記事、お気づきでしょうが、要するに「今年のブッカー賞はすこぶる低調だった」、さらには「文学の水準が低下した」というだけで、その原因についてはなにもふれていない。 これから少しずつ、受賞作・候補作の落ち穂ひろいをしながら考えてみよう。(…

2024年ブッカー賞ぼくのランキング

この秋口から喘息、さらには腰痛に悩まされ、超絶不調。なにを読んでいても、ちょっと面白くないなと思っただけで小休止、あげくに大休止。おかげで例年と異なり、ブッカー賞の発表当日になっても私的ランキングを公開できなかった。(そうそう、去年は去年…

Samantha Harvey の “Orbital”(1)

チンタラ読んでいた Samantha Harvey の "Orbital"(2023)が今年のブッカー賞を受賞。しぶしぶペースを上げ、やっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。 Orbital: Winner of the Booker Prize 2024 (English Edition) 作者:Harvey, Samantha Vint…

Anne Michaels の “Held”(1)

数日前、今年のブッカー賞最終候補作、Anne Michaels の "Held"(2023)を読了。Anne Michaels(1958 - )はカナダの詩人・小説家で、本書は小説第三作。第一作の "Fugitive Pieces"(1996 ☆☆☆★★★)は1997年のオレンジ賞(現女性小説賞)受賞作で、『儚い光…

Percival Everett の “James”(4)

この一週間、ぜんそくが再発し絶不調。発作が起きると眠れず、朝から一日ボーっとしている。 のこっていたテオフィリンを服用したところ、古すぎたのが災いしてか、コーヒーとの飲みあわせがよくなかったのか、気分がわるくなり、立ちくらみも。 おかげで読…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(1)

きのう、今年のブッカー賞最終候補作、Charlotte Wood の "Stone Yard Devotional"(2023)を読了。Charlotte Wood(1965 - )はオーストラリアの作家で、デビュー作は "Pieces of a Girl" (1999 未読)。one of Australia's most original and provocative w…

Percival Everett の “James”(3)

あらためて "Nostromo"(1904)をボチボチ読んでいたが、みたび中断。きのう届いた "Stone Yard Devotional"(2023)に乗り換えた。いまチェックすると、ブッカー賞レースの3番から2番人気に浮上。 作者 Charlotte Wood のことはまったく知らなかった。Wik…

Percival Everett の “James”(2)

もっかブッカー賞レースの下馬評はこうなっている。1. James2. Orbital3. Stone Yard Devotional4. Held5. Creation Lake6. The Safekeep 表題作はロングリストの発表前から一番人気。その秘密は、ひとつには、これが『ハックルベリー・フィンの冒険外伝』だ…

Hisham Matar の “My Friends”(4)

ああ、残念! "My Friends"(☆☆☆★★)、ちょっと期待していたのにショートリストから漏れてしまった。 懸念材料はあった。(2)で述べたとおり、「一朝有事のさい、自由という理想に殉じて帰国すべきか、それとも移住先で確立した地位を守り、勝ち得た信頼に…

Percival Everett の “James”(1)

きのう、今年のブッカー賞候補作 Percival Everett の “James” (2024)を読了。Percival Everett(1956 - )は多作家で知られ、本書は長編24冊目。短編集も4冊上肢している。22冊目の長編 “The Trees”(2021 ☆☆☆★)は2022年のブッカー賞最終候補作だった。…

Hisham Matar の “My Friends”(3)

今回もまず、現地ファンの下馬評から。少し変化があり、本命 “James”、対抗 “My Friends” に固定。単穴は集計方法のちがいにより、“Creation Lake” か “Held”。 ぼくはいま “James” を読んでいるところだけど、たしかに “My Friends” といい勝負だ。どっちが…

Hisham Matar の “My Friends”(2)

さていま、あらためて現地ファンの下馬評をチェックしてみると、本書は Percival Everett の “James” と並んで相変わらず首位を併走。三位も Richard Powers で変わらない。 本来ならツマミ食いは禁物で、たとえハズレでも、なぜそれが凡作かと考えることで…

Hisham Matar の “My Friends”(1)

今年のブッカー賞候補作、Hisham Matar の “My Friends"(2024)を読了。周知のとおり、Hisham Matar は2006年ブッカー賞最終候補作、“In the Country of Men”(2006 ☆☆☆★★)でデビュー。表題作は今年のオーウェル賞受賞作でもある。さっそくレビューを書い…

"My Friends" 雑感

やっと現代文学にもどってきた。現代の場合なら、なにから読むか、などと迷うことはない。深く考えず、ちょっとでも興味を惹かれたものから手に取ればいいだけだ。 ぼく自身はこの時期、なんといってもブッカー賞候補作。旧大英帝国ならびにアメリカ産の新馬…

ぼくの古典巡礼(1)

今年は年始からずっと十九世紀の古典巡礼に出かけていたが、さすがに疲れた。先月の Wilkie Collins でしばらくお休みにしよう。 訪れた巡礼地はつぎのとおり。 ぼくが海外の純文学にハマったのは、なんどか書いたが、"Anna Karenina"(1873 ☆☆☆☆★★)を Peng…

Wilkie Collins の “The Woman in White”(4)

長い夏休みだった。 年金生活といえば毎日が夏休みのようなものだけど、それにしても知的怠惰の日々だった。 表題作を読みおえたあと、Joseph Conrad の “Nostromo”(1904)に取りかかったのはいいが、四分の一くらいで挫折。話がなかなか進まないのでシビレ…