「生きている事は体に良くない。グラマン"トラッカー"や"コルセア"なんか、一番体に良くない」
日米非公式会談後の雑談における自衛隊航空集団司令、末富海将の言葉。
突如東京が巨大な雲に包まれ連絡が途絶した。人の行き来はもちろん、通信やレーダー波すら通さない雲に、日本は首都機能を完全に喪失してしまう。雲はいつ消えるのか、消えることがあるのか、それすら判らないまま雲の外に取り残された人々は、東京の存在しない日本を緊急に構築しなければならなかった。
こんな導入部から始まったのが、中日新聞の連載小説『首都消失』。
元ネタは短編『物体O』。突然、東京を巨大なリングが取り囲み、交通が遮断されたことによるドタバタを描いた物語。それを膨らませ、東京という存在がいきなり消えてしまったとき、政策決定のシステムは、外交関係はどうなるのか、各地に配備されている自衛隊と在日米軍の関係は、物流・出版は……と、政治・経済・軍事面をしっかり描き込んだのが『首都消失』ということになります。(結末を見れば判るように)SFというより、ポリティカル・シミュレーション小説。
取り残された普通の人たちが「このままでは日本という国が無くなってしまう!」と、学者から新聞記者まで、それぞれが出来る限りのことを死にものぐるいで頑張る話です。そこが面白い。
だから、同じ『首都消失』でも映画版はつまらない。特撮がちゃちとかいうのではなく、肝心の普通の人々が限界まで知恵をめぐらせ、身体をはって頑張る姿が描けてないから。鮎食って、野外ライブで大騒ぎして、竹竿を軽トラに積んで特攻かい!?(それはあさりよしとおだってば)(2007-09-23)
小松左京の作品は、アイデアとひねりの利いた短編より、長編の、それもパニック小説っぽいものが好きです。
細菌兵器で南極以外の人類が滅んでしまった『復活の日』、地殻変動で日本列島が崩壊していく『日本沈没』、謎の障壁によって東京が孤立してしまう『首都消失』、ブラックホールが太陽系に飛び込んでくる『さよならジュピター』……。
舞台背景とか発端こそSF的なアイデアで構成されていますが、そこから先は常に人間ドラマです。今までの常識も組織もあてにならない状況に陥った主人公たちが、どうやって体制を整え、困難な状況に立ち向かっていくかという……まあ、プロジェクト×的な世界。
たとえぱ『首都消失』なら、突然出現した障壁が東京を包み込み、いっさいの連絡が取れなくなってしまうというところから話は始まりますが、物語は「謎の障壁の正体は何か、誰かが作ったものか、どうやったら突破できるのか」という話が中心にはならないんですよね。首都機能を突然奪われた日本という国が、いかに東京抜きで政治行政を再建し、各国との外交関係を維持し、経済活動を持ちこたえさせるかという課題がテーマであり、そのために在野に埋もれていた人材や技術を引っ張り出してくる過程が面白いのですね。
けれども映画版はそういう点の描写が疎かにされていて、半端な出来です。鮎食ったりロックを演奏したりオンボロトラックで突入する以前にやることがあるだろうが!……というのが感想(監督はどういう映画にしたかったんでしょうね)。(2007-08-25)
【首都消失】【小松左京】【災厄】【IT】【危機管理】
日米非公式会談後の雑談における自衛隊航空集団司令、末富海将の言葉。
突如東京が巨大な雲に包まれ連絡が途絶した。人の行き来はもちろん、通信やレーダー波すら通さない雲に、日本は首都機能を完全に喪失してしまう。雲はいつ消えるのか、消えることがあるのか、それすら判らないまま雲の外に取り残された人々は、東京の存在しない日本を緊急に構築しなければならなかった。
こんな導入部から始まったのが、中日新聞の連載小説『首都消失』。
元ネタは短編『物体O』。突然、東京を巨大なリングが取り囲み、交通が遮断されたことによるドタバタを描いた物語。それを膨らませ、東京という存在がいきなり消えてしまったとき、政策決定のシステムは、外交関係はどうなるのか、各地に配備されている自衛隊と在日米軍の関係は、物流・出版は……と、政治・経済・軍事面をしっかり描き込んだのが『首都消失』ということになります。(結末を見れば判るように)SFというより、ポリティカル・シミュレーション小説。
取り残された普通の人たちが「このままでは日本という国が無くなってしまう!」と、学者から新聞記者まで、それぞれが出来る限りのことを死にものぐるいで頑張る話です。そこが面白い。
だから、同じ『首都消失』でも映画版はつまらない。特撮がちゃちとかいうのではなく、肝心の普通の人々が限界まで知恵をめぐらせ、身体をはって頑張る姿が描けてないから。鮎食って、野外ライブで大騒ぎして、竹竿を軽トラに積んで特攻かい!?(それはあさりよしとおだってば)(2007-09-23)
小松左京の作品は、アイデアとひねりの利いた短編より、長編の、それもパニック小説っぽいものが好きです。
細菌兵器で南極以外の人類が滅んでしまった『復活の日』、地殻変動で日本列島が崩壊していく『日本沈没』、謎の障壁によって東京が孤立してしまう『首都消失』、ブラックホールが太陽系に飛び込んでくる『さよならジュピター』……。
舞台背景とか発端こそSF的なアイデアで構成されていますが、そこから先は常に人間ドラマです。今までの常識も組織もあてにならない状況に陥った主人公たちが、どうやって体制を整え、困難な状況に立ち向かっていくかという……まあ、プロジェクト×的な世界。
たとえぱ『首都消失』なら、突然出現した障壁が東京を包み込み、いっさいの連絡が取れなくなってしまうというところから話は始まりますが、物語は「謎の障壁の正体は何か、誰かが作ったものか、どうやったら突破できるのか」という話が中心にはならないんですよね。首都機能を突然奪われた日本という国が、いかに東京抜きで政治行政を再建し、各国との外交関係を維持し、経済活動を持ちこたえさせるかという課題がテーマであり、そのために在野に埋もれていた人材や技術を引っ張り出してくる過程が面白いのですね。
けれども映画版はそういう点の描写が疎かにされていて、半端な出来です。鮎食ったりロックを演奏したりオンボロトラックで突入する以前にやることがあるだろうが!……というのが感想(監督はどういう映画にしたかったんでしょうね)。(2007-08-25)
【首都消失】【小松左京】【災厄】【IT】【危機管理】
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