@ミステリー殺人事件を検証するこの小説(ジュリア・ウオレス殺し)はノンフィクション事件であり、要は「犯人は夫で、本当に殺害したのか」という確たるアリバイが無いまま結審された裁判である。もし夫が殺害したのなら、その殺害の目的(金銭でも、争いでもない)に全く説明がなく問われ続けた事だった。 神のみぞ知る真実は本人の病死で葬られてしまった事件だ。
『顔のない男』ドロシー・セイヤーズ
「概要」英国黄金時代を担ったミステリー作家の女王セイヤーズ。本書は特異な動機の究明が余韻を残す表題作、不思議な遺言の謎を解く「因業じじいの遺言」、幻想味豊かな「歩く塔」など、才気横溢のピーター卿譚七編に、セイヤーズが現実の殺人事件を推理する興味津々の犯罪実話と、探偵小説論の礎をなす歴史的名評論を併載ーピーター卿の事件簿
ー顔のない男
顔が潰されたような無惨な姿で見つかった死体。自画像を依頼した本人が嫌ったことでそれを書いた画家に容疑が動く
ー囚業じじいの遺言
叔父の遺言が2通あり、後の遺言は館の何処かに隠されており、探す。最初の遺言からクロスワード的謎を解く事になる。
ージョーカーの使い道
宝石を盗んだ男とのトランプの賭け。勝負に勝つことで盗まれた宝石を取り返す条件でトランプゲームを開始。八百長を見抜くことで勝を得る。
ー趣味の問題
本物と偽物の2人のピーターが登場。いかに偽物を炙り出すか、ワインの評価で挑戦。
ー証拠に歯向かって
自宅の車の中で自殺か。他人に見せかけるために歯の治療までさせ他犯罪。
ー歩く塔
チェスの相手と幻想を見る。待ち侘びた友人は殺害されていた。
ージュリア・ウオレス殺し (アリバイ証言の裏付)
若い2人暮らしの夫婦で妻が殺害される。18年間子供もいない生活で平凡な保険セールスの夫と暮らしていた。周りの評判も悪くなく中の良い夫婦だったとの証言が多く、犯人は夫なのかそれとも外部の人間だったのか意外性を世間に醸し出した。夫のアリバイを検証しても、確たる証拠は見つからず、ドアの間抜き、外出した時間帯と殺害のあった時間には疑問が残ったがそれを裏付けるアリバイもなく裁判となった。陪審員の結審は有罪となったが、最高裁で無罪と判決を言い渡され無罪放免となる。その2年後夫は孤独とがんで亡くなった。夫婦の間での争論は無く、金目当ての犯罪でもなく、外部者の犯罪も証拠がなく、裁判官は一瞬の狂気であったという説も残した。
ー探偵小説論
探偵小説等が盛んになり始めたのは1841年~1845年、特に天才エドガー・アラン・ポオである。純探偵から純恐怖に始まる謎物語~ミステリー~恐怖。
1927年ドイツの作家リオン・フォイヒトバンガーによるドイツ、英国、フランスの国民性を比較
・英国人は本を読むときでも物的な正確さを好む(指紋や血痕、日付、時刻、場所などを重視)
・ドイツ人やフランス人はそれには興味を示さず、むしろ心的な真実を求める
(人物描写を大胆に簡略化する英国に比べ詳細に描く)