正統派ファンタジーから「なろうもの」でくくられそうな定番ネタの亜流、王道パターンをひねったものなど、今年もバリエーション豊かな作品が勢揃いです。SF系が目立ってきたのも特色。編集者はちゃんとメカとか渋オジも描ける絵師を手札に入れておこうね。
『不良聖女の巡礼』 Awaa
魔物を生み出す瘴気から世界を救うはずの聖女候補者の1人、リトル・キャロルは聖なる力の代わりに『腐食の力』を授かり、聖女に相応しくないと追放されてしまう。もともとなりたくてなったわけではない聖女候補生。ほとぼりが醒めるまで森の奥でひっそり暮らしていようと思ったキャロルだったが、すぐにそうはいかなくなった。持ち込んだ煙草が切れ、町まで出ないといけなくなったのだ……。
追放された平民出身の聖女候補生。実は彼女こそ5人の候補生の中で最強の実戦派だったのです……という、はぐれ聖女の世直し旅です。森の中で動物たちと暮らしているシーンだけならディズニープリンセスみたいなものですが、すぐに煙草がない……ですもん。無頼系ヒロイン。
『天才魔術師を弟に持つと人生はこうなる』 江崎乙鳥
12歳までに特殊能力〈神の恩恵〉が人々に発現する世界。白髪を村人に疎まれ、山中で狩人をしているルカは、自分の恩恵の特異性を認識しつつ平凡なものと誤解されているのを良しとしていた。だが、弟リヒトに稀少な〈魔術使い〉の恩恵が発現したことで一変。村を出て魔術学校に通うことになったリヒトがルカの同行を希望し、本来なら貴族が利用する「従者枠」を使って巻き込んだのだ……。
兄大好きの天才と弟大好きな弓名人がさまざまな事件に巻き込まれる学園冒険譚。
『極東救世主伝説』 仏ょも
第二次大戦末期の1943年に召喚された悪魔によって、欧州が悪魔の軍勢に支配されてもう100年経つが戦争は未だ続いている。軍学校に進学した川上啓太は、従来とはコンセプトが異なる異形の魔装機体に適合し、前線に投入されることになってしまったのだが……。
アーマードコア・マニアが転生し、操作方法がまったく違う新型機をなぜか巧く操縦できてしまう話。PSゲーム『ガンパレード・マーチ』に似た設定だなと思ったら、デザイナーの芝村さんの推薦コメント付き。
『魔法討伐から半世紀、今度は名もなき旅をします。』 じゃがバター
魔王討伐から50年。勇者パーティーの戦士だった剣聖スイルーンももう72歳。だが、魔王討伐から半世紀を祝うパーティーのための衣装の仮縫いの日、スイルーンは白い光に包まれたかと思うと魔王討伐当時の姿に若返っていた。女神ラーヌの古い約定が果たされるときが来たのだ……。
じじいののんびり一人旅のはずが、仕事をほっぽり出してじじいがもう1人勝手に付いてきて、さらにかわいい孫娘たちが追いかけてきて、気がつけば勇者、魔女、神官、剣士に聖獣が加わって旅の仲間がそろってしまいます。そんな一行が、魔王と勇者の戦いが終わって(ほぼ)平和になった世界を旅していく物語です。
『はじめてのゾンビ生活』
もはや人類は新人類であるゾンビに圧され、滅びつつあるが、そのことを旧人類側がむしろ歓迎している風潮にある。人間がゾンビになるというのはもはや珍しいことではなく、むしろめでたいことなのだ。家族だってみんなゾンビだし、ゾンビになったことが確認されると役場からリーフレットがもらえる。……。
ある日突然、人間がゾンビと化すようになってから、それが当たり前になりつつある時代、むしろ家族にゾンビの1人もいないと恥ずかしい時代を経由して、旧人類がすべて死に絶えて、ゾンビとロボットだけの時代になったその先まで、高校生から人形師の老人、宇宙飛行士、弁当屋まで、さまざまな時代のさまざまな立場の人々の人生のパッチワークで組み上げられた千年ばかりの人類史です。
『英雄その後のセカンドライフ』 芝村裕吏
エルフとの戦争で最もエルフを殺した男、海軍提督シレンツィオ・アガタはあまりに活躍しすぎたので、無理矢理貴族に任じられて艦隊から引き離されてしまった。ところがなにをどう間違えたのか、領地貴族のやり方を学びに留学するはずが、エルフの国の幼年学校に送り込まれてしまった。人間の31歳はエルフなら8歳相当ということで誰も疑問を抱かなかったのだ……。
戦争で誰よりもエルフを殺した伝説の天才海軍提督が、羽妖精(ピクシー)にまとわりつかれながらエルフの少年少女相手に飯を作っている話。それがちゃんと英雄譚として語り継がれるようになるのだから不思議な物語なのだ。
『千早ちゃんの評判に深刻なエラー』 氷純
リモート操作の人型機械アクタノイドを使って異世界の開拓が始まった時代。コミュ障過ぎて就職に失敗した千早は、このロボットのアクターに人生の活路を見いだした……。
工業高校卒のコミュ障女子がレンタル装備で、機体を喪失したら弁償、壊したら修理費、汚したら清掃費と、赤字が怖くて無我夢中で足掻いているだけなのに、その死に物狂いの一手が大戦果を上げ続け、他人と絶対につきあわないこともあって、気がつけばプロの傭兵、劇場型愉快犯、最凶の爆弾魔と危険視されるようになって頭を抱える話。
『肥満令嬢は細くなり、後は傾国の美女(物理)として生きるのみ』 八針来夏
公爵令嬢ローズメイは、醜女ながら武勇に優れた将でもある。その彼女が王都に呼び出され、衆目の中に王子から婚約破棄を告げられるのだが、それは国境の軍団を率いる勇将であるローズメイを最前線から引き離して謀殺するための隣国の陰謀だった……。
「公爵令嬢(極)」とか「傾国の美女(物理)」とかカッコ書きがつくと、なんかワクワクするね。主人公ローズメイに討伐された盗賊団の生き残りが仲間になる下りとか、ドラゴンへの生け贄にされるところを助けられた少女が以後「生贄ちゃん」と呼ばれ続けるあたりが好き。とりあえず敵はフルボッコする話。
『ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双』 サイリウム
転生したのはダチョウ獣人。体型は人間の幼児、温厚で善良だけれど視力は良いし体力もむちゃくちゃある。ただし脳味噌は小さくてアホで大飯ぐらい。そんな獣人に転生してしまい、前世が人間だったのでダチョウよりは賢いといつしか群の長になってしまい……。
凶悪なモンスターが跋扈する高原でのんびり暮らしていたけれど、たまたま秘境探検に来た冒険者パーティーを助けたことから人里に下りることになり……という、TSケダモノ転生もの。アホかわいらしいダチョウ獣人だけれど、その蹴りひとつで盾装備の騎士が真っ二つになるくらいに強いので、描写はマイルドだけどけっこう血みどろ。
『逃亡賢者(候補)のぶらり旅』 BPUG
異世界の勇者召喚に巻き込まれた中学2年の市川和泉と32歳になる食品バイヤーの高田遥だったが、その召喚の場に胡散臭さを感じるや、勇者だ賢者だともてはやされる高校生集団から離れてこっそり逃げ出した……。
見知らぬ土地で美味いものと安住の土地を探して放浪する凸凹コンビの道中記。さまざまな人との出会いや別れがあり、愉しく読めて元気になる冒険譚。
『最強ポーター令嬢は好き勝手に山で遊ぶ』 富士伸太
貴族令嬢のカプレーは「つまらない女」と言われ、婚約破棄された。婚約者は既に新しい女マーガレットとデキていたのだ。これ幸いと学校も退学して彼氏にヤメさせられていた趣味の登山を愉しむことにした。とはいえ、この世界の山には危険な魔物が存在し、屈強な冒険者でなければ攻略できないし、登山用のアイテムも未発達だ。カプレーは慰謝料代わりにマーガレットに登山用の道具一式の開発に金を出させ、気がつけば2人で山に登っていた……。
お気楽極楽な登山ラノベ。山の状況に合わせて道具を変えつつ、蔓延るモンスターを殺生しないで山頂を目指します。2人の少女、オコジョとカピバラのバディ小説でもあります。
24年は『本好きの下剋上』や『マスケットガールズ!』が本編完結。個人的には感慨深い年でした。年末には『おっさん村長の辺境飯』も登場。読み切れず、いろいろ積ん読の山が高くなりました。積ん読ってのは貯金みたいなもので、我が家が丸ごとタイムスリップしようが周囲がゾンビだらけで外出できなくなっても「とりあえず読む本はあるし」と言えるのは強みです。お金の損得で言うなら、「今は読む暇も兼ねに余裕もないからまた今度にしよう」と買うのを見送った本が、いざ読みたい時には店頭・出版社ともに在庫なしで700円の本が中古プレミアム価格で2000円とか5000円とか値付けされてたりしますから、銀行金利よりも遙かに有利な投資ですよ。
それでは皆サン、よいお年をお迎えください。
『不良聖女の巡礼』 Awaa
魔物を生み出す瘴気から世界を救うはずの聖女候補者の1人、リトル・キャロルは聖なる力の代わりに『腐食の力』を授かり、聖女に相応しくないと追放されてしまう。もともとなりたくてなったわけではない聖女候補生。ほとぼりが醒めるまで森の奥でひっそり暮らしていようと思ったキャロルだったが、すぐにそうはいかなくなった。持ち込んだ煙草が切れ、町まで出ないといけなくなったのだ……。
追放された平民出身の聖女候補生。実は彼女こそ5人の候補生の中で最強の実戦派だったのです……という、はぐれ聖女の世直し旅です。森の中で動物たちと暮らしているシーンだけならディズニープリンセスみたいなものですが、すぐに煙草がない……ですもん。無頼系ヒロイン。
『天才魔術師を弟に持つと人生はこうなる』 江崎乙鳥
12歳までに特殊能力〈神の恩恵〉が人々に発現する世界。白髪を村人に疎まれ、山中で狩人をしているルカは、自分の恩恵の特異性を認識しつつ平凡なものと誤解されているのを良しとしていた。だが、弟リヒトに稀少な〈魔術使い〉の恩恵が発現したことで一変。村を出て魔術学校に通うことになったリヒトがルカの同行を希望し、本来なら貴族が利用する「従者枠」を使って巻き込んだのだ……。
兄大好きの天才と弟大好きな弓名人がさまざまな事件に巻き込まれる学園冒険譚。
『極東救世主伝説』 仏ょも
第二次大戦末期の1943年に召喚された悪魔によって、欧州が悪魔の軍勢に支配されてもう100年経つが戦争は未だ続いている。軍学校に進学した川上啓太は、従来とはコンセプトが異なる異形の魔装機体に適合し、前線に投入されることになってしまったのだが……。
アーマードコア・マニアが転生し、操作方法がまったく違う新型機をなぜか巧く操縦できてしまう話。PSゲーム『ガンパレード・マーチ』に似た設定だなと思ったら、デザイナーの芝村さんの推薦コメント付き。
『魔法討伐から半世紀、今度は名もなき旅をします。』 じゃがバター
魔王討伐から50年。勇者パーティーの戦士だった剣聖スイルーンももう72歳。だが、魔王討伐から半世紀を祝うパーティーのための衣装の仮縫いの日、スイルーンは白い光に包まれたかと思うと魔王討伐当時の姿に若返っていた。女神ラーヌの古い約定が果たされるときが来たのだ……。
じじいののんびり一人旅のはずが、仕事をほっぽり出してじじいがもう1人勝手に付いてきて、さらにかわいい孫娘たちが追いかけてきて、気がつけば勇者、魔女、神官、剣士に聖獣が加わって旅の仲間がそろってしまいます。そんな一行が、魔王と勇者の戦いが終わって(ほぼ)平和になった世界を旅していく物語です。
『はじめてのゾンビ生活』
もはや人類は新人類であるゾンビに圧され、滅びつつあるが、そのことを旧人類側がむしろ歓迎している風潮にある。人間がゾンビになるというのはもはや珍しいことではなく、むしろめでたいことなのだ。家族だってみんなゾンビだし、ゾンビになったことが確認されると役場からリーフレットがもらえる。……。
ある日突然、人間がゾンビと化すようになってから、それが当たり前になりつつある時代、むしろ家族にゾンビの1人もいないと恥ずかしい時代を経由して、旧人類がすべて死に絶えて、ゾンビとロボットだけの時代になったその先まで、高校生から人形師の老人、宇宙飛行士、弁当屋まで、さまざまな時代のさまざまな立場の人々の人生のパッチワークで組み上げられた千年ばかりの人類史です。
『英雄その後のセカンドライフ』 芝村裕吏
エルフとの戦争で最もエルフを殺した男、海軍提督シレンツィオ・アガタはあまりに活躍しすぎたので、無理矢理貴族に任じられて艦隊から引き離されてしまった。ところがなにをどう間違えたのか、領地貴族のやり方を学びに留学するはずが、エルフの国の幼年学校に送り込まれてしまった。人間の31歳はエルフなら8歳相当ということで誰も疑問を抱かなかったのだ……。
戦争で誰よりもエルフを殺した伝説の天才海軍提督が、羽妖精(ピクシー)にまとわりつかれながらエルフの少年少女相手に飯を作っている話。それがちゃんと英雄譚として語り継がれるようになるのだから不思議な物語なのだ。
『千早ちゃんの評判に深刻なエラー』 氷純
リモート操作の人型機械アクタノイドを使って異世界の開拓が始まった時代。コミュ障過ぎて就職に失敗した千早は、このロボットのアクターに人生の活路を見いだした……。
工業高校卒のコミュ障女子がレンタル装備で、機体を喪失したら弁償、壊したら修理費、汚したら清掃費と、赤字が怖くて無我夢中で足掻いているだけなのに、その死に物狂いの一手が大戦果を上げ続け、他人と絶対につきあわないこともあって、気がつけばプロの傭兵、劇場型愉快犯、最凶の爆弾魔と危険視されるようになって頭を抱える話。
『肥満令嬢は細くなり、後は傾国の美女(物理)として生きるのみ』 八針来夏
公爵令嬢ローズメイは、醜女ながら武勇に優れた将でもある。その彼女が王都に呼び出され、衆目の中に王子から婚約破棄を告げられるのだが、それは国境の軍団を率いる勇将であるローズメイを最前線から引き離して謀殺するための隣国の陰謀だった……。
「公爵令嬢(極)」とか「傾国の美女(物理)」とかカッコ書きがつくと、なんかワクワクするね。主人公ローズメイに討伐された盗賊団の生き残りが仲間になる下りとか、ドラゴンへの生け贄にされるところを助けられた少女が以後「生贄ちゃん」と呼ばれ続けるあたりが好き。とりあえず敵はフルボッコする話。
『ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双』 サイリウム
転生したのはダチョウ獣人。体型は人間の幼児、温厚で善良だけれど視力は良いし体力もむちゃくちゃある。ただし脳味噌は小さくてアホで大飯ぐらい。そんな獣人に転生してしまい、前世が人間だったのでダチョウよりは賢いといつしか群の長になってしまい……。
凶悪なモンスターが跋扈する高原でのんびり暮らしていたけれど、たまたま秘境探検に来た冒険者パーティーを助けたことから人里に下りることになり……という、TSケダモノ転生もの。アホかわいらしいダチョウ獣人だけれど、その蹴りひとつで盾装備の騎士が真っ二つになるくらいに強いので、描写はマイルドだけどけっこう血みどろ。
『逃亡賢者(候補)のぶらり旅』 BPUG
異世界の勇者召喚に巻き込まれた中学2年の市川和泉と32歳になる食品バイヤーの高田遥だったが、その召喚の場に胡散臭さを感じるや、勇者だ賢者だともてはやされる高校生集団から離れてこっそり逃げ出した……。
見知らぬ土地で美味いものと安住の土地を探して放浪する凸凹コンビの道中記。さまざまな人との出会いや別れがあり、愉しく読めて元気になる冒険譚。
『最強ポーター令嬢は好き勝手に山で遊ぶ』 富士伸太
貴族令嬢のカプレーは「つまらない女」と言われ、婚約破棄された。婚約者は既に新しい女マーガレットとデキていたのだ。これ幸いと学校も退学して彼氏にヤメさせられていた趣味の登山を愉しむことにした。とはいえ、この世界の山には危険な魔物が存在し、屈強な冒険者でなければ攻略できないし、登山用のアイテムも未発達だ。カプレーは慰謝料代わりにマーガレットに登山用の道具一式の開発に金を出させ、気がつけば2人で山に登っていた……。
お気楽極楽な登山ラノベ。山の状況に合わせて道具を変えつつ、蔓延るモンスターを殺生しないで山頂を目指します。2人の少女、オコジョとカピバラのバディ小説でもあります。
24年は『本好きの下剋上』や『マスケットガールズ!』が本編完結。個人的には感慨深い年でした。年末には『おっさん村長の辺境飯』も登場。読み切れず、いろいろ積ん読の山が高くなりました。積ん読ってのは貯金みたいなもので、我が家が丸ごとタイムスリップしようが周囲がゾンビだらけで外出できなくなっても「とりあえず読む本はあるし」と言えるのは強みです。お金の損得で言うなら、「今は読む暇も兼ねに余裕もないからまた今度にしよう」と買うのを見送った本が、いざ読みたい時には店頭・出版社ともに在庫なしで700円の本が中古プレミアム価格で2000円とか5000円とか値付けされてたりしますから、銀行金利よりも遙かに有利な投資ですよ。
それでは皆サン、よいお年をお迎えください。