あらためて "Nostromo"(1904)をボチボチ読んでいたが、みたび中断。きのう届いた "Stone Yard Devotional"(2023)に乗り換えた。いまチェックすると、ブッカー賞レースの3番から2番人気に浮上。
作者 Charlotte Wood のことはまったく知らなかった。Wiki によるとオーストラリアの作家(1965 - )で、デビュー作は "Pieces of a Girl"(1999 未読)。one of Australia's most original and provocative writers との評もあり、"Stone Yard Devotional" は7作目だそうだ。
出来は? ううむ、いまのところ、物語性という点にしぼれば、表題作(2024)のほうがおもしろいです。あちらは、ひと口にいうと、最初から最後まで「動」。早々に主人公の黒人奴隷 James の逃避行がはじまり(p.35)、嵐のさなか、James がガラガラヘビに咬まれるなど(p.47)、いろいろな事件が起きてテンポよく進む。
一方、"Stone Yard Devotional" は「静」。開巻、「わたし」はある修道院に宿泊することに。「わたし」が何者で、どんな理由で滞在し、どこの国の修道院なのかも当初はわからない。そこにはただ静寂があるだけ。It's shockingly peaceful.(p.12) In the contemporary world, this kind of stillness feels radical. Illicit.(p.15)
もちろん謎はしだいに解け、沈黙もやぶられる。しみじみとした味わいで読ませるが、回想がまじるなど定石どおりの展開で、滞在にいたる経緯も、まあ、意外なものではない。後半どんなツイストが待っているか、それしだいでしょうな、相変わらず1番人気の "James" を上回るかどうかは。
その "James" だが、これはぼくの数え間違いでなければ、Percival Everett の24作目の長編。2022年のブッカー賞最終候補作 "The Trees"(2021 ☆☆☆★)は22作目。多作家である。
"The Trees" は「中盤までよく出来たユーモア怪奇小説のおもむき」で、なかなかおもしろかった、とは思い出した話。じつは内容どころか、Everett の旧作であることさえ忘れていた。
彼の守備範囲はひろく、Wiki によると、numerous genres such as western fiction, mysteries, thrillers, satire and philosophical fiction をものしてきたらしい。博識でもあり、Everett earned a bachelor of philosophy degree from the University of Miami. He studied a broad variety of topics including biochemistry and mathematical logic. In 1982, he earned an M.A. in fiction from Brown University.
これに加え、彼は「アメリカにおける人種差別という、もはや文学史的には陳腐とさえいえるテーマから」、"The Trees" ではユーモア怪奇小説に挑戦。"James" では『ハックルベリー・フィンの冒険』の本歌取りを試み、かなり成功している。どんな作家でも創意工夫を凝らすものだが、Everett は経験豊富なアイデアマンといっていいだろう。
で、そのアイデアから生まれた作品は感動的なものかどうか。そこですな、問題は。(つづく)